オリジナルのマスターピースを一貫して尊重した補修
久米設計による国立代々木競技場の改修設計が第33回BELCA賞ベストリフォーム部門に選出された。国立代々木競技場は1964年に建築家・丹下健三らにより設計された、吊り構造により屋根を支える象徴的な外観と柱のない壮大内部空間で国内外から高く評価されている建築。久米設計は丹下都市建築設計と川口衛構造設計事務所と協働し、耐震改修だけでなく、安全性向上と機能性向上も含めた改修設計を行った。その業績が評価され所有者である日本スポーツ振興センター、協働設計者、改修施工者の清水建設、大林組、三機工業とともに今回の受賞となった。
BELCA賞とはビルのロングライフ化に寄与することを目的として設けられた、既存建築物に対する表彰制度。長期にわたって適切な維持保全をしたり、優れた改修を実施した既存の建築物について、ロングライフ、ベストリフォームの2部門を設け、特に優秀なものを選考委員会にて審議して選び、その関係者を顕彰するもの。
設計コンセプト:見えないところで補強する、マスターピースの意匠保全
歴史的建築の耐震改修に当たり、利用者の視界内での補強をなくすことを方針とした。第一第二体育館とも時刻歴応答解析を用い屋根面も含めた構造体全体での評価を行った。両棟とも下部構造への耐震壁の増設増厚と杭増設、屋根鉄骨部材のプレート補強や座屈に対する補強等を行うことで、スタンドの柱など、視界内での補強をなくしている。
非構造部材の改修として、支持材の工夫により既存材を生かすアリーナ天井脱落防止、80mm厚スラブへの炭素繊維シート補強等を行った。岡本太郎他による多数の壁画はRC壁の増厚、コンクリートブロック壁への差し筋補強や炭素繊維シート補強により保全。安全性向上として、手摺の追加、車椅子席の追加、スロープ追加、舗石平滑化等のバリアフリー化を行い、災害時に利用可能なトイレの採用など地域のレジリエンスにも配慮した。
過去の改修で変えられた部位を竣工時のイメージに戻すなど、オリジナルへの敬意を持って、マスターピースの意匠保全に努めた。改修後の2021年8月に意匠的にも技術的にも秀でた戦後モダニズム建築として重要文化財の指定を受けている。
国立代々木競技場 建築概要
所在地 | 東京都渋谷区神南2丁目1-1 |
建築主 | 独立行政法人日本スポーツ振興センター |
設計者 | 丹下・久米設計共同体 川口衛構造設計事務所 |
施工者 | 第一体育館 清水建設/第二体育館 大林組・清水建設 |
延床面積 / 階数 | 40,841.42㎡ / 地上2階地下2階 |
構造 | RC一部S造 |
竣工 | 1964年 / 改修:2020年 |
受賞 | BELCA賞(ベストリフォーム部門)/DOCOMOMO Rehabilitation Award/耐震改修優秀建築賞 |
URL | https://www.jpnsport.go.jp/yoyogi/ |