放置された建物が屋根付きの集いの場に

このプロジェクトは建築設計事務所AMASA Estudioによって開発され、建設会社Desarrolladora de Ideas y Espacios, Alberto Cejudoと協力し、INFONAVITが代表する4つの住宅団地(イスタカールコ、サンタフェ、クルワカン、イグナシオ・チャベス)の共用エリアの改善戦略として実施された。コンペを通じて採択されたこのプロジェクトは設計の創造性だけでなく、実現可能性や管理のしやすさ、コスト効率の高さも評価基準とされた。わずか2か月で設計を完了し、限られた予算と期間の中で成果を生み出した。

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UHI Iztacalco_AMASA Estudio_Zaickz Moz_ FILM02.JPG Image Description: Fotografía Image Credit: © Zaickz Moz, Cortesía AMASA Estudio

20世紀半ば以降メキシコシティでは集合住宅の開発が進み、都市人口の約半数がコンドミニアム形式の住宅に住んでいる。メキシコシティには約1万の住宅団地があり、そのうち約3分の1は国営機関INFONAVITによって建設された。しかし、最初の集合住宅プロジェクトが建設されてから75年以上が経過し、メンテナンス不足による課題が浮き彫りとなっている。

イスタカールコ団地の変遷と再生

1972年に建設されたUH INFONAVIT イスタカールコは、メキシコシティ東部のイスタカールコ地区に位置し、当初は人工湖を中心に設計されていた。しかし、1979年の地震による地盤沈下の影響で湖が排水され、25年後に市当局によって「パルケ・デル・ラーゴ」として再開発された。中央には500㎡の半球型スチールフレーム構造が建設されたが、施工不良により未完成のまま放置され、20年以上にわたり劣化が進んでいた。

2024年INFONAVITはこの共用エリアの再生プロジェクトを目的としたコンペを開催。AMASA EstudioとGrupo Constructor Peasaのチームが選出され、約800万ペソの投資と4か月の工期を経て、半球型構造の屋根を完成させた。さらに、景観デザインや色彩計画を施し、260㎡の屋根付きフォーラム、ソーシャルスペース、パルクールエリア、カリステニクスゾーンを新設。地域住民が交流しやすい環境を整えた。プロジェクトの核心は高さ12メートルの半球型構造の改修であり、新たな屋根システムにより地域の集いの場として機能するようになった。コンクリートには温かみのある顔料を施し、ターコイズグリーンのスチールフレームがダイナミックな印象を与えている。屋根の設計にはスチールグリッドと軽量金属パネルを使用し、テンションケーブルで固定することで資材を最適化しつつ最大の効果を生み出した。

今回のプロジェクトはメキシコシティの住宅団地における公的投資の新たな可能性を示している。資源を有効活用し、戦略的な設計と管理を組み合わせることで、共用スペースを活性化させ、地域の社会的結束を強化することができる。限られた予算でも、適切なデザインと計画によって、住民にとって価値ある空間を生み出すことが可能であることを証明した。

AMASA Estudio

メキシコシティを拠点とする建築設計事務所。都市環境の改善に焦点を当て、地域に根ざしたプロジェクトを手掛ける。今回のプロジェクトでは、設計・デザインおよびプロジェクト全体のマネジメントを担当。

INFONAVIT(労働者住宅基金機構)

メキシコの労働者向け住宅の資金提供および管理を担う政府機関。国内の住宅政策を推進し、住宅団地の改修や再生を支援。今回のプロジェクトでは、資金提供と行政手続きを統括。