モントリオールの歴史的建造物でホスピタリティと協働、人間的スケールを軸とした現代的ワークプレイスを展開

モントリオールのゴールデン・スクエア・マイル地区において、ケイン・ラマール法律事務所が歴史的建造物へとオフィスを移転した。都市の建築遺産に根ざしながら、現代の法律事務所のあり方を再定義しようとする同事務所の姿勢を示す選択である。設計はシド・リー・アーキテクチャーとの協働により行われ、従来の法律事務所に見られる形式張った空気を排し、ホスピタリティデザインから着想を得た、温かく開かれた環境が実現された。

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Photo credit: Alex Lesage

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Photo credit: Alex Lesage

空間は「活気ある都市の広場」として構想され、法律実務に求められる機能性と、協働や知識共有、偶発的な交流を促す場とを両立させた。オープンとクローズドのエリアを慎重に組み合わせることで、機密性と親密さが共存し、真正な素材と豊かな自然光が、流動的で直感的な体験を生み出している。計画初期から、将来的な成長や柔軟な運用、集団的な参加が重視され、事務所内の代表者による委員会が設計プロセスに積極的に関与した。この包括的なアプローチは、「グラン・プリ・デュ・デザイン」においてゴールド認証という評価を得ている。

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Photo credit: Alex Lesage

来訪者を迎えるレセプションとカフェは、都市の喧騒に対する穏やかな対比として機能する。建物本来の構造を参照する建築的要素に、フェルト素材や間接照明、白く塗装された打ち放しコンクリートが組み合わされ、洗練されつつも親しみやすい雰囲気が醸しだされている。街を望むカフェとラウンジは自然と人が集う場となり、誠実さや信頼、開放性といった同事務所の価値観を体現する空間となっている。

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空間の中心に位置するのが、象徴的存在であるモニュメンタルな階段。二層をつなぐこの階段は、吹き抜けを通して自然光を導き、ケベック産メープル材の踏み板と、柔らかな色調の金属仕上げが調和する。踊り場に設けられたインテリアガーデンは、移動の途中に立ち止まり、交流するための余白を生み出し、この階段を空間と人を結ぶ「社会的な神経中枢」として位置づけている。

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主な動線からやや距離を置いたカフェテリアは、包み込むような雰囲気をもつ休息の場としての役割を持つ。特徴的なカラーパレットと柔軟な家具構成、そして中央のアゴラとの接続により、日常的な利用から集団的なイベントまで幅広く対応する。一方、外周部には個室オフィスや会議室が配置され、より静かで集中した環境が確保された。曲線的なフォルムや重なり合うボリューム、控えめなアール・デコの引用が、現代的な介入を建物の歴史的文脈へと結び付けている。

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Photo credit: Alex Lesage

これらの要素が一体となり、ケイン・ラマールの新オフィスは、歴史的建築を尊重しながら現代の専門職の働き方を支えるモデルケースとなった。そこでは、法的専門性と同じ重みで、人と人とのつながりが価値として位置づけられている。

シド・リー・アーキテクチャー(Sid Lee Architecture)

クリエイティブエージェンシーであるSid Leeの関連会社。同事務所は、1999年以来ビジネスパートナーとして活動してきた建築家・都市デザイナーのジャン・ペランとマルタン・ルブランによって設立された。現在は、都市計画、建築、インテリアデザインの分野からなる約70名の専門家による学際的なチームを率いている。

2015年以降、博報堂DYホールディングスによって設立されたクリエイティブ企業のコレクティブ「kyu」のメンバーとして活動している。