都市の未来(後編)

前回の記事COVID-19(新型コロナウイルス感染症)が世界の都市のインフラや生活にどのような影響を与えているか書いた。それを踏まえ、今回は都市が今後どのように変化するか考えてみたい。

そもそも都市が成長する理由、また衰退する理由は雇用にある。生産に適した土地、流通に有利な拠点、商売に適した市場が都市として発展し、人口を急増させた。近年、深センが急成長したのも、デトロイトが衰退したのもそれぞれの主要産業での雇用の増減が密接に関係している。

雇用の変化による影響

COVID-19が雇用に与える影響はいくつか考えられる。デスクワークをする労働者の在宅勤務(テレワーク)はどの程度普及し、そのまま定着するか。旅行関連産業、飲食店、エンターテイメント関係など、COVID-19の影響で職を失い、都市を去り、親族が暮らす故郷に帰還した労働者は今後どのような雇用の機会に巡り合うのか。

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キングスクロス:閑散とする週末のロンドンのターミナル駅
All imagaes ©︎Hitoyuki Ito

影響を受けた企業が国有化または政府の支援を受けることになるだろう。失業者も同様、公的な支援が不可欠になる。雇用の受け皿となるべく、大量の公共事業が発注されることになるだろう。これらの公共事業はこれまで通りインフラ整備などのハードな建設事業が中心となるのだろうか、または異なる形態になるのだろうか。

不動産市場への影響

先に結論から申し上げると、未来の都市の構造は「都心+農村」(郊外消滅)型になると予測している。

今回を機に、多くの場合は在宅勤務でも問題なく業務がこなせることが判明する。通勤時間が減った分、労働者はより多くの自由時間を楽しむことができる。雇用者は事務所スペースを減らし、固定費を節約することができるようになる。感染の脅威が過ぎ去った後も、双方に在宅勤務を継続する理由がある。在宅勤務が一般的となることで、場所を選ばずに仕事ができる人口が増える。労働者は都心のオフィスに毎日通勤をしなくてよくなる。

しかし、空港、港湾、駅などの交通インフラは都市を中心に整備され、博物館、美術館、スタジアムなどの文化施設もほとんどが都市に集中して立地している。これらの物理的な優位性に加え、face-to-faceの交流には依然として人間関係に高い意味を持ち、都市は人々にとって最も便利な集合場所である。その為、都市の重要性は揺るがない。

その結果、都心のオフィス需要が減り、多くの物件は住宅に転用されるだろう。一部はカフェ、レストラン、イベントスペースなど人々がface-to-faceで交流する商業施設へ転用される。都心はオフィスを中心とする場所から職住が近接する多機能な空間に変化せざるを得ないだろう。

様々な施設へのアクセスの良い都心に住む人が増えることが予想されるが、同時に良い生活環境と安価な生活費を求め、移住者が増える。通常はリモートで働き、必要に応じて月や週に数回程度、都心で人と面談する。そんなライフスタイルや勤務形態が確立されるのではないか。都心にセカンドホームを持つ、民泊を利用することなども想定される。特に都市近郊の保養地や農村地帯は人々の生活拠点へと変貌する可能性が高い。

一方で、大都市郊外に延々と続く住宅地の需要は下がり、不動産価値の低下が予測される。繰り返すが、その原因はテレワークの拡大により、通勤時間が家を決める上でそれほど重要ではなくなるからである。

おそらく郊外の住宅地は以下のような変化が起きるだろう。1つ目は緩やかに人口密度が下がり、住宅開発の波にのまれる前のような、宅地、農地、雑木林が混合するような、農村的な地域社会に回帰するケース。2つ目は不動産価格下落により、広々とした家を持ちやすくなり、高級住宅街となってリバウンドするケース。3つ目は空き家が増え、地域全体がスラム化していくケース。

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ベルリン:複数の都心と広大な緑地を持つコンパクトな都市

どちらにせよ、多くの都市では住宅地の供給過剰のような状態になることが予想されるので、宅地を農地や公園などに転用することで、1や2のような変化を誘導することが求めらる。

宅地を保有している方にとっては必ずしも好ましい未来ではないが、都市全体としてコンパクトで住みよい環境になるチャンスが到来する。空から見ると、緑地や農村に囲まれた小島のような都市が想像できる。

新しい仕事を創造する

雇用の話に戻ろう。テレワークの拡大以外にも都市の雇用は大きく変化している。例えば、交通分野の運転士、店舗の販売員、物品の配達員などは感染のリスクを負いながら業務を継続している。これらの都市機能を支える業種はこれまでも一部で自動化への移行がみられたが、今後その傾向はますます加速するだろう。今後数年で自動運転、自動会計、ドローンや自動制御のカートを使った配達サービスが普及するのではないだろうか。その速度は法整備を整えた国によって異なるが、衛生面のリスクを最小限に抑えつつ、経済活動を効率よく復活させる手段として、オートメーションへの移行は避けられないと考えている。

