マンガの始まりと未来を考えるふたつの展示で幕開け
「集英社マンガアートヘリテージ トーキョーギャラリー」が、2023年11月24日(金)、麻布台ヒルズにオープンする。集英社マンガアートヘリテージにとって初めてのリアルギャラリーとなる。印刷機のなかを紙が通る様子をイメージした、曲面を多用した空間で、掛軸作品などを展示するための3畳の「茶室」と、購入する作品を選ぶためのラウンジが併設されている。マンガの始まりと未来を考えるふたつの展示でスタートする。
尾田栄一郎「ONE PIECE / Regenesis」
「Regenesis」=復活の名を冠した展示の中心となるのは、金属板に活字を埋め込んだ版でプリントした作品。マンガ展などでよく見られる原稿は、作家が描いた絵に、写植(写真植字)の印画紙が貼り込まれたもの。多くの人が持つマンガ原画のイメージは、ふきだし部分に文字が貼られた、このイメージだろう。
しかし写植が発明されて普及する前、マンガの組版と印刷は違う方法で行われていた。戦後〜1970年頃には、マンガの絵の部分を金属板(亜鉛版)に腐食製版し、ふきだし部分を糸ノコでくり抜いて、そこに活字を埋め込む、という方法がとられていた。
1976年に「週刊少年ジャンプ」に連載を開始した秋本治『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の第一話も、活字で組版されていた。ただ、こうした話は伝わっているものの、印刷の現場では亜鉛版も活字も溶かされて再利用されたため、探す限り実物は現存しておらず、写真すら見つけられない状態だった。
2022年、嘉瑞工房(東京・新宿)の協力により、マンガ原稿の亜鉛版を現在でも制作できる会社が見つかり、我々は金属版×活字によるマンガの印刷を再現するプロジェクトをスタート。腐食亜鉛版の制作〜活字鋳造〜活字組版の組込〜活版印刷にわたる工程を動画に収めた。
再現にあたり選んだのは尾田栄一郎『ONE PIECE』第一話の、1ページ。いわばオーパーツ(OOPARTS;Out Of Place ARTifactS=場所や時代にそぐわない発見物)であるこのアートプリントを、版を撮影した写真とともに展示、販売する。
撮影は木村伊兵衛写真賞受賞の本城直季。写真は、19世紀後半に発明されたプラチナ・パラジウム・プリント。印画紙は一枚ずつ手作りしている。
斜めに傾いた「!!」の活字を同梱。佐々木活字店(東京・早稲田)で鋳造。
本展では、あわせて活版平台印刷作品「The Press」シリーズと、アーカイバル・インクジェット・プリント作品「Real Color Collection」シリーズも展示する。
久保帯人「BLEACH / The Millennium」
「Millennium」=千年。千年先にマンガを伝えるにはどうすればよいのか。紙と印刷、収納まで、考えうる最良の技法と材質にこだわった作品。
正倉院にも保存されている美濃(岐阜)の紙。大宝二年(702年)の戸籍に使われている紙は、実存する最古の紙といわれている。この美濃で、可能な限り伝統的な手法を用いて、手すきの和紙を制作。テラダ和紙工房で1ヶ月に生産できるのは、わずか五十数枚。
この紙に、約150年の歴史を持ち、100年以上色が保たれることが唯一「歴史的に」実証されているといわれるコロタイプ印刷を行った。19世紀半ばに生まれたこの印刷をカラーで行えるのは、現在では世界に一社のみ。便利堂コロタイプ工房(京都)による、特色9版のプリント。深い黒を表現するために、18回印刷機のなかを通している。
プリントに作家・久保帯人のサインと押印。作品は桐箱におさめ、蓋裏に筆で墨書。NFTブロックチェーンサービス連携販売証明書と繋がるNFCタグシールを添付している。
この作品のため、深大寺(東京・調布)の書院において、友吉鶴心による薩摩琵琶演奏とのコラボレーションを実現。あわせて全作品を深大寺・元三大師堂にて護摩祈祷を行ってもらった。今回、麻布台ヒルズの集英社マンガアートヘリテージ ギャラリーの茶室「阿庵(A-an)」に作品が展示される。
ギャラリーではTIMBER CREWと共同制作したオリジナルの木製フレームも、受注制作販売予定。
集英社マンガアートヘリテージ トーキョーギャラリー 概要
住所 | 東京都港区虎ノ門5−8−1 麻布台ヒルズ ガーデンプラザA B1 |
営業時間 | 11:00 - 20:00(予約制) |
休廊日 | 月曜日および2023年12月28日〜2024年1月3日 |
予約 | こちらより予約要 |
URL | https://mangaart.jp/ja |