多世代がそれぞれの生活を尊重してのびのびと暮らせる家「リフレクションハウス」をAUNデザインスタジオが手掛ける
タイに拠点を置くAUNデザインスタジオは、このほど、クライアントの幼少期の思い出を反映した住居「リフレクションハウス」を完成させ、若い家族と高齢の母親が共にのびのびと暮らせる空間を実現した。
近所の友達と遊んだ幼少期。家の中を駆け回ったり、近隣の家を行き来したり。フェンスに寄りかかっておしゃべりをしながら走り回って遊ぶ子どもたちを眺める大人たち。これらの楽しい思い出は、家主の子ども時代の生活体験と母親との関係を「反映(Reflect)」している。数十年ぶりに再会した年老いた母親と自分、年齢も違う2人が仲良く暮らせる家に戻りたい。そう願って造られたのが、異なる世代が共存できる住まい「リフレクション・ハウス」である。
「リフレクション・ハウス」は、家主が子ども時代に暮らした家があった敷地に建てられた。周囲は近隣の家に囲まれており、家主とその母親がこの界隈で長年築いてきた思い出を意図的に反映させながらデザインされている。世帯ごとのライフスタイルの違いから、玄関は別々に設けている。家を敷地の中心に据え、両側に庭を配置して、風が通り、自然光が降り注ぐ開放的な空間としている。異なるふたつの生活を、異なる層に分けることで空間をキュレーションしている。1階は主に高齢の母親が過ごす空間で、共有スペースのほかにキッチンとダイニングがある。2階は息子とその家族が暮らす空間となっている。
素材や色を厳選したインテリアデザインは、全体としてシンプルで落ち着いた雰囲気に仕上がっている。建物のコンクリート面を塗装せずにむき出しのまま残し、ドア枠の色もダークグレーを選択。カーポートの屋根と家の正面のフェンスは周囲と調和するフォルムに落ち着かせた。また、フェンスにはスチールラスを採用し、風通しを良くするとともに、ソリッドな住宅とのコントラストを際立たせている。ダイニングルームのドアを開けると、両側の庭から自然光と風が入り込み、くつろぎと憩い、そして交流の場として理想的な空間が生まれる。
家の中央に彫刻のようにそびえるのは、2階へと続く階段だ。平らな正方形の紙を折って彫刻のように仕上げる日本の芸術「折り紙」にインスピレーションを受けている。機能性を備えながら、家主のアートに対する情熱を満たすスペースにもなっている。階段は、パンチングスチールによって半透明になっており、薄いスチールを幾何学的に折り曲げて強度を高めている。そのため、自己構造化された階段には、追加の支柱などの補強の必要がない。穴のあいた鉄板はすべて2階から吊り下げられており、浮いた状態だ。地面に置かれた最初の3段の階段はコンクリート製で、滑り止めのためにパンチングスチールが貼られている。
2階は家主とその家族のための住居スペース。幼馴染を呼んでもてなすのが好きな若い家主のために設計されている。休日のサッカー観戦や友人を招いての交流が、母親の生活を邪魔することなく行えるよう、プライベート空間をデザインしている。リビングはバーの隣に設置し、小さなバルコニーを設けることで、おもてなしのための大きな空間へと拡張している。バーの後ろには、シャワー付きのゲスト用バスルームが隠れるように配置され、宿泊するゲストのプライバシー空間を確保している。寝室は作業部屋の反対側に置き、ドレッシングルームやバスルームとのつながりを保ちながら、様々な角度から外の景色を楽しむことができる。ドレッシングルームとバスルームの上には、ヨガや瞑想ができるリラクゼーションエリアを設け、レイアウトを完成させている。
インテリアデザインは、フレキシビリティを確保するためだけでなく、建築予算を抑えたいというオーナーの要望に応えるため、数点の家具に絞っている。モルタルむき出しの壁や天井を露出させ、背の高さ程度まで白一色で塗った壁により、視覚的な心地よさを演出するとともに、建築とインテリアの連続性を確保している。さらに面白みを加えるために、オーナー個人のコレクションである絵画、椅子、ランプ、フック、時計、美術品などの装飾品を吊り下げられる構造にしている。これらアートコレクションの存在感は、様々な高さや位置に移動することで調整することができる。
本プロジェクトは、世界中の建築、インテリアデザイン、ランドスケープデザインを顕彰するアワード「Architecture MasterPrize™」2022において、ハウスインテリアカテゴリーでBest of Best賞を、レジデンシャルインテリアカテゴリーでWinner賞を獲得している。
AUNデザインスタジオについて
AUNデザインスタジオは、タイを拠点に事業を展開するデザイン会社。各プロジェクトの個性とコンテクストに焦点を当てると同時に、デザイナーのアイデンティティを作品に吹き込むことを大事にしている。それぞれの作品が複雑なストーリーを持っており、分析的思考とデザインプロセスを通じてデザイナーがその物語を語るストーリーテラーであると考えている。特定のプログラム、機能、ロケーション、規模などにとらわれることなく、作品形態に境界を設けずに多様性を優先して各プロジェクトに取組んでいる。