保存修復や記録、再制作、作品を通じた記憶の継承まで多様な実践を紹介。『美術手帖』4月号は「アーカイヴ」という概念の現代的意義と広がりを考える特集

『美術手帖』4月号の特集「アーカイヴの創造性」は、東日本大震災から10年を迎える今年、作品や活動を未来に残していくための営みがテーマ。いま・ここにある作品の背後にある、これまで作品と向き合い、未来へつなぐ方法を考えてきた人たちのクリエイティビティに着目しながら、その重要性や展望を考える。

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表紙と巻頭ビジュアルを担当したのは、「複製」や「コラージュ」の手法について探求することをテーマに、コピー機などを使って制作するTHE COPY TRAVELERS。今回の特集テーマ「アーカイヴ」に合わせてつくられた、過去の『美術手帖』などを素材とした作品を掲載する。

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巻頭企画は、現代美術における「アーカイヴ」の基本を解説するQ&Aコーナーと、インターメディアテク館長の西野嘉章、アーカイヴを専門とする研究者の上崎千、修復家の田口かおりが登場する座談会。資料収集からデータベース構築まで多様な「アーカイヴ」のとらえ方、それぞれの実践や今後の課題が議論され、このテーマの概要や幅広さがわかる。

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PART1では、「時間」が作品に及ぼす影響や、そのなかでどう作品を制作し、残していくかについてのアーティストの考え方を取材。森村泰昌と宮永愛子が、習作や記録写真、気になっている素材など、自らの作品につながった資料をコメントとともに公開する。また、記録を残さないことで知られるティノ・セーガルの貴重なインタビューを掲載する。

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PART2では、現在進行中のアート・アーカイヴ関連の事例とはどんなものか、その新規性とともに紹介。アーティストの毛利悠子と、協働するインストーラーのイトウユウヤが、時間の展開を伴う作品(タイムベースト・メディア)を残していくための試行錯誤やアイデアを対談する。また三上晴子、日比野克彦といった作家のアーカイヴ・プロジェクトなどをレポートし、必ずしも「オリジナルを保存する」だけではない、多様な現代美術アーカイヴの在り方を明らかにする。

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PART3では、保存修復のスペシャリストの仕事や、その背景にある考え方に迫る。田口かおりが解説する「修復家の仕事 入門講座」では、「作品をいつの時点に戻すべきなのか?」といった保存における考え方から、調査・修復処置の具体的なプロセスまでを、ゴッホやキーファーなどの具体的な作品例を参照しながらレクチャー。MoMAの保存修復担当者へのインタビュー、保存修復と制作をつなぐ活動を行う若手作家らの座談会も掲載する。

adf-web-magazine-bjutsutecho-archival-creativity-5特集のきっかけとなった東日本大震災についても、スペシャルパートで掘り下げる。アートユニットとして被災地の記録を続ける小森はるか+瀬尾夏美と、被災物の展示などを企画してきたリアス・アーク美術館学芸員の山内宏泰が、それぞれの視点からアートを通じた記憶の継承について語るロングインタビューを掲載。また美術館にコンサヴァターとして勤務し、数々の作品救出プロジェクトに携わってきた相澤邦彦が、美術館での災害対策の現状について寄稿した。

近年美術界での関心が高まっている「アーカイヴ」の問題。また、コロナ禍によって作品の輸送や公開が困難になったことは、美術館コレクションの活用や、デジタル・データベース整備の重要性が注目される契機ともなった。人とものの関係、歴史のつくり方など、現代社会を考えるうえで重要な問題にもつながるこのテーマを、基本から専門的な内容までじっくり知ることができる特集となっている。


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