ワールド・アーキテクチャー・フェスティバル 2021医療部門受賞の「可変モジュール式新型コロナウイルス防疫医療施設」
上海のミンハン区にある公園に建設中の「可変モジュール式新型コロナウイルス防疫医療施設」は、今日の医療施設に必要とされる要素を全て満たした、先進的な病院である。保管・搬送がしやすく、感染症の処置に適しており、あらゆる環境に設置可能で、環境に優しい施設であると同時に、建物の規模を自由に変えられることと、建設と解体が簡単で所要時間も短縮されるのが大きな特徴である。
「ワールド・アーキテクチャー・フェスティバル 2021」の医療部門を受賞した本プロジェクトは、Chenping Han教授が率いる中国鉱業大学の建築デザイン学部のチームによって2021年の初めにデザインされ、現在建設中である。
面積750.5㎡の建物には、プロジェクトの中核をなす隔離区域(ベッド数24床)をはじめ、スタッフの作業エリア、電力・水処理・換気・酸素補給などの設備が含まれている。調査をもとに進化させたモジュールの特性を活かし、長期間にわたって医療を提供できる、様々な規模の仮設防疫施設を構築できる。
ISO規格の20フィート(6.06×2.44×2.59 m)コンテナを基準に、あらゆるデザイン手法を駆使して建築部品を圧縮し、14.79㎡に収めた。解体と拡張を経たモジュールは、陰圧換気設備、採光設備、感染者と医療スタッフのための隔離チャネル、バッファーエリア、トイレ、ベッド4床ずつの隔離エリア2つを完備し、76.15㎡の領域をカバーする。空間デザインは、防疫医療施設に定められた基準を全てクリアしている。また、電力、水道、排水、換気機能はモジュールに組み込まれており、現地での取り付けが必要なのは、照明と、ディスプレイ画面、そして簡単な医療機器だけである。
さらに、本プロジェクトでは、患者と医療スタッフの精神面のケアにも配慮している。建物は、通常の生活で身の周りに多く見られる緑や黄色を主に使った色使いで、日常に近い空間づくりを工夫している。また、建物の外壁に反射材を使うことで、建物内部の様子が外から見づらくなり、視覚的インパクトが周囲に与える影響も軽減している。
設置には平らで硬い土地が適しており、これらにより配管や基礎工事の工程が短縮されると、設備も含めたモジュールの組み立ては、2人の作業員で3時間で完了する設計となっている。手順が厳密に決められているため、簡単なトレーニングを受けた作業員であれば、組み立てや設置を行うことができる。モジュールの引き上げには軽量のクレーンが必要だが、モジュールの解体や開梱は、簡易な道具で複雑な工程なく行うことができる。
パンデミックが収束した後は、解体して再利用できるように保管することも、そのままホテルやバー、カフェなど他の用途に利用することもできる。
ハンチェンピン・スタジオについて
Chenping Han博士が主宰する、中国鉱業大学の建築デザイン学部の教授と生徒から成る組織。新しい技術や科学を建築に応用することで、その可能性を広げる活動を行っている。Chenping Hanは、建築デザイン分野において30年の経験があり、大規模なデザイン組織の代表建築家として、40以上のプロジェクトを手掛けてきた。同氏は、現在、学際的な技術の融合や、宇宙・海洋など特殊な空間における建築、そして建築の可動性や可変性に関わる研究に携わっている。中国国内ではエンジニアリングデザイン賞など多数の賞を受賞しており、3つの論文に加え著書も出版されている。中国を含め、他国においても10の特許を保有している。