成長の烽火と芸術文化の砦
ユンチャオ・シュウ/アトリエ・アペイロン(Yunchao Xu/Atelier Apeiron)が142,560m²の広さを誇る恒琴文化芸術複合施設(Hengqin Culture & Art Complex)の設計を手がけた。本施設は2024年9月14日に開幕点灯式を行いすでに試運転段階に入っており、2025年7月には全面オープン予定となっている。
実現までの長い道のり
中国政府が珠江と華南の交差点に位置する横琴島の大規模かつ野心的な都市開発を承認してから10年以上、「横琴新区」と呼ばれるプロジェクトに数十億ドルの投資が注ぎ込まれてきた。マカオから徒歩圏内、香港からわずか34海里(約62キロメートル)の距離で何十もの主要プロジェクトが開発されており、その中心にある106平方キロメートルの島は文化、創造性、知識といった注目度の高い分野をターゲットにした開発が集中し、人口の多い地域に新たに加わっている。
芸術と文化の玄関口
本施設の敷地は既存の住宅タワーと開放的な都市公園の間に挟まれており、アトリエ・アペイロンは多機能な未来に対応できるエネルギッシュな複合施設をつくるためのプランを考案。そのプランの一環として敷地周辺の高密度な都市環境に適応した、大規模な多孔性を特徴とする建築的アプローチを採用した。
低層部では幾何学的な逆カテナリーの概念を応用し、形状の異なる3つの壮大なアーチを作り、中国と西洋の要素を融合させた建築言語を表現。それぞれのアーチは、個性的でプログラムもユニークなホールへの入り口となっている。本来暗い空間に自然光を取り込むため、アーチの上に天窓を設け、屋上庭園とのつながりを持たせている。アーチからは昼間は隣接する公園を一望でき、夜は透明なアーチ状のホールから放たれる柔らかな照明に照らされ、公園で開催される様々な公共イベントの舞台背景となる。
アーチの上にはモジュラー・スペース・ユニットがデザインに組み込まれ、将来の様々なプログラムに対応できるよう、最大限の柔軟性を確保している。さらに、アーチの継ぎ目には小さなスペースが組み込まれ、設備やビルサービスを収納できるようになっている。
多様な雰囲気
図書館、アーカイブズセンター、コンサートホール、文化センター、アートギャラリー、科学博物館、女性・児童活動センター、高齢者活動センター、青少年活動センターという9つの機能を持つ巨大な複合施設は、それぞれに多様な体験ができるホールをもつ。3つの都市型リビングルームとして設計された各アーチは、ナレッジ・ホール、パフォーマンス・ホール、エキシビション・ホールからなるユニークな空間へとつながっている。
ナレッジ・ホールの設計にあたっては、フィンランドのウーディ図書館からインスピレーションを得た。伝統的な図書館のコンセプトを新たな高みへと昇華させたナレッジ・ホールには、クリスタルのブックブロックが垂直の村のように配置され、都市の公共活動の中心となる。
隣接するパフォーマンス・ホールは、ダンス、音楽、演劇、オペラの上演のために設計された大きなオープン・ステージとブラックボックス・シアターを備え、文化的な舞台芸術センターとして機能する。戦略的に配置された「チーズホール」が、神秘的な自然光の散乱を招き入れる。この3つのホールを合わせると、ひとつの複合施設の中で、様々なパラレルワールドを体験することができる。
統合された景観と眺望
自然からインスピレーションを得ることが多いアトリエ・アペイロンは、テラス、洞窟、崖など、自然の原型を本施設の設計に取り入れた。4階建ての屋上プラットフォームが積み重なるように配置され、静謐な環境から素晴らしいパブリックビューを臨むことができる。植栽のバルコニーが都市構造に重なり、まるで公園のなかでイベントが開催されているよう。庭園の設計にあたっては、各プラットフォームからの視線が最適になるよう慎重に調査が行われた。
ベースとなるプラットフォームには半円形のステージと円形の講堂があり、大規模な結婚式、誕生日パーティー、企業のチームビルディング活動などが開催される。地上24メートルにある子供向けテーマパークとして設計されたプラットフォームには、砂場、広大な遊戯施設、レストラン、博物館、ファミリーカフェも併設されている。高さ30メートルの別のプラットフォームには共有ガーデンがあり、社員食堂やカフェテリアも併設されている。最後に、高さ36メートルのレイン・ガーデン・プラットフォームが環境ゾーンとして機能し、エコロジー、低カーボン・フットプリント、グリーン・テクノロジーを統合した、一種のエコロジー実験室となっている。螺旋階段が竹の庭へと誘い、スカイ・ブックストアに隣接するお茶を楽しみながら、静寂と静かな時間を体験することができる。
- Art exhibition hall Photo credit: Schran Image
- Natural light in the art hall Photo credit: Schran Image
- Roof garden Photo credit: Schran Image
- Northwest facade Photo credit: Yipeng Lv
- Overall view Photo credit: Kunzhen Huang
ユンチャオ・シュウ/アトリエ・アペイロン
中国・深センを拠点とするクリエイティブな国際的建築家とデザイナーで構成される事務所。古代ギリシャ語を語源とする 「Apeiron」という言葉は、建築の継続的な思考、再考、研究、実践的な応用を特徴とする事務所の設計哲学を象徴している。深圳建築設計学院(SZAD)のプラットフォームを活用し、建築設計、都市設計、インテリア設計、プロダクト設計、グラフィック設計の各分野でプロフェッショナルなサービスを提供している。境界、分野、トポロジーを越えて、人類と自然環境を再び結びつける冒険的なプロジェクトの成果を追求することに誇りを持っている。