Z世代アーティスト ナカミツキ個展「MOVED」-デジタル出力された作品にアナログの肉筆が加わる

現代アーティスト・ナカミツキの展覧会「MOVED-衝動、身体と生きる力-」が、六本木のSPACE A9にて2023年3月5日(日)から12日(日)まで開催される。本展の新作では、身近な人の死を目の当たりにしたことをきっかけに、デジタルから出力された作品にアナログの肉筆を加えることで、新たなレイヤーを制作し、人の喜怒哀楽による衝動と連動させた表現を生み出している。

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デジタルネイティブとして育ったZ世代のナカミツキは、幼少期の半身麻痺の生活から日常で感じた瞬間をiPhoneで記録し続けている。フラットに切り取られた一場面は、iPhone上の仮想キャンバスに何100枚ものレイヤーとなったデジタルデータで制作され、そのデータをリアルなキャンバスに出力した後、データは瞬時に削除されている。この一連の流れを絵画手法として、自身の世界観とナラティブを新しい美術の視点として展開し、瞬間的な彩度と空気感、滑らかかつ力強い線が観る人の魂に響き合い衝動を与えている。本展の新作では、新たな試みとして、デジタル出力された作品に肉筆を加え、表現の新境地を切り拓いている。adf-web-magazine-mitsuki-naka-moved-1

ナカミツキ展「MOVED - 衝動、身体と生きる力」に寄せて(一部抜粋)―木越純(Art & Railways)

2020年の卒業とプロデビュー以来、ジャズを思わせる大胆なイメージをデジタルで描き、キャンバスにプリントするナカミツキの作品は、デジタルネイティブなZ世代を象徴するアートとして注目されてきた。体が利かない10代の闘病生活の中で、唯一できる自己表現であったデジタルアートが、ナカミツキの生きる証でありプロのアーティストを目指した原点である。それから3年、ナカミツキは数々の個展やグループ展、NHK Worldをはじめとするメディアで取り上げられ、アーティストとしての活動領域を広げてきた。

ナカミツキは、ジャスの演奏に合わせて体をスイングさせ、その時その時に感じたことを指先でスマホの画面に落とし込んでゆく。その画面の奥には、思い切った構図と迷いのない描線、鮮やかな色彩に彩られたデジタル領域が広がっている。

そのナカミツキが今変わりつつある。今回の「MOVED」展に出品されている新作では、ジャズのイメージが後退する一方、飛び散る色彩と「手」が大きな役割を担っている。まるでナカミツキの心の底から湧き出るさまざまな感情を、包み込もうとするような「手」の動きだ。昨年秋に経験した最愛の「おじいちゃん」との別れがきっかけだ。初めて身近で大切な人が亡くなる瞬間を経験し、その時に感じ取った戸惑いや悲しみ、懐かしさや愛おしさといった感情に突き動かされる(=moved)ように制作に打ち込んできた。

ナカミツキはたかだか6インチのスマホの画面の中に、作品にすれば100号にもなる大きな仮想キャンバスを見ている。更にその仮想キャンバスには、幾重ものレイヤーがミルフィーユのように重なっている。一つ一つのレイヤーは、描線や色彩・効果といった使い分けがされているが、刻々と変化する感情や衝動を感じる毎に描き足されてゆき、ついには数百枚にもなる。闘病生活以来抱いてきた「生と死」に改めて向き合うことで、レイヤーが増え作品に深みが出てくる。

これまでにない試みとして、久しぶりに絵筆をとって「最後の一筆」を作品に加えている。デジタルとアナログの融合、生身のナカミツキを画面に残す試みであろうか。どこが「最後の一筆」なのか、是非探し出して頂きたい。

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《Drive》2023, 550×550mm, キャンバスにインク、アクリル、メディウム

ナカミツキ プロフィール

  • 1997年 兵庫県生まれ
  • 2018年 三菱商事アート・ゲート・プログラム奨学生
  • 2018年 NYでアートを学ぶ
  • 2020年 京都教育大学美術科卒業
  • 2023年 Artiest New Gate入選

10代前半の半身麻痺での入院生活をきっかけに”音楽” をモチーフとし、身体性と対話をテーマに既存のルールにとらわれない多様な価値観を持ち、デジタルネイティブとして育った日常的ツール「iPhone」で制作を行っている。

ナカミツキ展「MOVED」開催概要

会期2023年3月5日(日)〜12日(日)
会場SPACE A9
時間平日13:00~18:00/土日 13:00~19:00(最終日17:00まで)