イズミルに息づく地中海の精神
素材の質感にこだわるトルコ・イスタンブールの多分野型デザインスタジオ・URBANJOBSが、地中海の洗練をテーマにしたレストラン「Esca(エスカ)」をイズミルのイスティニエパーク内に完成させた。189席を有し、ミシュランスターシェフのオスマン・セゼネルが率いるこのレストランは、料理・建築・空間が融合し、シンプルさ、光、そして人とのつながりを祝福する体験を提供している。
エスカのコンセプトは「誠実さと節度」に基づき、地中海文化の温かさと親しみを体現している。セゼネルによる旬の地元食材を活かしたメニューは、石や木、漆喰といった自然素材を用いた内装デザインと響き合い、現代的でありながら時を超える自然な優雅さを生み出している。
レストランは、プライベートダイニング、2層構造のバー、テラス、屋外スペースの4つのエリアで構成される。防風エントランスを抜けるとメインホールへ続き、中央に位置する360度型のバーが空間全体をつなぎ、ゲスト同士の交流を促す中心的存在となっている。
未整備で非効率的なシェル・アンド・コア状態の空間を、URBANJOBSはそれを制約と捉えず再構築の機会とした。ダイニングやサービスエリアなどを一体化し、床材の切り替えや日除け、内外の境界を曖昧にする設計によって、年間を通じて快適な空間を実現している。
エスカの中心はテラスであり、半屋外のダイニングエリアとして、屋内の親密さと屋外の開放感を融合させている。空間を進むにつれ、プライベートルームがまるで屋外のように感じられ、逆にテラスが室内サロンのように感じられるという意外性をもたらした。昼は自然光が溢れ、夜は重ねられた照明が温かく親密な雰囲気を演出する。
カラーパレットは地中海の暮らしとイズミルの海辺の魅力に着想を得ており、アースカラー、木の温もり、石の色調が穏やかで触感的な空間をつくる。照明、家具、什器はすべて特注でデザインされ、レストラン独自のアイデンティティを形成している。環境負荷を抑えるため、トルコ国内のサプライヤーから素材は調達された。装飾は最小限にとどめ、素材の質感や光の演出が主役となる構成を目指した。
イズミルの文化に根ざしながらも、エスカの空間的・概念的枠組みは他の地域にも展開可能な柔軟性を備えている。URBANJOBSにとってこのプロジェクトは、レストランを単なる食事の場から「場所・感情・記憶」を感じる体験へと昇華させた好例だ。エスカは、食と建築の対話そのもの。トルコのクラフトマンシップと建築的感性によって、地中海の洗練を時代を超えて表現する、特別な空間として誕生した。
URBANJOBS
URBANJOBSは、空間を単なる「形」としてではなく、「素材・質感・光」によって構成され、人の体験によって完成する総合的な存在として捉えている。2018年の設立以来、同スタジオは国内外で数々のデザイン賞を受賞してきた。感覚的なレイヤーを丁寧に積み重ねて「雰囲気」を構築するデザイン手法を確立し、ドアハンドルから家具に至るまであらゆるディテールを設計することで、プロジェクトごとに独自の空間言語を生み出している。

 
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