川崎にある秀光の刷新された本社は、こちらの前提を静かに揺さぶるプロジェクトの一つだ。私は日本で数多くの「フリーアドレス」オフィスを設計し、観察してきた立場として興味深く訪れた。そして、シンプルな確信を持って帰ってきた。うまく機能する柔軟なオフィスと、機能しないオフィスの差は、家具だけで決まることはほとんどない。文化、ルール、そしてリーダーシップ。秀光はこの三つが噛み合うときに何が起きるかを示している。

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その理由は、会社の歩みにも表れている。秀光は1941年に創業し、1947年に法人として設立された。家具製造、内装工事、建築金物の分野で、日本を代表する存在へと成長してきた。専門領域はオフィスに限らない。カウンター業態、金融機関、リテール、そして高い精度・耐久性・メンテナンス性が不可欠な専門施設など、多様な空間で什器の供給と設計に携わってきた。この産業的な背景が、秀光の空間観を形づくっている。内装を一時的な“舞台”として扱わない。時間の中で性能を発揮し続ける“システム”として捉えているのだ。adf-web-magazine-shukohHQ-00001 (1)もう一つの特徴は、秀光の国際的なネットワークである。同社は欧州およびイタリアのメーカーを中心に、10社以上と技術的パートナーシップを築いてきた。これは象徴的なつながりではなく、価値観を共有する長期的な関係だ。Uniforをはじめとする名だたるブランドや欧州グループと協働し、「良いものを長く使う」という文化、品質への敬意、細部へのこだわりを実践している。秀光は業界に対して「本物(authentic)の素材」「本物のデザイン」を見直すよう促す。とりわけ、見た目だけ品質を模す合成仕上げへの依存、なかでもPVCタイルやシートの広範な使用を批判する。その議論は環境面だけではない。文化の問題でもある。責任ある素材選択、修理可能な仕組み、そして配慮ある生産サイクルへ。秀光はその方向性を明確に掲げている。adf-web-magazine-shukohHQ-00002同社の環境戦略も、この姿勢を補強する。プラスチック使用量を減らし、リサイクルと資源循環を強化するために、アルミニウムをベースとした技術を開発してきた。製品はモジュール構成を採用し、丸ごと廃棄ではなく部品交換によって修理できる。これはスローガンではなく、工学的リアリズムに根ざしたサステナビリティだ。そして同時に、職場文化とも直結する。修理可能性、長寿命、廃棄削減——これらの原則は、組織の習慣にも応用できる。