悲観的になる必要はない。新しい技術の活用により、生活は便利になり、経済を再生させる起爆剤となる。それ以上に重要なことは、より多くの人々が人間にしかできない仕事に就くチャンスが来るということだ。世の中には人間にしかできない創造的、社会的な仕事は多く存在し、それらはますます必要とされている。例えば、都市景観の維持、まちづくりのルール作り、広場や大通りなど公共空間のデザインや管理、イベントの企画、福祉や教育、音楽やスポーツを通じた地域社会の創造など、人々がやるべき仕事は想像している以上に多く存在している。

公共部門による雇用

パンデミックが過ぎ去った後は、特に公的セクターが失業者の受け皿として機能しなければならない。これまで不景気の時には経済の起爆剤としてフーバーダムやアウトバーンなど大型公共事業を行うことがあった。しかし、現時点は住宅地などでインフラ需要が追い付かないケースがあるものの、都市全体で考えると、空港、鉄道、道路は空っぽで、むしろインフラ供給過剰の状態にある。そこで、私なりの提案をしたい。

それは住民の生活に直結する地方自治体の人員や業務を増強することである。上記で述べた芸術、まちづくり、コミュニティー形成などの人間にしかできない仕事を地方自治体が受け持つことである。自治体の雇用を拡大しても良いし、自治体が企業や個人に業務を発注しても良い。給付金とボランティアが一体となったような仕組みで住民が担っても良い。それぞれの地方自治体が雇用の受け皿となれば、人口と経済活動が地理的に分散される。こうした仕事の創造は公的セクターにしかできない。このような経済対策を期待したい。

例えばウクライナの古都、リヴィウ(Lviv)市ではこの時期にあえて自治体の所有するギャラリーの拡張を決めた。展示用に新しく絵画や芸術作品を市が買い取ることで、地元の芸術家を支援しようという目的である。

またアルバニアの首都ティラナ(Tirana)では、外出規制で交通量が激減した車道を自転車専用にレーン変えてしまうというPop-up bike laneと命名するプロジェクトが進行中だ。通常、路上駐車用として使用する車道を柵で閉鎖し、自転車用に転用しているだけのことであるが、これにより都市全体の自転車レーンのネットワークを大幅に拡大させた。そして段階的に一時的な自転車レーンを本格的な自転車レーンの整備を目指している。こうした取り組みは自治体にアイディアと人的キャパシティーがあって初めて実現するのではないだろうか。

このように地方自治体は迅速かつ柔軟な対応が可能であり、同時に長期的な都市の文化や環境を向上させる。

都市と強靭性

COVID-19の影響でエネルギーと食の地産地消が注目されることになるであろう。幸い、この記事を書いている時点で私の知る限り、エネルギーや食糧の供給が途絶えたという話は聞かないが、事態が長期化した場合、可能性としては十分あり得る。世界的に物流機能が縮小する中で生産者が海外の消費者にこれまでどおり安定的に生産品を届けられるか、不安である。国連も食糧危機の可能性を警告している。

エネルギーもこれまで考えられなかったような、原油価格の暴落が起こり、今後石油メジャーが倒産しないとは言い切れない。石油の生産が止まれば、石油余りの状況が一転し、世界的なエネルギー不足に陥る可能性も否定できない。

そのため、強靭性の観点から、都市は消費地であると同時に生産地にならなければならない。どのような災難があっても、電気、水、食料が安定的に確保できることが人々の安全を守ることになるからだ。都市とその後背地はますます協力すべきであると認識する。

それに加え、各世帯でも自宅で太陽光パネルの設置や家庭菜園などを始めるべきである。地域コミュニティーで協力し、または地元に根付いた企業が取り組むなど、まずはコニュニティー単位でエネルギーと食料の自立性を高めるべきである。その上で都市や広域でネットワーク化し、共有することで強靭性を高めることができる。

参考にすべきモデルはドイツの都市公社(Stadtwerke)である。日本にも福岡県みやま市や福島の会津で類似の地域主体の再生可能エネルギー関連の事業が立ち上がっている。ポストコロナの経済対策として、こういった取り組みを強化することを提案したい。

ローカルを大切に

これまで仕事の仲間で食事をしたり、遊んだりと、仕事は社会的な側面を提供してきたのではないか。テレワークの拡大が予想さえる未来では、仕事の付き合いより地元の仲間との交流が増えることが予想される。都市がコンパクトになることによって、同じ地域に住む人々同士でより密接なの地域社会を構築していく。今後は、そんな人間社会の原点回帰とテクノロジーの融合により、シェア・エコノミーの土台が形成されていく。

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最後に

コロナの被害は深刻であり、経済への影響も図り知れない。一方で、都市の構造や社会全体の在り方をより良い方向へ大きく転換できるチャンスでもあるということもぜひ皆さんに認識していただきたい。ポストコロナの都市の未来は、以前よりも美しい空間になって欲しいと強く願っている。