『幾多の北』第61回アヌシー国際アニメーション映画祭&第46回オタワ国際アニメーション映画祭受賞記念
WOWOWプラスとヤマムラアニメーションの二社は、2023年1月27日(金)より、アニメーション作家 山村浩二が監督、あるいはプロデュースした最新4作品を「『幾多の北』と三つの短編」と題して共同配給し、東京 池袋の新文芸坐での公開を皮切りに全国の劇場で順次公開する。日本を代表するアニメーション作家として、また既に100冊を越える絵本作家としても知られる山村浩二。近年、NHK Eテレ「おかあさんといっしょ」のエンディング・テーマだった「べるがなる」の作詞者でもあり、現在「みんなのうた」でオンエア中の「小さな夢」のアニメーションも手掛けている。
アヌシーもオタワも絶賛 山村浩二の野心的初長編『幾多の北』の凱旋公開
今年劇場公開された犬童一心監督によるダンサー田中泯のドキュメンタリー映画『名付けようのない踊り』のアニメーション・パートを担当したことも大きな話題を呼んだ山村は、第75回米アカデミー賞の短編アニメーション部門にノミネートされた『頭山』(2002)を始め、これまでに発表してきた数多くの作品が世界中の映画祭で130を越える賞を受賞、世界四大アニメーション映画祭(フランスのアヌシー、カナダのオタワ、クロアチアのザグレブ、日本の広島)の全てでグランプリ受賞歴を持つ世界唯一のアニメーション作家であり、国内はもとより、世界中の作家たちから称賛を浴び続ける存在である。
『幾多の北』(2021 / 64分)は、彼が月刊誌「文學界」(文藝春秋)の表紙のために2012年から2014年にかけて毎号描いていたイラストとそれに付随するテキストをアニメーションに発展させたもので、コロナ下での隔離状態の中で一気に完成させた初の長編作品。東日本大震災後に彼自身が感じた不安や苦悩が、オランダの前衛ジャズ・ミュージシャンにして作曲家ウィレム・ブロイカー(1944-2010)のどこかサーカス的な音楽に乗せて、断片的なイメージや書かれた言葉で表現されていく。明快なストーリーを持たず、一般に「長編アニメーション」という言葉からイメージされるものとは異なる「行き切った」仕上がりで、その前例のないチャレンジは世界で大きく評価、今年2022年5月に行われた第61回アヌシー国際アニメーション映画祭の長編コントルシャン部門でクリスタル(最高賞)を、そしてこの9月には第46回オタワ国際アニメーション映画祭の長編部門でグランプリを受賞するなど、既に国内外で8つの賞に輝いている。
世界で28の賞に輝く矢野ほなみ監督の話題作『骨嚙み』を含む三つの新作短編も同時公開
これまで日本国内では限られた映画祭などでしか上映されていなかったこの新作長編が、2023年1月一般劇場で公開。そして『幾多の北』に加え、墨絵のかわいい動物たちが歌に合わせてコミカルに動く山村の監督作『ホッキョクグマすっごくひま』(2021 / 7分)、山村が若い作家たちをプロデュースした『骨嚙み』(矢野ほなみ監督 / 2021 / 10分)、『ミニミニポッケの大きな庭で』(幸 洋子監督 / 2022 / 7分)と、三つの新作短編も同時上映する。これら三作品も既に国内外の映画祭で多くの受賞を果たしており(特に矢野の『骨嚙み』は昨年2021年の第45回オタワ国際アニメーション映画祭の短編グランプリほか世界中の映画祭で28もの賞を受賞)、全四作品を合わせるとトータルの受賞数は実に50にも及ぶ。今回の上映は山村浩二の現在に加え、彼の元で育った新しい才能までも一望できるショーケースであり、現在日本の「作家によるアニメーション」の「極北」を体験出来る絶好の機会とも言える。
幾多の北(山村浩二監督 / 2021 / 64分)
ナレーションやセリフもなく、画面に現れるテキストと繊細に動く絵、そして音楽や効果音が巧みにミックスされたサウンドに包まれながら「体感」するアニメーション。音楽を聴くように、展覧会の絵を眺めるように、旅は続く。旧ソ連のタルコフスキーや、ハンガリーのタル・ベーラなどヨーロッパの実写映画作家の時間の流れをも思わせる、堂々たる大作。ポスト3.11、コロナ禍とも共振し、作品に身をゆだねるうちに、観る者それぞれの「北」が立ち上がる。