松田智生氏へのインタビュー
マッテオ・ベルフィオーレ:
イタリアの作家フォスコ・マライーニは、日本の美しさは隠されていることが多く、発見するには努力が必要だと書いています。旅行中に見つけた隠れた美しさの例をいくつか教えてください。
松田智生:
「隠れた美しさ」とは確かに素晴らしいキーワードです。私が訪れた場所のほとんどは、インバウンドで混雑した京都や大阪と比較すると、「それほど有名ではない」小さな村、町、または市です。そこには、逆参勤交代に関心を持っている市長や重要人物が活躍しています。「隠れた美しさ」を見つけるには2つのアプローチがあると思います。1つは、あなたの本能と直感を信じることです。そうすると誰も知らない「隠れた美しさ」を偶然に発見することがあります。
もう一つはそれについて地元の人々に尋ねることです。例えば、私は長崎県壱岐市の神社を訪ねました。 神社は海の真ん中にあり、干潮時のみ神社に通じる道が現れます。なんて神聖なことでしょう!
さらに隠れた美しさは、自然、神社、寺院、古い家屋だけでなく、「地元の人々」にも存在します。彼らは伝統と文化を守り、新たな挑戦を試みています。これらの魅力的な人々は、得てして寡黙で多くを語りませんが、彼らの精神の炎を心の奥底に隠しています 私にとって、もう一度訪れる動機は、美しい海、山を見ることだけでなく、「地元の魅力的な人と再会」することです。したがって、隠れた美しさは自然だけでなく、地域の人々にも存在すると思います。
マッテオ・ベルフィオーレ:
あなたの本の最後の章は「ライフワークとしての逆参勤交代」と題されています。多くの人があなたの仕事を羨ましく思うでしょう。なぜなら、頻繁に出張し、日本の魅力的な場所を訪れる仕事だからです。あなたのライフワークについて詳しく教えてください。
松田智生:
最初のキーワードは「プラチナ社会」の実現でしょうか。私は地域活性化とアクティブシニア論を専門としています。ご存知のように、日本は高齢化率が最も高く、約28%です(イタリアが2番目で23%です)。特に日本の地方ははるかに高く、40%以上の高齢化率の町も多くあります。日本の超高齢社会は危機に瀕しているように思えます。しかし今こそピンチにチャンスに変える視点が必要です。課題を積極的に解決することができれば、日本は「課題先進国」から「課題解決先進国」に変わるはずです。
私のライフワークは、課題を解決することで「プラチナ社会」を実現することです。白髪のイメージから高齢社会はシルバー社会と呼ばれていましたが、銀は錆びるし、ネガティブなイメージがあります。一方、プラチナは錆びることはなく、常に輝いています。そして、これは高齢者だけでなく、若者・ミドルの全ての世代が輝く社会であるべきです。
したがって、逆参勤交代はプラチナ社会を実現するためのアイデアの一つであり、個人のワークライフバランスは充実し、地域の高齢者はよりコミュニティに貢献し、地方は関係人口の増加、経済の活性化につながります。さらにビジネスでは、5Gによるローカルイノベーションの機会をもたらします。つまり、個人・地域・企業の三方一両得になるのです。
二つ目のキーワードは「化学反応」です。本のエピローグで述べたように、私は東京で生まれ育ちました。そのため、子供の頃、夏休みや正月に田舎に帰るという経験がありませんでした。しかし、逆参勤交代の研究のおかげで、私はたくさんの地域を訪問して、多くの人々と会うことができました。そして夜は満点の星空を見て、朝は鳥のさえずりを聞いて目を覚ますような、東京では出来ない経験をし、地域で頑張る魅力的な人々に出会うことで、これらの場所が私にとって第二の故郷のよう思えるようになりました。
日常生活に行く機会のない地域では、これまで会ったことのない人と出会う。そこでの新しい気づきを通じて、私の中で化学反応が起こり、私の生きる力が溢れてきます。逆参勤交代とは、そんな経験ではないでしょうか。
逆参勤交代では都市のビジネスパーソンと地域の方々との間に、良い化学反応を提供できます。逆参勤交代はとてもエキサイティングな体験だと思いませんか?私のライフワークとして私を刺激し、モチベーションや生きる力を与えるより多くの「化学反応」が必要です。
マッテオ・ベルフィオーレ:
この本では、逆参勤交代が仕事への満足と経済成長の両立に貢献できると述べられていました。この戦略は、仕事中毒の文化と厳密な伝統的働き方で有名な日本にとって、非常に有望に思われます。しかし、日本では物事はゆっくりと変化しており、なかなか動きません。あなたの本は確かにその変化への大きな刺激になるでしょう。現在の日本の働き方の文化についてどう思いますか?逆参勤交代がどのように、どのくらいの速さで古い伝統的な企業文化を変えるのに役立つでしょうか?
松田智生:
いい質問ですね。日本が従来の仕事中毒のスタイルを変えようと「働き方改革」をしようとしてから長い時間が経ちました。最小限で、非常に小さく、非常に遅く、ほとんど進歩がないように思えるほどです。しかし、私たちはコロナウイルスとの戦いに直面していることで、テレワーク、リモートワークが急速に広がっています。これはITやベンチャーの新興企業だけでなく、大企業でも起こっています。今多くの経営者が、東京の中心部で高額なオフィス賃料を支払い続けることは無駄だと気づき始めています。東京のオフィスへの投資よりも、地方のサテライトオフィスの投資の方が、従業員のワークライフバランスや生産性やSDGsの面でも有効でしょう。
コロナウイルスのショックによって大きな変化が始まります。これは古い日本の働き方を改革する機会になるでしょう。逆参勤交代の大きな変革を実現するためには、「アメとムチ」、「インセンティブと義務」の組み合わせといった制度設計が必須です。
たとえば、インセンティブでは、企業が逆参勤交代を開始する場合、問題は列車、飛行機、サテライトオフィス、住宅の費用負担です。行政が企業への補助、または法人税の軽減を行います。また企業の社員が地方で兼業・副業をする場合、その所得税の減税もあります。そして政府と経済団体は、逆参勤交代に挑戦する企業を表彰すべきです。それはESG投資やSDGsに関心のある投資家やステークホルダーへのアピールとなり、表彰された企業の株価や企業価値は上昇するでしょう。
もう一つのポイント「義務」です。江戸時代には、藩主が江戸(東京)に参勤交代することは厳格な義務でした。できない場合は改易や減封等、厳しい罰則がありました。
日本人は義務、ルールに従う国民性があります。江戸の参勤交代が厳格な義務だったように、大企業がSDGsの立場から逆参勤交代を行わなければならない義務という基準を設ければ、ほとんどの企業がこれらのルールを守るでしょう ルールを守らなければ増税の罰則です。
もうひとつ、日本人の「みんながやるなら自分もやる」という国民性を生かすのです。さらに競合他社が逆参勤交代を開始したら、他の企業もそれに続くでしょう。減税や補助金や表彰のインセンティブと、罰則や同調性という義務の両方を効果的に使うことで、逆参勤交代は迅速に動くはずです。
私はこの本で逆参勤交代を主張することによって、行政と企業に積極的に働きかけています。逆参勤交代は、日本における働き方と住まい方の新しいライフスタイル、さらにQOL(生活の質)向上のための大きな潮流を作ると信じています。