Expo Chicago & Orkidah Torabiインタビュー
こんにちは、シカゴより2回目の投稿です。日本は秋に入り、食、スポーツ、芸術等々、どこへ出かけても心地よいシーズンではないでしょうか。シカゴは夏からそのまま冬に移るといってもいいほど秋は短いですが、9月〜10月はシカゴもミレニアムパークで数日間に渡って開催されるJazz Festivalや、先日大迫傑選手が日本新記録を叩き出し話題となったシカゴマラソンなど、イベントは盛りだくさんです。芸術関連のイベントもこの時期は盛んで、今回は、9月27日から3日間開催されたアートフェア、Expo Chicagoについてご紹介します。参加ギャラリー135件、出展アーティストは3000名を超え、3日間の日程でパフォーマンス、アーティストやキュレーターのパネルディスカッション等様々なプログラムが企画されていました。
会場には所狭しとギャラリーのブースが設けられ、全てを見て回ると広すぎて相当疲れてしまいますが、カフェが併設されていたり子供用遊具があったりと、休憩を挟みながら親子連れでも十分に楽しめるよう工夫されていました。Navy Pierと呼ばれる行楽地が会場で、ダウンタウンからのアクセスも良いので、ぶらぶらと観光も同時に楽しめ、この時期に合わせてシカゴ旅行を計画するのもおすすめです。
実際にExpo Chicagoの会場内を歩いてみると、絵画、彫刻、写真にビデオ作品まで、種類を問わず否応なく目を引く作品に出会いますが、IN/SITUと称された今年のExpo Chicago目玉の企画展に印象を受けました。NYグッゲンハイム美術館でキュレーターを務める、Pablo León de la Barra氏がセレクトしたアーティストで構成され、主にインスタレーションが中心でしたが、移民・難民問題やジェンダー、労働に関する社会問題などを題材とし、政治的ニュアンスが強い内容でした。
ギャラリーのブースを歩いていると著名なアーティストや新鋭のアーティスト含め、ジャンルを問わず様々な作品を鑑賞でき、ざっくりと横断的に世界中の作品を見て回れるので、会場で半日時間を潰す価値は十分にあると思います。個人的には、「ノンス」(Nonce:臨時語)とかたどられたネオン作品(Artist: Jacob Stewart-Halevy)とファブリックを縫い合わせた3D作品(Artist: Margaret Honda) を展示していたLAのギャラリーGRICE BENCH Galleryや、ポップな作品が目を引いたデトロイトのLibrary Street Collectiveのブース、個人的にファンであるEric Fiscleの新作を出展していたセントルイスからのWilliam Shearburn Galleryが印象に残っていたので、一部になりますが作品や展示の様子をスライドでご紹介します。
それでは、最後になりますが、イラン出身でシカゴを拠点に活動するアーティスト、Orkidah Torabi (オーキダ トラビ)氏のインタビューを掲載します。今回のExpo Chicagoにも出展されていた彼女の作品は、絵画にモノプリント(版画技法の一つ)と布染めの技術を応用しながら、風変わりにポーズを決める男性/子供のフィギュアや、ペルシャの伝統アートに出てきそうな模様などが描かれ、ユーモア溢れるカラフルな作品に仕上がっています。作品の背景には、彼女自身のイランでの経験や、文化的背景からくるメッセージが強く込められています。特にイランを始め、イスラム圏である中近東諸国は日本以上に男性社会が根付いているようで、イランの社会的ヒエラルキーを風刺的に扱った彼女の作品には、ユーモアと何処と無く悲劇的な要素が混ざり合い、いい意味でキモ可愛いとでも表現できそうな不気味なオーラを放っています。
以下、Interviewです。
Kumon: 簡単に自己紹介をお願いします。
Torabi: こんにちは、Orkideh Torabiです。現在はシカゴ で制作活動をしていますが、もともとイラン出身で、テヘラン芸術大学でファインアートを学びました。その後アメリカに渡米し、2016にシカゴ美術館付属芸術大学の大学院の絵画プログラムを卒業しました。大学院を卒業してからはシカゴのWestern ExhibisionというGalleryを始め、NYのHorton GalleryやLAのYes Please& Thank You Galleryなどを中心に個展、グループ展を開いています。
Kumon: 作品にはイラン社会に対する風刺的なメッセージが込められている様ですが、作品のコンセプトを教えてください。
Torabi: もともとテヘランで生活をしていた頃から、男性優位な社会における、女性を取り巻く環境について、強い関心を抱いていました。私自身、イランで育ち、日常生活で様々な経験を経て、女性は男性と同じような選択肢がないと感じる様になりました。男性が女性よりひいき的に扱われる社会の中で、もしそういった差別がなければ、女性の人生はどれほど変わるでしょうか。渡米してからも、同じ考え方や悩みを抱える様々なバックグラウンドを持った女性たちに出会いました。世の中がどれだけ女性にとってバカげた状況なのかと考えるに至り、これが私自身のはけ口となって、その様な状況を描写したくなりました。また同時に、アーティストとして私自身のアイデンティティや、コミュニケーション手段としての絵画表現を日頃から模索していました。
Kumon: 作品に出てくるキャラクターはどれもユーモラスで、目が点であったり、風変わりなポーズで独特な雰囲気がありますが、何が表現されているのでしょうか?
