マーゴット・クラソイェヴィッチ・アーキテクツのデザインによる再生エネルギーを活用した発電リゾート
国際的なデザインスタジオ、マーゴット・クラソイェヴィッチ・アーキテクツが設計デザインを手がけた「ハイドロキネティック・エネルギー・リゾート」は、再生可能エネルギーを利用した発電機能が備わったリゾート施設。サーフィンやウォーターアクティビティ、再生可能エネルギー開発の場として人気のある、スコットランド北西部の海岸に位置し、観光とクリーンな電気エネルギー発電を融合させている。
リゾート全体は、中空の六角形の柱でできた人工的な浮遊プラットフォーム上にあり、垂直の二重反転式タービンを搭載している。タービンの形状は、周囲の火山性玄武岩の海岸線からインスピレーションを得ており、高さの異なる岩のプールを構築している。中空のため、潮が満ちると海水が入ってタービンを回し、発電。水位が下がると反対方向に回すことができ、よりダイナミックかつ効率的に潮汐エネルギーを活用できるようになっている。
この人工浮体式タービンの特徴は、船の舳先のように突き出た外観である。水平から垂直の状態に反転させることができる海洋調査船(Flipboat)に着想を得てデザインされた。この形状が波を受け止め、海水を洞窟へと誘導する一連の動きを生む。洞窟に入り込んだ海水は、垂直のシャフトを通って水位を上げ、発生した水圧によりタービンが動く仕組みだ。人工の間欠泉は、天候や海の状況に対応しながら構造やランドスケープの周りを移動し、最大限の発電を行う。
海岸線を再生し保護するデザイン
タービンが密集することで、構造の上に柵ができ、いくつものプールを囲い込む形になっている。タービン群は、海洋ジオポリマーコンクリートを使用することで低密度と高い強度を実現。素材の損傷や摩耗、風化を最小限に抑えながら、弾力性と動きを提供する。この浮体式プールは、海岸線のさまざまな場所に設置され、海洋生態系を保護しながら、生物にとっては厳しい環境である潮間帯の生息地を増やす働きもしている。4つのプールは、海水と空気の接触レベルが異なるため、それぞれの条件に適応する海洋生物が集まるように景観を整えている。在来の動植物の生存・生育能力を左右する過酷な生態系を、酸素濃度、波力、塩分濃度などを調整することで安定させ、自然の特徴を再現した人工的な外観を完成させている。
発電は、水位に差をつけて潮汐エネルギーを利用することで行っている。満潮時には、海水が構造に入り込む。発生した水位差によってタービンクラスタに水が流れ込み、タービンランナーが作動して発電する仕組みだ。干潮時も同じで、水流をずらして時間をかけて最大限の水位を確保する。コンデンサーが水を貯めては放出し、効率よく発電を行うのと同じである。
この施設は、観光客が使用する3つの居住パターンを想定してデザインされている。オフシーズンに使用しないときは、キャノピーをフレームから上に折りたためるようにした。亜鉛メッキ鋼板のフレームは、錆に強く軽量でありながら、パネルを支えるだけの強度も備えている。このフレームは、柱を必要とせずに広い面積をカバーすることができるので、空間に柔軟性が生まれる。三角形のキャノピーを折りたたむことで空間はプライバシーが確保できるモジュール空間となる。連結したキャビンは、滞在客のためのシェルターとして機能する。オープンプラン空間からモジュール空間まで、滞在客のニーズに合わせた空間づくりが可能となっている。
本施設の機能として最も特徴的なのは、環境に応じてタービンの配置を変えることができる点である。タービンは、海岸線に打ち込まれた杭の上で既存の岩に接続でき、海底に繋がれた緊張係留式プラットフォーム構造によって、固定された平底船のようにさらに外側に浮かべることもできる。海洋石油やガス生産設備として利用される海洋プラットフォームの係留の仕組みと同じように、厳しい海洋条件下でも動きを抑え、ずれることがなく、欄干などもダイナミックに配置することができる。木で覆われた柱は、建物の汚染物質から海を保護するフィルターの機能を果たしている。自然光が最大限に当たるように設計されたエントランス付近の海面2メートル下にはソーラーパネルが設置され、送電網を経由して本土へエネルギーを供給している。本リゾートは、スコットランド本土の1000世帯に1MWの電力を供給することを目標としている。
本リゾートは、自然の生息地と生態系を保護しながら、海岸線へのアクセスを提供し、レクリエーション機能を備えたクリーンエネルギー再生施設となっており、観光とグリーンエネルギーが共存する空間を実現している。
マーゴット・クラソイェヴィッチについて
マーゴット・クラソジェヴィッチは、アーキテクチュラル・アソシエーション建築学校とロンドン大学バートレット校で建築教育を修了した。ザハ・ハディド・アーキテクツで働き、UCL、グリニッジ大学、ワシントン大学において、学部および修士課程のスタジオディレクターを務め、デジタルおよびサステイナブルデザインプログラムを調査。その後、環境問題、再生可能エネルギー、持続可能性を設計プロセスの一部として統合することに焦点を当てた、学際的な建築設計スタジオを開設した。
現在は、アジアを中心に再生エネルギーを建物のインフラとしたプロジェクトを展開しており、水力発電の住宅やホテルなどのデザインも手掛けている。カタルニアの大麻農場のデザインでは、サステイナブルな脱炭素素材、ヘンプクリートを利用し、その可能性を模索している。著書には『Dynamics and Derealisation』と『Spatial Pathologies-Floating Realities』があり、ワシントン大学の客員教授も務めている。建築には学際的なアプローチが重要との考えより、再生エネルギー資源とシュミレーションソフトによる建築学的な言語の技術開発にデザインの基準を置いている。