この哲学を自然に延長した取り組みが、OCEAN Projectである。オフィス家具業界に広く見られる「買って捨てる」サイクルに対抗する、秀光のイニシアチブだ。メッセージはシンプルで、企業のアイデンティティと一貫している。高品質な製品を長く使うこと。不要な廃棄をなくすこと。そして“本物”の文化へ立ち戻ること。OCEANは、劣化の兆しが見えた時点で買い替えるのではなく、修理し、再利用し、メンテナンスし続けることを促す。それは環境姿勢であると同時に、文化的な再定位でもある。サステナビリティをマーケティング用語ではなく、日々の実践として捉え直す試みだ。OCEANは、秀光の製造思想と職場ビジョンをつなぐもう一つの橋であり、「長く続くシステムには、長く続く価値観が必要だ」ということを思い出させてくれる。adf-web-magazine-shukohHQ-00012そして、ここで佐久間裕太氏が登場する。秀光の社長であり、三代目のリーダーとして、家族経営の工業企業のレガシーを引き継ぎながら、同時にその文化的射程を広げている。彼のプロフィールは、親しみ深さと同時に、珍しさも併せ持つ。長年続く日本の製造業に典型的な継続性と規律を体現しているという意味では“馴染み深い”。一方で、世界観は直接的な海外経験によって形づくられているという点で“異例”だ。イタリア語を話し、イタリアで働いた経験がある。そして、自転車とそのライフスタイル文化への本物の愛着も持つ。これらは個人的なエピソードに見えるかもしれない。しかし実際には、より広い思考の枠組みを示唆している。西洋と東洋の感覚を混ぜ合わせ、職場を単なる技術環境ではなく、文化と行動のエコシステムとして捉える視点である。adf-web-magazine-shukohHQ-00004佐久間氏が触れてきた異なる働き方のリズムや空間の捉え方は、OCEANと川崎本社が同じ論理でつながっている理由を説明してくれる。すなわち、真正性、責任、そして長期性へのこだわりだ。彼のリーダーシップのもと、環境倫理、デザイン文化、運用上の合理性が一つの方向へ収斂している。その統合——静かで、明確で、意図が深い——こそが、秀光のアプローチを際立たせている。adf-web-magazine-shukohHQ-00005インタビューで最も印象的だったのは、派手な名言ではない。日常の問題を空間の解決に結びつける、その落ち着いた明晰さだった。川崎本社の刷新は、流行としてのオープンスペースを目指して始まったわけではない。出発点は、旧オフィスへの実務的な疲労感だった。2007年から数年前まで、デザインとレイアウトはほぼ変わらない状態が続いていた。前へ進む時期だったのだ。引き金は美観だけではない。運用そのものだった。adf-web-magazine-shukohHQ-00006佐久間氏が語った大きなフラストレーションは、デジタル時代にはもはや意味の薄い紙ベースの業務に、多くの時間が浪費されていたことだ。最も象徴的なのが経費精算である。旧システムでは毎週手作業の報告が必要で、社員は毎週月曜の朝の一部を費用と移動の登録に使っていた。これを数十人分、毎週繰り返すと、浪費の総量は驚くほど大きい。パンフレットに載らない類の非効率だが、仕事の質を静かに削っていく。adf-web-magazine-shukohHQ-00007新オフィスは、この問題を真正面から扱った。Mobile Suica機能と会社のクレジット運用を統合したデジタル経費システムを導入し、各社員がスマートフォンで経費を管理できるようにした。単なる事務のアップグレードに聞こえるかもしれない。しかしこれは職場設計における基礎的な一手である。会計・記録のエコシステムがデジタル化されると、空間への影響は即座に現れる。紙のアーカイブが不要になり、キャビネットや収納壁の必要性も減る。オフィスが“呼吸”できるようになる。adf-web-magazine-shukohHQ-00008私自身のプロジェクトでも、ペーパーレスは“意図”として語られるだけで、現実にならないことが多い。多くのクライアントが「紙をなくす」と宣言しても、移行がうまく実行されないために、大量の収納が残ってしまう。秀光が教えてくれるのは、「ペーパーレス・オフィス」はスローガンではないということだ。システムレベルでの意思決定であり、それを支えるツールとルールが必要なのである。adf-web-magazine-shukohHQ-00009ここから、より大きなテーマ——フリーアドレスへとつながる。COVID-19以降、日本のオフィス設計で最も流行した言葉の一つがこの“ラベル”だ。柔軟性、アジャイル、ハイブリッドといった物語とセットで語られる。しかし実務では、越えがたい文化的障壁があると私は感じている。社員は固定席を手放しにくい。新しいオープンレイアウトでも、見えない習慣が戻ってくる。毎日同じ席を確保しようとする。私物が置かれ続ける。収納がワークステーションに残る。結果として、紙の上では「フリーアドレス」でも、実態は「固定席」になってしまう。adf-web-magazine-shukohHQ-00010私がしばしば「旧モデルの抵抗」と呼ぶ現象だ。社員が悪いわけではない。不確実性に対する予測可能な反応である。固定席は“安定したもの”への同一化だ。組織が構造化された代替を用意しない限り、人は慣れたものに戻る。多くのプロジェクトが失敗するのは、まさにこの心理的・文化的次元を過小評価するからだ。adf-web-magazine-shukohHQ-00011佐久間氏は当初からそれを理解していたように見える。彼のアプローチは、デザインのレトリックでフリーアドレスを押し付けることではなかった。固定化された行動を静かに可能にしてしまうインフラを解体することだった。重要な一手が、デスクワゴンや個人用ペデスタルの撤去である。多くの職場で、これらの引き出しは縄張り意識を支える“見えない錨”になる。机が共有でも、個人の容れ物があるだけで所有感が維持される。佐久間氏はこの点について驚くほど率直だった。これらを残すなら、企業は本当に仕組みを変えてはいない。ただ言い換えているだけだ、と。adf-web-magazine-shukohHQ-00013その率直さは、主流メーカーの商業ロジックに対する批判にもつながる。フリーアドレスを熱心に提唱する大手サプライヤーであっても、個人の執着を温存する部品——デスクワゴン、ペデスタル、収納——を売り続けている。メーカーであり、デザイン志向でもある秀光は、この矛盾に挑む立場にあった。ワゴンがないことは無邪気な空間判断ではない。戦略的な立場表明なのだ。adf-web-magazine-shukohHQ-00014デスク収納の代わりに、各社員には個人ロッカーが与えられた。これは本当に柔軟なオフィスにおける、最もシンプルで効果的な手である。日々の儀式が変わる。到着してロッカーを開け、PCや私物を取り出し、その日の席へ向かう。バッグや上着が机の下や椅子に散らからない。オフィスは視覚的に落ち着き、機能的に明快になる。adf-web-magazine-shukohHQ-00015ワークステーションのレイアウトも、このロジックを補強する。従来の直線配置から、120度の配置へと移行した。空間にバリエーションが生まれ、近さとプライバシーのバランスがより繊細になる。フリーアドレスが失敗しやすいのは、オープンプランがあまりにも均質で“どこも同じ”になったときだ。机の感覚が同一だと、人は安定を求めて同じ場所を占有しがちになる。だが、向きや雰囲気に微妙な違いがあると、移動が自然になる。

