シンガポールの自然の中に消え込むように佇む再生型エコリゾート
「ガーデンシティ」から「シティ・イン・ネイチャー」への進化を掲げるシンガポールにおいて、その理念を建築として大胆に表現したのがWOWアーキテクツの手がけた「マンダイ・エコリゾート」。政府主導によるコンペティションから生まれた本プロジェクトは、マンダイ・ワイルドライフ・パーク周辺の自然保護区に慎重に配置された再生型リゾートとして構想された。この建築はただ風景に溶け込むのではなく、自然環境をより豊かにする役割を果たす。従来の動物園のパラダイムを転換し、ゲストと自然・野生動物を隔てるのではなく、人間がジャングルの生態系の一部として溶け込み、調和的に共存するという新しい関係性を提案する。
建築とランドスケープ
リゾートが建つ4.6ヘクタールの敷地は、かつてシンガポール動物園のバックヤード施設があった場所。建物は、敷地の高低差や既存の植生に寄り添うように丁寧に設計され、建設時に伐採された在来樹種の再植栽によって、敷地全体の緑がさらに豊かになった。建築形態は森林に自生するツル植物「リアナ」に着想を得ており、決まったファサードを持たず、森の中を縫うように蛇行する分岐状のボリュームが特徴。建物と自然が一体となり、生きて呼吸する有機的な存在となっている。
338室の客室のうち24室は高床式のツリーハウスで、すべてが自然換気と快適性を高めるパッシブデザインに基づいて設計された。これにより、同種のホテルと比較して約40%のエネルギー消費削減を実現しており、シンガポール初のスーパー・ローエナジー・ホテルとして注目を集めている。この省エネ性能は、自然換気の廊下とロビー、ミックスモード空調、ソーラーパネルの導入、ツリーハウスにおけるパッシブ・ディスプレースメント・ベンチレーション(PDV)の活用など、総合的な環境戦略の結果によるもの。PDVでは、従来のコンプレッサーを用いずに冷気が静かに循環し、効率的な冷房を実現している。
主な建物の客室棟は4〜5階建で、ジャングルの中を曲線的に広がるように配置されている。種子を模した形のツリーハウスは、既存の木々の間に慎重に配置され、ジャングルの小径や高架の遊歩道で繋がる。敷地内の樹木の半数以上が保存され、そのうち約40%は保全価値の高い種である。さらに、屋上やファサードへの植栽によって、リゾート全体の生物多様性が一層強化されている。
インテリアデザイン
インテリアはジャングルを探検する冒険と発見の旅を空間全体に反映させている。屋外とのつながりを意識した快適な滞在空間が広がり、ゲストは自然環境に順応しながら、新たな暮らし方を体験できる。客室はジャングルを眺める快適なシェルターとして設計され、スライド式のドアやベランダ、バルコニーによって屋内外が連続的につながる。内装と外装で素材を共通化し、境界を曖昧にしている。浴室は自然光を取り入れた設計で、可動式のパネルを使って寝室側とつなげることで、開放感ある空間が生まれている。また、地元のアーティストや職人と連携し、壁画や家具、アート作品を通じてマンダイの生態系を表現。滞在を通じて、地域の動植物に対する理解と記憶を育む仕掛けが随所に施されている。
意識的な滞在を支えるリゾート運営
運営を担うのは、シンガポール発のバンヤンツリー・グループ。ブランドの中核理念である「環境を尊重し、人々をエンパワーする」に基づき、持続可能な体験、責任ある消費、自然との意味ある関係構築を重視したリゾート運営が実践されている。設計の主導を担ったWOWアーキテクツは、持続可能性に特化した専門チームと密に連携。さらに、ランドスケープ、教育、環境、音響、植物学など多分野の専門家によるアドバイザリーチームも編成され、総合的な視点でプロジェクトが進められた。WOWアーキテクツは、バンヤンツリーの理念を発展させ、建築が自然と共生するだけでなく、積極的に自然環境を回復・向上させる「再生型デザイン」を追求。人工と自然の境界を曖昧にし、プロジェクト完成時には着工前よりも良好な生態環境を残すことを目指した。ゲストに対しても、没入型かつ意識的な滞在体験を提供する。
WOW Architects
WOWアーキテクツは建築、インテリア、ランドスケープ、マスタープランニングを手がける国際的なデザイン・コンサルタント。文化、記憶、場所性に根ざした、五感を刺激する空間体験の創造をミッションに掲げている。ホスピタリティ、住宅、商業分野において、ライフスタイル志向のコンセプトを強みとする。

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