Torabi: 作品に出てくる男たちは、女の存在が完全に除外された空間にいます。作品に描写された社会では、男しか入れない空間で、女はあちら側の存在として扱われ、Activatorsとしての機能はありません。男が全てをコントロールしています。この空間では男同士が親密に、好き放題ゴシップをばら撒きます。例えば”I Here you buddy”という作品では2人の男たちが、公衆浴場で、親しそうに嫁の噂話をしています。ここでは男の持つ権力、男らしさ、その裏に内在する男の弱さといったクオリティを表現の中に含めています。
Kumon: 作品はどの様な工程で制作され、どの様なところからインスピレーションを得ていますか?
Torabi: それぞれ作品ごとに異なりますが、制作に共通する点は、一つではなく複数のストーリーを考えることから始めます。それからスケッチをしたり、関連する文献などのリサーチをします。時には、芸術史に出てくるイメージを参考にしたり、Persian Miniature(ペルシアの伝統絵画)や西洋のペインティングまでジャンルを構わず色々な芸術の文献を参考にします。
例えば、”Madonna”と呼ばれるシリーズを制作した際は、実際にマドンナと子供(聖母マリアとキリスト)のイメージを見つけ、そこから自分の考えたストーリーと合わせオリジナルバージョンとして発展させていきました。このシリーズでは、元の絵画に描かれている聖母マリアのフィギュアを男性のフィギュアに変えました。実際のマドンナの絵画が元になっていることは元の写真を見るとわかりますが、全体の構図を変え、イメージに新しい意味合いを持たせたパロディとなっています。作品に出てくる男たちは、特定の国や国籍に限定されず、ストーリーも世界中の異なる国や文化を対象としています。
Kumon: イランで制作をしていた頃と、渡米してから現在に至る数年の間でどの様な変化がありましたか?またイランでは作品をどのように捉えられていますか?
Torabi: 基本的なコンセプトは渡米する前から変わりませんが、表現の仕方は現在に至るまでかなり変わりました。絵画で伝えたいメッセージをよりクリアに伝えられる様にもなりました。もともとは女性を描くことで問題提起していましたが、誤った解釈をされてしまうことが多かったので、発想を転換し、現代の男性を芸術史などに出てくる様な典型的なイメージと絡めながら男性のキャラクターを造る様になり、現在の作風にたどり着きました。イランのギャラリーやアーティストのコミュニティーは社会問題についててオープンに対話できるので、イランでも私が作る作品は十分に理解されると考えています。
Kumon: 作品に風刺を取り入れることに、どの様な意図がありますか?
Torabi: 自分の取り巻く環境について深く理解できる様になれば、それに対して批判的な吟味もできる様になってきます。私の場合は社会問題に対して言いたいことを直球で言い放つ事はしたくないので、作品にユーモアを持たせる様にしています。風刺の内容がユニバーサルであれば、年齢や文化、性別等異なった背景を持つ鑑賞者も理解しやすくなります。また風刺を持たせることは、重苦しく難しい内容でも鑑賞者が作品に接しやすく、問題を身近に感じることが可能だと考えています。
Orkideh Trabi
Artist Website
Gallery Website
以上です。
次回の内容まだ未定ですが、シカゴで活動するアーティストのインタビューを同様に掲載しようと考えています。