発酵の街・鶴来から考えるアートと地域のつながり:伝統がアップデートされる過程を探る
江戸時代の町の庄屋であった建物を改装したうらら館(白山市鶴来)で、鶴来現代美術祭の記憶が約30年ぶりに蘇る。日本の芸術祭の源流とされる1991年から1999年まで鶴来町(現・石川県白山市鶴来地区)で開催された「鶴来現代美術祭」を検証するアーカイブ展が2024年9月21日から12月8日まで開催される。
当時、地元商工会の青年部が主体となって運営され、現代アートの専門家が不在の中で継続的に活動が行われたという点で、他の地域におけるアートプロジェクトとは異なるユニークな事例となっている。今回のアーカイブ展では、当時の関連資料や2015年に撮影・編集された関係者へのインタビュー映像が初公開となり、これらの展示を通じて地域とアートがどのように関わり合ってきたかを再考する機会が提供される。
映像アーカイブ:メディアが捉えた鶴来現代美術祭
1991年の「ヤン・フート IN 鶴来」は、ベルギーで開催された「シャンブル・ダミ」展の日本版として企画され、日本の現代美術祭の原点として評価されている。当時の現代美術の認知度は低かったが、メディアが現代美術を取り上げたことで、鶴来現代美術祭は全国的に注目を集めた。展示会場では、当時の報道番組での特集映像が上映され、鶴来現代美術祭の広がりを見直すことができる。
フォトアーカイブ:まちなか展示、滞在制作の記録
鶴来現代美術祭では、地元商工会青年部が企画運営を担い、アーティストと地域住民が協力してまちなかで現代アートの展示を実現した。このアーカイブでは、1994年にヤン・フートが選出した3人の作家の滞在制作の様子が紹介されており、地元の団結力とアートの融合が垣間見える。特に、リバーサルフィルムによる膨大な写真記録が展示されている。
制作アーカイブ:運営資料から美術祭実現への軌跡を辿る
1991年に開催された第一回鶴来現代美術祭では、東京での審査を通過した若手アーティストたちの作品が鶴来町で展示された。このアーカイブでは、当時の展示リストや運営資料が公開され、村上隆のデビューとなった展示も紹介されている。商工会青年部が主体となり、限られたリソースの中で美術祭を実現した熱意が、手書きの資料からも伝わってくる。
インタビューアーカイブ:忘却の彼方から記憶を紡ぐ
2015年に撮影されたインタビュー映像では、鶴来現代美術祭に携わった関係者や作家たちが、当時の活動について語っている。アーティスト坂野充学が制作したこの映像シリーズは、1991年から1999年にかけての美術祭の記憶を蘇らせるものであり、彼らの証言を通して美術祭の意義を再評価することができる。
非公式作品アーカイブ:アーティストから町民へ私的作品たち
鶴来現代美術祭は、大規模なパブリックアートを残すことを目的とせず、アーティストと地元住民の個人的なつながりを重視していたため、公式な作品は残されていない。しかし、アーティストが商工会青年部に感謝の意を示して残したドローイングや作品の模型など、非公開・非公式の作品がいくつか存在する。本展では、これらの私的な作品も展示されている。
「鶴来現代美術祭アーカイブ展」開催概要
期間 | 2024年9月21日から12月8日まで |
会場 | 横町うらら館 |
時間 | 10:00 - 16:00(不定休) |
料金 | 無料 |
URL | https://fermenarts.com/ |