尾道市立大学美術館にて稲川豊の個展が開催

MOU 尾道市立大学美術館では本学美術学科油画コースの准教授、稲川豊による個展「符と思う| eASY mECHANISM」が、2022年11月12日(土)から12月25日(日)まで開催される。本展において稲川は、新作のビデオ作品、非物質的表皮としてのサテン・プリント、作者の意図を歪曲するスカルプチャー、再制作されたペインティングなどを用い、詩的な概念展開図の視覚化を試みる。11月12日にはアーティストトークが企画されている。adf-web-magazine-onomichi-museum-inagawa-yutaka-easy-mechanism-3.jpg

デジタル領域を支える“デジタルを内包する物質” というアイデア、他人の霊魂を憑依させる媒介としてのイタコの存在、はたまたリバース・カルチャーショックにおける文化的OSの縄張り争いや個人に付与される属性のシフト。これらに見られるような、物理的な実在と非物質的“彼岸” が錯綜する交差点への介入は、稲川のアート・プラクティス(芸術実践)の中核をなしている。adf-web-magazine-onomichi-museum-inagawa-yutaka-easy-mechanism-2

展覧会構造を一つの表現メディアとして捉える稲川は、いくつかの象徴的アイデアを既存の表現フォーマットと絡め、複雑な関係性を提示する。展示空間の構成要素とアート作品の流動的な関係性を再構築するSculptural Pedestal(彫刻的台座) と名づけられた一連のユニット的創作物は、全体のインスタレーションに可変性を与え、展示空間への接続点をずらしながら、個人邸宅からアートスペースへと改装された場の特性に関係していく。それに対し、過去作品の部材は新たな役割・構造を与えられ、“作品化という彼岸” と“手元の素材” の間で揺れ動くモジュールとして、オルタナティブな着地を見せていく。また、大型サテン・プリントのシリーズはデジタル・スキンとして湾曲しながら物理的構造に被さり、デジタル処理で誇張された色とテクスチャーは透過性を有し合成され、光沢のある物質の中に埋め込まれている。

2022 年頭に撮影されたシングルチャンネル・ビデオMeet the Sealion (17: 49)は、尾道出身、20世紀の画家小林和作の旧宅で撮影され、屋内に保存されている家具や食器など、和作ゆかりの品々が様々な介入物と交差し、新たなタイムラインを構築します。た、映像は、2022 年、稲川がフォローしていた一連のツイッター上のやりとりを足がかりに創作された詩的スクリプトの各段落に対応する23 のセグメントで構成されている。

展覧会のタイトルである、「符と思う| eASY mECHANISM」は、それ自体が展示に関係した構造物として提示されている。タイトルは、日本語と英語の言葉を並列した形で構成され、展覧会自体とパラレルな位置付けにあるもので、両者は同軸の構造的コンセプトを共有している。日本語部分は、一見意味をなさない不条理なものであり、翻訳困難な詩的構造を有しているが、スピリチュアリティや疑似スピリチュアリティへの関係を示唆する響きを与えられている。英語のパートでは、言語が持つ容器としての構造や機能をずらして新たな意味合いを生み出している。adf-web-magazine-onomichi-museum-inagawa-yutaka-easy-mechanism-1

稲川豊 プロフィール

1974 年東京生まれ。東京芸術大学絵画科油画専攻卒業(1997 年)、ロンドン芸術大学チェルシー・カレッジ・オブ・アート・アンド・デザイン修了(2004 年、MA Fine Art)、尾道市立大学芸術文化学部美術学科 准教授。ロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アートをはじめとした様々なイギリスの美術大学で客員アーティストとして、トークやチュートリアルを行っている(2020-2021、オンライン含む)。ロンドン、ソウル、クアラルンプールなどでの個展や、フランス、イタリア、ドバイ、台湾、韓国、アメリカなどでグループ展・アートフェアに多数参加。文化庁新進芸術家海外留学制度2年派遣(2007-2009, ロンドン)。

「符と思う|eASY mECHANISM」開催概要

会期2022 年11 月12 日(土)〜 12 月25 日(日)※水木休館(祝日除く)
会場尾道市立大学美術館
時間10 時〜18 時
入館無料