土地に根差したデザインでラグジュアリーリゾートの新たな可能性を示す
ギリシャ・ペロポネソス半島のナバリノ湾を見下ろす高台に位置するマンダリン オリエンタル コスタ ナバリノは、世界的なラグジュアリーブランドとしての水準を維持しながら、土地との深い結びつきを実現したリゾートとして注目を集めている。象徴的な建築表現や華やかな演出に頼るのではなく、地域の歴史や生態系、気候条件を尊重する設計アプローチによって、上質な滞在体験と環境への配慮を両立させている。設計はAlexandros N. Tombazis and Associates ArchitectとK-Studioが手がけた。
プロジェクトの舞台となるのは、豊かな自然景観と文化的価値を併せ持つ特別な敷地だ。設計チームはその環境に応えるため、ギリシャの伝統的な農村集落、とりわけ地形に沿って形成された石造の囲い「マンドリア(mandria)」に着想を得た分散型マスタープランを採用した。宿泊施設は丘陵地の等高線に沿って複数のクラスターとして配置され、建築とランドスケープの一体感を高めながら、周辺環境への影響を最小限に抑えている。
なかでも特徴的なのが、プライベートプールを備えた48棟のアースシェルター型ヴィラである。分散配置によって高いプライバシーと独立性が確保される一方、宿泊者は周囲の自然をより身近に感じることができる。室内空間は日陰のある屋外リビングへと連続し、屋内・半屋外・屋外が滑らかにつながる空間構成を実現。深い庇や奥行きのある開口部、慎重に計画された眺望によって、周囲の景観とのつながりを保ちながらも落ち着きと安らぎを感じられる環境がつくられている。
素材やインテリアデザインも地域性を反映している。石材やテラゾーを控えめながら効果的に用い、地中海らしい色彩や質感を取り入れることで温かみのある空間を創出。一方で、国際的な感覚を備えたディテールを加えることで、洗練されたラグジュアリーな雰囲気も実現している。施設全体の空間計画は直感的で分かりやすく、宿泊者が自然と主要な景観や施設へ導かれるよう配慮されている。
運営面では、効率性と柔軟性にも重点が置かれた。客室やヴィラをクラスター単位で運用できるため、季節ごとの需要に応じて一部エリアを休止することが可能となり、エネルギー消費の最適化につながっている。また、屋外動線を積極的に採用することで空調負荷を軽減し、屋根付きテラスや中庭空間が気温変化を緩和する役割を果たしている。
設計の大きな特徴は、歴史的な建築様式を単に再現するのではなく、その本質を現代的に再解釈している点にある。伝統的な集落の構成や建築形式を抽象化し、現代の素材や工法によって表現することで、地域への敬意と現代性を両立した独自の建築言語を生み出している。
さらに、サステナビリティはプロジェクト全体を貫く重要なテーマとなった。植栽屋根や蓄熱性能を活用した構造、自然換気といったパッシブデザインを導入するとともに、地域調達の素材や節水型ランドスケープ、環境負荷を抑えた照明計画などを採用。エネルギーゾーニングを含むさまざまな施策によって、長期的な環境性能の向上を図っている。
マンダリン オリエンタル コスタ ナバリノは、土地や文化、気候との関係性を重視することで、従来のラグジュアリーリゾートとは異なる新たな方向性を示している。国際的な水準のサービスと地域性を両立させながら、環境への負荷を抑えるそのアプローチは、今後のデスティネーションリゾートのあり方を考える上でひとつの指標となる。
- Photo credit: BREBA Claus Brechenmacher & Reiner Baumann
- Photo credit: BREBA Claus Brechenmacher & Reiner Baumann
- Photo credit: BREBA Claus Brechenmacher & Reiner Baumann
- Photo credit: BREBA Claus Brechenmacher & Reiner Baumann
- Photo credit: BREBA Claus Brechenmacher & Reiner Baumann
- Photo credit: Helen Cathcart
Alexandros N. Tombazis & Associates Architects
1963年に設立された建築設計事務所。設立以来、ほぼあらゆる用途と規模の建築プロジェクトを手がけてきた。アテネを拠点としながら、その活動は国際的に広がり、これまでにポルトガル、オランダ、ブルガリア、ルーマニア、ウクライナ、キプロス、アブダビ、オマーン、中国などでプロジェクトを実現している。
1970年代後半には、まだ「バイオクライマティックデザイン(気候応答型設計)」という概念が広く知られていなかった時代に、ギリシャでその考え方をいち早く導入した先駆者として知られるようになった。建築と環境を一体的に捉える総合的かつコンテクスト重視のアプローチを特徴とし、省エネルギーやサステナビリティの原則を設計に統合してきた。
K-Studio
20年以上にわたりギリシャ・アテネを拠点に活動するデザインスタジオ。ディミトリス・カランパタキスとコンスタンティノス・カランパタキスの兄弟によって設立され、現在はホスピタリティ、住宅、公共空間など幅広い分野を手がける多分野横断型のチームとして活動している。
同スタジオの設計アプローチは、プロジェクトごとに丁寧な考察と探究心を持って向き合うことに根差している。その結果として生まれる没入感のあるデザインは、地域の歴史や文化的背景、周辺環境との関係性を重視しながら、長く使い続けられる空間を創出している。

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