秀光は活動とトーンに基づくゾーニングも導入した。キーワードは「コミュニケーション」「集中」「イマジネーション」。壁に貼られた抽象的な標語ではない。空間のパレットそのものに反映されている。対話と交流のエリアと、集中のためのゾーンを明確に分ける。色の使い方は、オフィスをテーマパーク化することなく役割を固定する。席が日々変わる環境では、こうした手がかりが不可欠だ。個人の縄張りに代わる、共有の“心の地図”をつくるからである。adf-web-magazine-shukohHQ-00016最も記憶に残るデザイン表現は、半円形のワークステーションと中央の円卓を統合した構成だろう。発想はシンプルで、そして見事だ。前を向いて座れば個人の集中が得られる。椅子を回転させれば、中央を囲む同僚との協働モードにすぐ切り替えられる。幾何学が行動のスイッチになる。ミクロなデザイン判断がマクロな文化を形づくる好例である。adf-web-magazine-shukohHQ-00017数字も示唆的だ。新オフィスは、社員数に対してデスク数を大きく減らし、フル稼働が常態ではないことを受け入れた。私の経験では、日本では今も「社員=デスク」の厳密な1対1を求める企業が多い。その結果、オフィスが過剰に大きくなり、使われない面積が増える。秀光は別のロジックを採る。固定インフラを控えめに減らすだけで、運用コストの削減につながり、同時に残るワークステーションの体験をよりゆったり快適にできる。adf-web-magazine-shukohHQ-00018重要なのは、このプロジェクトが教条的ではない点だ。セキュリティや運用上の配慮が必要なところでは固定席を残している。例えば経理、あるいは専門的なCADやRevitの作業環境などだ。これらはローテーションで利用でき、佐久間氏は在宅からのリモート操作の可能性にも言及した。可能なところは柔軟に、必要なところは固定に。こうしたハイブリッドな判断は、フリーアドレスの成熟した解釈だ。すべてを均一化しようとするイデオロギーの罠を避けている。adf-web-magazine-shukohHQ-00019会議文化も同時に再編された。開放性を補うために個室を増やすのではなく、会議室の数を減らし、会議そのものの意味を変えたのだ。サンプルライブラリーや参照壁の周囲で、立ったままの短い議論が起こる。フォーマルな会議は少なく、週のリズムの中で明確に設定される。佐久間氏はここでも率直だった。必要のない会議に多くの人を巻き込みがちな日本の傾向が好きではないという。彼の対応は、延々と調整することではなかった。期待値を変え、新しい規律を徹底することだった。adf-web-magazine-shukohHQ-00020この点は、私が日本で職場を設計してきた中で繰り返し見てきた事実と一致する。組織が会議文化を変えない限り、空間改革は本来の効果を発揮しない。オープンプランはしばしば「中断が多い」「集中できない」と批判されるが、その問題の多くは、時間構造や意思決定の習慣が従来のままだから起きる。秀光はそれを理解していた。オフィスは新レイアウトの容器ではない。新しい運用行動のプラットフォームなのだ。adf-web-magazine-shukohHQ-00021勤務時間の設計も同じ方向性を補強している。秀光は早い時間帯を中心にしたリズムを推進する。標準的な勤務は概ね8:00〜16:30で、最大でも18:00程度までの延長にコントロールされる。残業が忠誠心の証として扱われがちな国において、これは強い文化的メッセージだ。佐久間氏はウェルビーイングを成果のための構造として位置づける。頭がフレッシュな朝に集中し、コミュニケーションや調整はその後に行う。adf-web-magazine-shukohHQ-00022川崎本社を全体として見ると、成功の要因は単一の要素ではなく“順序”にあると思う。デジタル化が紙を減らす。紙が減ると収納が要らなくなる。収納はデスクからロッカーへ移る。デスクの“個人アイデンティティ”が薄れる。レイアウトとゾーニングが移動を支える。ルールが後戻りを防ぐ。会議文化が規律化される。労働時間が持続可能になる。システムが一貫する——この一貫性は稀だ。多くのフリーアドレスは見た目が新しくても、振る舞いは古い。秀光が違うのは、フリーアドレスを組織のアーキテクチャとして扱っているからだ。柔軟性を“可能にする”だけではない。柔軟性が最も簡単な道になるよう設計している。

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COVID後のオフィスに向き合うデザイナーやクライアントへの示唆は明快である。フリーアドレスは宣言だけでは成功しない。矛盾するインフラを取り除き、なぜそれが重要なのかを透明に語り、段階的でありながら揺るがないリーダーシップを伴う必要がある。人は基本的に変化に抵抗する。だからこそ、システム設計によって「新しい日課が古い日課より簡単」にならなければならない。秀光はその転換点に到達しているように見える。

オフィスを後にしたとき、私は多くの職場プロジェクトが失敗する理由を思い出していた。アイデアが間違っているのではなく、実行が途中で止まるからだ。秀光の川崎本社は、その逆を示している。革新は静かで、精密で、一貫している。新しい文化を象徴ではなく現実として扱うリーダーシップに支えられている。流行語と手早い処方箋があふれる職場の世界で、秀光は本当に重要なことへ立ち戻る。無駄を減らすこと。表面的な柔軟性を拒むこと。長く持続するシステムを築くこと。デスクではなく行動を設計すること。だからこそ川崎本社は、単なる改修の成功を超え、日本のオープンプラン・オフィスがようやく本当に“自由”になるための、小さいが意味のある設計図となっている。