古民家での暮らし Vol.1:畳のすべて

今までの記事では外国での活動や生活に興味のある日本人クリエイター向けに、外国での活動をおすすめする記事を書いてきましたが、これから数回にわたってお送りする記事では、日本での生活、特に古民家などに住むことに興味のある外国人やクリエイターの方向けに、日本の古民家の魅力や注意点、改修のコツなどを英語翻訳版と合わせて紹介していきたいと思います。

都市部では狭い物件でも家賃が高く、音が出せない、建物を傷つけられないなどの制約も多くあり、日本で暮らしていて窮屈に感じている人もいるのではないでしょうか。特に一部のクリエイターにとっては十分な制作スペースがないというのは致命的です。

しかしその反面、日本の地方では少子高齢化と若者の都市部への流出に伴い、空き家が急激に増えており、土地や建物の価値が下がって格安やタダで家を手に入れられるケースも増えています。もちろん格安物件やタダの物件はボロボロで改修が必要だったり、不便な立地だったり、災害時に危険な場所だったりなど、何かしらデメリットがあることも多いのですが、それ以上のメリットがあることも少なくありません。そして何より、もしあなたが日本の情緒ある生活や美しさに触れてみたいのならば、昔ながらの古民家に一度住んでみると良いでしょう。

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日本の古民家はこまめにメンテナンスを行うことを前提に作られているため、快適な生活を保つためには色々と手間がかかります。

例えば畳での生活に憧れがある人もいると思いますが、畳の上を掃除するときは畳の目に沿ってホウキや掃除機をかけないと、畳が早く劣化してしまうなどの注意点があります。

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矢印の向きが畳の目。この目に沿って掃除を行うのがしきたり。

古民家の多くは日本の暑い夏を少しでも快適に過ごせるようにするため、畳の下はバラ板と呼ばれる杉板が隙間を開けて敷かれています。この上に稲藁とイグサで作った本畳を乗せることで、湿気が高く暑い夏でも床下と部屋の間に通気性が生まれ、寝転ぶとひんやりと涼しく過ごせるのですが、冬になるとそのままでは床下からの冷気まで通してしまって、部屋が底冷えしてしまいます。そこで、昔の人は夏が終わると寒くなる前に一度畳を上げて、畳の下に新聞紙などを断熱材代わりに敷いて床下からの冷気を防ぎ、冬が終わると暑くなる前にまた畳を上げて新聞紙を外していました。そのように定期的に畳を上げることで畳を乾燥させ、床下の状況を確認するなどのメンテナンスも兼ねていました。

しかし、畳を上げる風習はいつしか廃れてしまい、数十年前に敷かれたままの新聞紙が古い畳の下から出てくることが増えました。その結果、畳や床下の通気性が悪くなって湿気が溜まり、バラ板や床下が腐ってしまっているケースも珍しくありません。

また、エアコンを設置する家が増えたため、稲藁などで作られた通気性のいい本畳はエアコンとの相性が悪く、リフォームの際に本畳から断熱材の入ったスタイロ畳に交換したり、フローリングに変えたりしている家が多くあります。ただし、その際に床下の通気性が十分か確認しないまま施工を行うと、通気性が悪くなって建物の劣化が早まることとなります。

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畳とバラ板の間に敷かれた新聞紙。ときには第二次世界大戦中の新聞が出てくることもある。

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昔は畳を上げるという風習があったことで、畳の下や床下など目に触れにくい場所も定期的に確認を行い、ダメージが少ない内に補修を行う家が多かったのですが、現代では家のダメージが深刻になってはじめて家の状態に気づき、取り壊しか大規模な改修を余儀なくされるされるケースが増えています。

現代の家は古民家に比べて一見手間がかからないように見えますが、その実、住んでいる人がこまめなメンテナンスや状態確認をすることが難しい作りになっているため、持続可能性という観点から見ると、古民家の方が素人でも維持管理がしやすく、耐久性があって自然環境にも優しいとも言えます。

たとえばフローリングの床がダメージを受けた場合、部分的な修繕は難しく、床を全て剥がして作り直すケースの方が多いのですが、畳の場合は畳をはがすのも簡単で、畳屋に表面だけの交換を頼んだり、床下の傷んでいる部分だけを交換することも可能です。

古民家は手間をかければかけるほどあなた好みの快適な空間に変わっていく可能性を秘めています。古民家のメンテナンスにかかる手間を面倒くさく不便と感じるか、生活の中の情緒やDIYの楽しみと感じるかは人によって異なると思いますが、生活すること自体に楽しみを見出したい人には古民家は最高の家となるでしょう。これからそんな古民家の魅力や注意点などを伝えていきたいと思います。


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