トルコのアイタック・アーキテクツがデザインした美術館が着工
イスタンブールのアイタック・アーキテクツがデザインしたDE ボドルム美術館が、このたび着工した。この美術館は、トルコを代表する現代美術家、デブリム・エルビルの作品を展示する美術館で、エーゲ海が背景に広がる港町ボドルムに新設される。本デザインは、ワールド・アーキテクチャー・コミュニティ(WAC)が主催する第40回WAアワード(2021年)にて建築デザインカテゴリーで受賞している。
地中海のオアシス
タンジェリン(みかん)の樹が生い茂る美しい庭園のなかに、DEボドルム美術館は建設される。オルタケントにあるエルビルのスタジオとは、数分しか離れていない。今回の美術館建設の目的は、油絵からカーペット、モザイク、ステンドグラスに至るまで、エルビルの多彩かつ膨大な量の作品を収容することであった。
「様々な類型学的な形式の美術館モデルを考察しながら、最終的にいきついたのは、大きな一枚岩の構造ではなく、多くのパーツの集合体によって定義づけられる建物でした。そこで、独立したギャラリーをいくつも構築し、都市を構成する建物群のように、ボドルムの白い漆喰塗の家々とともに周囲の景観に自然と溶け込むような造りにしました」と、アイタック・アーキテクツ創設者/ 建築責任者のアルパー・アイタックは言う。
自然とギャラリーが融合したハイブリッド構造
美術館を構成するギャラリーは、それぞれ独立した基盤に建っており、庭の上に浮いている状態だ。ギャラリーは、美術館の中心に位置するスパイラル状のスロープを起点に建物を一周するように配置され、最後はまたスパイラルに戻ってくるようになっている。スパイラルは2階のギャラリーと1階の庭とを繋ぐ役目も果たしている。この構造により、敷地内の美しい庭園を散策できる、涼しくて広々とした空間が生まれる。美術館内に設置される、特設展示スペース、ワークショップスペース、カフェ、本屋などは、ボドルムの街の新たなミーティングスペースとなるだろう。
自然に優しいデザイン
建物は1,357㎡の2階建で、敷地の広さは5,000㎡。そこにはエルビルのスタジオも含まれる。タンジェリンの樹で囲まれた美しい景観と生態系を維持するため、鉄骨フレームとコンクリートで作られる白塗りの建物は、地階には建設されず、持ち上げられた構造となる。この構造は、洪水などの災害時も想定しており、浸水を防ぐのに有効である。また、雨水の貯水用に地下設備が建設される予定で、これは地中海特有の乾いた夏に活躍する。屋上には、32kw/時の発電が可能なソーラー発電設備が設置され、美術館の稼働に必要な電力を賄う。
透明性の高いデザイン
地階には、ガラスで囲われた公共スペースを設け、景観を邪魔しない、高い透過性を維持している。これにより、屋内インテリアと屋外空間の境目が曖昧になり、ひと続きに見える効果がある。また、庭園を覆う天井は、エルビルとともにデザインされた青のモザイクタイルで、見た目にも涼しげな日よけとなっている。
建物の特徴的なデザインのひとつ、らせん状の車いす用スロープは、1階の庭と2階の常設ギャラリーを繋げている。スロープは最終的に2階で南側の壁で包み込まれ、穿孔した壁から注ぎ込む光によってできるパターンは、エルビルの月星座を模っている。北側の壁は、スリットから自然光を採り込んでいる。
アイタック・アーキテクツについて
アイタック・アーキテクツは、建築家のアルパー・アイタックによって、2005年、トルコのイスタンブールに創設された建築事務所。建築デザイン、都市デザイン、インテリアデザイン、ランドスケープデザインをあらゆるスケールで手掛ける。伝統的な形式や素材による通常の境界線を超越し、物体/空間/建物との新たな関係性を常に模索している。より動的でダイナミックな建物や空間を創出すべく、研究にも取り組んでいる。アナログとデジタルツールを両方駆使しながら、パワフルで明快なデザインソリューションを、手掛ける全てのプロジェクトに提供している。受賞歴のあるアイタック・アーキテクツは、手掛けたプロジェクトが、世界有数のライフスタイル出版物に掲載されており、トルコを代表する建築事務所のひとつである。