炭鉱で栄えた町の百貨店建物が新しい炭鉱博物館にリノベーション
2022年5月、オランダの南部にある町「ヘールレン」に、新たなオランダ炭鉱博物館がオープンした。「ニープケンス」というデパートだった建物を改装してできたのは、「買い物」に行く感覚で訪れることができる新感覚の博物館。かつて炭鉱で栄えた町の栄光と衰退、そして知られざる逸話や社会に与えた影響など、その歴史を紐解く展示となっている。博物館などのセンセーショナルな没入型展示をいくつも手掛けてきたクリエイティブエージェンシーのTinker imagineersにより、長い間隠されてきた南リンブルフ地域の炭鉱業の影の歴史が、ついに日の目を見る。
展示概要
新しいオランダ炭鉱博物館では、ヘールレンの町を潤わせた炭鉱業の光と影の全ての側面を紹介している。石炭から始まったその歴史と、この地域での炭鉱業、連帯により導かれた成功などの煌びやかな側面だけでなく、その裏にある厳しくてつらい労働や、産業の負の側面にまで言及している。4階分のフロアに展開された展示は、各階ごとにテーマで色分けされている。各階のテーマは、1階は「ブラック」、2階は「ゴールド」、3階は「グレー」、4階は「カラー」。
まず来場者を迎え入れる1階の「ブラック」は、石炭と炭鉱について知るエリアになっている。そして2階の「ゴールド」では、色が表す通り、炭鉱業によって地域にもたらされた繁栄について説明している。3階の「グレー」では、健康に害を及ぼす劣悪な労働環境や、閉山によって生じた悲惨な社会状況など、産業の恐るべき影の側面を紹介する。最後に現れる4階の「カラー」は、来場者がこの地域の進化に触れ、カラフルな未来を思い描けるセクションとなっている。
鉱山のひとつ「オラニエナッソー(Oranje-Nassau)Ⅰ」のシャフトと坑口に設けられていた旧オランダ炭鉱博物館は、現在一時的に閉館しているが、博物館の一部として残される予定。
博物館は、デザイナーのピーター・ベッカ―とTinker imagineersのコラボレーションのもと、多くの地元団体の協力があって完成した。その結果、ただの博物館ではなく、様々な物語に触れることで、地域や町を超越した歴史の真髄に触れることができる特別な空間に仕上がっている。
往年のデパート「ニープケンス」の建物
1950年代中期、石炭業の全盛期だったころ、ヘールレンの町はオランダで一番多くのデパートが集う場所だった。ここに建つ往年のデパート「ニープケンス」は、当時炭鉱で潤った鉱山労働者によって、彼らのために作られた建物であった。この建物、この街、この地域の下に眠る地殻は、かつてはオランダ最大の工業地だったことを覚えている人はほとんどいない。この建物は、へ―ルレン出身の建築家、フリッツ・プイッツによって1939年に建てられた。プイッツの有名な作品のひとつ「グラスパレイス」にちなんで「リトル・グラスパレイス」とも呼ばれている。
Tinker imagineersについて
Tinker imagineersは、展示やマルチメディア劇場に没入型体験のアイデアを提供するクリエイティブエージェンシー。1991年にオランダのユトレヒトに設立され、デンマーク、オーストリア、スイスなどのヨーロッパ諸国を中心に、グローバルに事業を展開している。事業内容は、研究、プロジェクト開発、デザイン、AV、マルチメディアプロジェクトなど多岐にわたる。創設者のエリック・ベーアとスタン・フォレスターは、2018年に没入体験デザインに関するそれぞれの思想をまとめた本を共著している。2人は没入体験デザインを、ストーリーを語る空間を創るアートであると捉えている。著書『Worlds of Wonder - experience design for curious people』は、この刺激的なコミュニケーションの「What」「Why」「How」を説明する一冊となっている。