イスラム第二の聖地において、信仰・観光・都市変容を横断するミュージアム&パーク計画

一般公開を開始したアス・サフィヤ博物館&パークは、イスラム第二の聖地メディナという極めて繊細な環境に対し、慎重に調整された建築プロジェクトである。預言者のモスク(アル・マスジド・アン・ナバウィ)の南側、歴史的な門バーブ・アル・サラームと軸線を共有する場所に位置し、旧ナツメヤシ園の敷地に建つ約2万平方メートルの複合施設は、モスクの聖域と急速に開発が進む商業都市との境界に立地している。

adf-web-magazine-x-architects-as-safiyyah-museum-park-1

©Fernando Guerra

adf-web-magazine-x-architects-as-safiyyah-museum-park-3

©Fernando Guerra

メディナは長年にわたり数百万人の巡礼者を受け入れてきたが、サウジアラビアの「ビジョン2030」に基づく改革、とりわけ非ムスリムにも市内の一部を開放した観光ビザ制度の導入によって、その都市像は大きく変化しつつある。モスク周辺では観光主導型の大規模開発が加速している。こうした状況のなか、設計を手がけたX Architectsは、モスクと記念碑的に競合することも、商業主導の画一的都市表現に陥ることも避ける姿勢を明確にした。

adf-web-magazine-x-architects-as-safiyyah-museum-park-8

©Fernando Guerra

adf-web-magazine-x-architects-as-safiyyah-museum-park-7

©Fernando Guerra

本計画は単体の象徴的オブジェクトとしてではなく、壁、庭園、室空間の連なりとして構想され、聖なる領域と日常都市のあいだを媒介する構成をとる。厚みのある外周壁は周辺の交通や喧騒を遮断し、歴史的に城壁に囲まれていたメディナ旧市街の空間性を想起させる。内部には、植栽帯や中庭、水盤からなる段状のランドスケープが広がり、かつての果樹園の地形を再解釈。大規模な巡礼と観光がもたらす圧力を和らげ、陰影に富んだ静謐な空間を生み出している。

adf-web-magazine-x-architects-as-safiyyah-museum-park-5

©Fernando Guerra

adf-web-magazine-x-architects-as-safiyyah-museum-park-2

©Fernando Guerra

素材面では、メディナを取り囲む火山地形に着目し、周辺の溶岩地帯から採取された玄武岩を外装、床、内壁に使用。凹凸をもつ重厚な外皮が深い陰影と高い熱容量をもたらし、触覚的な質感を形成する。ガラス張りの高層建築が増加する都市環境において、玄武岩の採用は、気候や地質、記憶に根ざした現代的表現を打ち出す試みといえる。敷地内の歴史的井戸を参照した水景や、ヤシを植えたテラスは、オアシスを装飾的イメージではなく、環境的かつ社会的装置として再解釈している。

adf-web-magazine-x-architects-as-safiyyah-museum-park-4

©Fernando Guerra

計画の中心となる博物館は、イスラム思想における「創造の物語」を主題に、創造以前から究極の正義と慈悲に至るまでの五章で構成される。光、高さ、音響、囲われ方の変化を通じて来館者を導く空間構成は、神学的概念を身体的体験へと翻訳するものであり、過度な演出に頼らない抑制的な手法がとられている。

adf-web-magazine-x-architects-as-safiyyah-museum-park-6

©Fernando Guerra

公園、博物館、多目的ホール、カフェや土産物店を含む商業空間を統合する本プロジェクトは、景観と物語性をスペクタクルや商業的ファサードに優先させるモデルを提示する。巡礼者、市民、国際的来訪者が交差する新たな公共の基盤として、メディナの変化するグローバルな役割を映し出しつつ、その最も神聖な場所への敬意を維持する計画となっている。

X Architects

ドバイを拠点に設立された、批評性を重視する建築・都市デザイン事務所。湾岸地域を中心に国際的に活動している。アラブおよび湾岸の文化、風景、歴史を現代的な建築へと翻訳する、文脈に根ざしたプロジェクトで知られ、地域を代表する存在となっている。大規模マスタープランやモスク、文化施設から、公共空間、住宅、プライベートヴィラに至るまで、幅広いスケールと用途を手がけている。

アーメド・アル・アリとファリド・エスマイルによって設立された同事務所は、綿密なリサーチ、素材や環境に対する高い知見、そして公共空間への強い関与を組み合わせ、孤立したオブジェクトではなく、文化的・環境的インフラとして機能する建築の創出を目指している。湾岸地域および海外における数多くの実作プロジェクトの蓄積を背景に、国内外で高く評価されている。