ニューヨークのグッゲンハイム美術館でラシッド・ジョンソンの大規模な展覧会「A Poem for Deep Thinkers」が開催中
シカゴ出身のアーティスト、ラシッド・ジョンソン(1977~)は、歴史、哲学、文学、音楽など、さまざまな分野を融合させた多様な作品を制作してきた。ニューヨークのグッゲンハイム美術館では、2026年1月19日までジョンソンの大規模な展覧会「A Poem for Deep Thinkers」が開催されている。アフリカ大陸ホメオパシーの象徴としてのブラックソープ(アフリカの伝統的な自然由来の石鹸)やシアバターなどを使用した絵画や彫刻、また映像作品など90点の作品を見ることができる。
シカゴ美術館附属美術大学で修士号を取得したジョンソンは、日常的な素材やオブジェを使い、そこに物語を持たせる作品を制作することで知られている。そういった素材は彼の幼少期を想起させることが多く、近年の作品は個人的および集団的な不安や内面性といった、実存的なテーマを掘り下げている。
館内に足を踏み入れると、まず目に飛び込んでくるのは天井から吊られたたくさんの植物だ。真っ白な螺旋階段の内部に浮かぶような観葉植物と、その周囲に並ぶ展示作品にも多くの植物が取り入れられている。ジョンソンはグッゲンハイムのインタビューで、植物が持つケアや共感といった力を空間に反映させたかったと語っている。実際、展示期間中には館内スタッフが植物の手入れを行うという。

Fatherhood as Described by Paul Beatty, 2011. Branded red oak flooring, black soap, wax, books, branding irons, shea butter, oyster shells, space rock, gold paint.
一方、植物の次に多く目についたのが本を使用した作品だ。その本を知らないと何を示唆しているか理解が困難な作品もあり、作品から受けるある種の拡張する空間は受けてによって大きく変わる。そういった意味でオブジェクトとしての本はある種興味深い。どういった本が使用されていたか後から調べてみると、例えば木材を使った棚のような彫刻作品であるFatherhood as described by Paul Beattyは、アメリカの人種差別を風刺した作家Paul Beattyにちなんで名付けられている。中央にはアメリカのコメディアンであるビルコスビーが、父親であることをユーモラスに描いた書籍Fatherhoodが置かれ、その下には写真家エリオット・アーウィットが撮影した有名な少年の写真がある。ユーモアを含んだ笑顔でおもちゃのピストルを頭に向ける黒人の少年は、人種差別が酷かった1950年に撮影されたものだ。他にも、植民地主義を批判したポストコロニアル理論の先駆者である精神科医のフランツ・ファノンの本を使った作品や、ハロルド・クルーズの「黒人知識人の危機」、デブラ・Jディッカーソンの「黒人性の終焉」などがあった。

The Broken Five, 2019, ceramic tile, mirror tile, branded red oak flooring, vinyl, spray enamel, oil stick, black soap, and wax

Untitled Escape Collage, 2018, Ceramic tile, mirror, branded red oak flooring, vinyl, spray enamel, oil stick, black soap, wax, and panel
絵画作品はコラージュ的なものが多かった。The Broken Fiveは壊れたタイルや鏡を再構築し人物像を構成し、Untitled Escape Collageはヤシの木やアフリカンマスクのイメージの上にワックスとブラックソープが混ざったものが塗られており、ディアスポラとしてのアフリカン・アメリカンの複雑なアイデンティティへの問いをあらゆる作品から感じた。
ジョンソンの母はアフリカ史の教授であり、黒人であること、またアフリカ人であるということとその関係性について研究していたという。ジョンソンも幼少期には、アフリカの伝統衣装のダシキを着て体にシアバターを塗られ、黒い石鹸も使っていたという。本展は黒人という概念に深く関係しており、作品の視覚言語も、黒人のアイデンティティや歴史的解釈を考察するための複雑な装置となっている。展示には、パフォーマンスやミュージシャンによる演奏、また詩の朗読会も開催されており、かつ長期の9カ月間の開催という異例の期間だ。中には展覧会期間中に花を咲かせるものもあるようだ。

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