「ゴミ」を新たな価値に変えるデザインプロジェクト「wa/ter」

これまで私たちは時代の変化とともに必要なくなってしまったもの、規格外のものを「ゴミ」として捨て、新しい時代を作ってきました。しかし、当たり前が当たり前でなくなった今、時代が求めるものを常に作り続けてきた作り手も、生産現場における「当たり前」を見直すべきなのではないか。そんな気づきからインテリアデザイナーの小倉寛之さんが始めたサステナブルデザインプロジェクトが「wa/ter」。「wa/ter」ができるまでのストーリーを通して、プロダクトと消費の関係性を紐解いていきます。

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HAMON photo by KASUMI ODA

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BUILDING BLOCK photo by Kasumi Oda

これまでの虚無感から生まれた、新たなものづくりの可能性

小倉さんは、2001年に京都造形芸術大学の芸術学部/環境デザイン学科を卒業し、現在デザインオフィスDRAWERSを主宰するインテリアデザイナー。もともと空間づくりに興味があり本大学を選んだそう。そして入学後、街に溢れる様々なデザインに刺激を受け、インテリアデザインの道へ。

小倉さん:「学生の頃、様々なデザイナーによる新しいお店がたくさんできて、それによって街が変わって行きました。さまざまな選択肢がありましたが、『型にはまらない柔らかい発想』が求められることやサイクルの速い店舗のデザイン・設計に楽しさと新しさを感じ、インテリアデザインの道を選びました」

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小倉寛之

その後、小倉さんは大阪市西区にある建築・デザインオフィス cafe.coに勤務。インテリアデザイナーとして活躍したのち、独立します。独立して間もない頃、事務所をそろそろ構えたいと街を散策していた折に、とある空きビルに出会ったといいます。このビルに魅力を感じた小倉さんは、ビルのオーナーに直接交渉。ビル1棟借り上げて、ビルを蘇らせるプロジェクトを行います。

小倉さん:「2年かがりでビルをリニューアルしたあと、ビル周辺の北浜界隈と川辺には様々な店ができ、集まる人種も増えて、街が変わっていきました。その時に、そこで集まる人々の人生の時間をつくっているんだという、なんともいえない豊かな感情を覚えました」

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リノベーションしたビル photo by YASUNORI SHIMOMURA

このプロジェクトを通じて感じたのはデザイナーとしての責任感ややりがい、そして周囲への感謝の気持ちだったそうです。

小倉さん:「ビルのオーナーや一緒に取り組んでくれた仲間や先輩には本当に感謝しています。インテリアデザインということにはこだわらない、自分にできることはなんでもやろうと思いましたね」

そんな思いから「DRAWERS」はこれまで商・住空間の企画・設計・運営・管理だけではなく、家具などのスタイリング、プロダクトデザインに至るまで幅広い領域のデザインディレクションを行い、新しい空間づくりに取り組んできました。「DRAWERS」という屋号も、Drawという「描く」と「引き出す」という両方の意味を持つ言葉のように、いろいろな知識を持ち、様々な物事を描くことができるデザイン事務所としてあり続けたいという想いから決定。また、複数形にしたのは、1人ではなく仲間とのチームワークで仕事は成り立っているという強い思いからなのだそうです。

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DRAWERSオフィス photo by DAISUKE SHIMA

こうして活躍の場が広がってきていた中で起こった、コロナウィルスによる世界の変化。仕事が延期、停滞する中で、ふとこれまで「格好の良さや美しさ」を追求するあまり、時代が経過すればすぐに壊され大量に廃棄される、内装設計の現状にどこか虚無感を感じていたことを思い出したと言います。“そもそも私たちデザイナーが大切にされるべき価値を創造できていなかったのではないか?”と。このように消費に対する私たちの行為を再考したことをきっかけに、始まったのが「wa/ter」。

生産の現場からヒントを得た「wa/ter」

「wa/ter」は、捨てられるはずだった廃材から商品を作るデザインプロダクト。現在(2020年10月時点)は、蛍光灯の再生ガラスやブラウン管テレビのディスプレイガラスでできた、オブジェとお香たて、ウォールナットの家具製造過程で出た廃材でできた積木などがラインナップされています。再生ガラスならではの趣のある色味、重さや一つ一つ違う形の商品はどれも現代的でありがなら、どこか懐かしさを感じるアイテム。これらをプロダクトをとして販売するにあたり、もっとも悩んだのは、「長い間世代を超えて愛されるデザイン」とは?という疑問に対して、ブランドとしての答えを出すことだったそうです。

小倉:飽きてしまう商品はすぐに捨てられ忘れ去られてしまう。そういうものづくりはしたくないと思いが私たちにはありました。そこで"用途に余白"を持たせ、作り手が用途を限定しないことにしたのです。そうすることで、使う側は「使い方を考えること」を楽しめる。ひとりひとり自分好みの使い方をしてもらうことで愛着がわき、長く愛されるものへと変わるのではないかという考えにたどり着いたのです。

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ブラウン管のカレット

wa/terの商品を広げていく上で、人々に伝えたいメッセージがあると小倉さんは言います。

小倉さん:「私たちはものづくりを通して環境問題への意識を広めたいと考えています。綺麗なものを作るために規格外のものは捨てるというこれまでの当たり前を覆す、この商品を見て『豊さとはなんなのか?』だったり、『自然とどう付き合っていけばいいのだろう』ということを考えるきっかけになればと思っています」

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蛍光灯

循環をつくるデザインが求められる時代へ

「wa/ter」のマテリアルは、これまで私たちが大量生産、大量消費の社会の歴史の中で生産してきた「ゴミ」の一部。ただ、この「マテリアル」は、手を加えれば新たな「プロダクト」として価値を与えることができる。そんなことが小倉さんの考えている、これからの “デザインのあり方” に通じているようです。小倉さんはさらにこう続けます。

小倉さん: 「今のデザインに求められている大きなテーマは、 “サスティナブルの先にあるものはなんなのか”、”歴史的に受け継いでいくべきことやものはなんなのか”なのではないかなと思っています。その問いに対する私の一つの答えがwa/terです。そして今、築200年あまりの蔵を移築しようという計画も構想中です。そこには新しい空間の共有体験ができるものをつくりたいと考えています。なかなか土地が見つからず検討中ですが、歴史あるものと、テクノロジーの融合による場所づくりができないかと」

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HAMON photo by KASUMI ODA

「インテリアデザイン」の枠組みを超えて、さまざまなことにチャレンジする小倉さん。最後にその原動力について聞いてみました。

小倉さん: 「空間をつくるデザイナーとしての責任は相当重いものだと覚悟しています。手触り、風通し、日当たり、人の目線、開放感、自然環境との関わり、など様々です。店舗をつくるときも、その事業者の人生をあづかっているようなものです。原動力はその責任の重さですね」

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DRAWERSオフィス photo by DAISUKE SHIMA

ポストコロナにおいて、環境問題はもっと身近な存在になっていくでしょう。そんな、〈人〉と〈自然〉の共存が問われる社会では、生産したものが循環する仕組みが重要になり、「wa/ter」のような物語を携えたプロダクトがより一層価値をもつのかもしれません。