古民家での暮らしVOL.11: 日本の木造住宅とシロアリ
古民家に住むにあたって、多くの人が気にすることの一つがシロアリによる被害です。シロアリは基本的に熱帯から温帯域の間に生息していて、寒冷地には生息していませんでしたが、近年は温暖化の影響もあるためか北海道でも被害が報告されるようになってきており、日本にある木造の古民家のほとんどがシロアリ被害をすでに受けているかこれから受けるおそれがあります。
木材を食べるため木造建築の天敵として嫌われるシロアリですが、生態系の中では最底辺の捕食される存在であり、日光に長時間晒されるだけで死んでしまうようなとても弱い生き物です。また、自然界では死んだ木や弱った木を分解して土に戻す役割を担っており、不要な存在ではありません。
日本に主に生息しているのはヤマトシロアリとイエシロアリの2種類で、ヤマトシロアリは北海道の一部を除く日本のほぼ全域に生息しており、イエシロアリは西日本や太平洋沿岸の暖かい海に接する地域に主に生息しています。その他にも関門海峡周辺に生息するカンモンシロアリや沖縄周辺に生息するダイコクシロアリなどの日本のごく一部のみに生息しているシロアリ、アメリカから輸入木材等と一緒に日本にやってきたアメリカカンザイシロアリという外来種も確認されています。
ヤマトシロアリは湿気を含んだ柔らかい木を好んで食べ、その内部に巣を作ります。カンモンシロアリはヤマトシロアリに見た目も性質も似ていますが、ヤマトシロアリより乾燥に強く羽アリの発生時期も異なるという性質があるようです。
イエシロアリは地中に巣を作り、そこから蟻道と呼ばれる土の道を木材まで伸ばして侵入し、木材の中を食い進んで行きます。乾いた材にも水等を運び込んで湿らせて侵食していくため、被害はヤマトシロアリよりも大きく、梁や天井まで達することがあります。
ダイコクシロアリとアメリカカンザイシロアリはイエシロアリよりさらに乾燥に強く、乾いた木材や家具の中にも巣を作り、砂のような粒状の糞を巣の外に排出します。
古民家を購入して床や壁を張り替えようと剥がしてみたらシロアリによる被害が見つかって、ちょっとした改修で済ませるつもりが床下の作り直しや柱の交換もしくは補強まで必要になるなんてことも珍しくありません。シロアリの被害があるからといってすぐに家が倒壊するようなことはあまりありませんが、シロアリの被害によって木材の強度が落ちた結果地震等で倒壊しやすくなったり、食べられた柱が座屈して家が傾いたりする危険はあります。また、地面に近いため特に被害に遭いやすい床下部分の被害を放置すると床が抜けてしまうこともあります。
改修の際などに解体した木材の中にシロアリを発見した場合は、シロアリのいる木材を他の木材と一緒にしたり床や地面に放置したりするとシロアリが移動して被害が拡大するおそれがあるので、すぐに燃やすか殺虫剤で被害が拡大しないようにしてください。ただし、柱などすぐに撤去することができない木材にシロアリを発見した場合は殺虫剤を使用するとシロアリが他の木材に逃げてかえって被害が拡大するおそれもあるので、地中や家全体にシロアリ対策を行う必要があります。
生きたシロアリは見当たらず、食べられて強度の落ちた木材だけを発見した場合は、シロアリ予防剤の散布と被害部分の交換や補強を行います。床部分の被害であれば素人でもDIYで作り直すことも可能ですが、柱や梁などの家を支える構造部分の交換や補強を素人が行うのは危険なので、無理せず専門家に相談してください。
木材の交換や補強を行う際、よく使用されるスギやマツなどの柔らかい木はそのままではシロアリの被害を受けやすいので、予め防虫防腐材が注入・塗布された建材を利用するか、自分で塗っておく必要があります。ただし、薬剤は永久に効果があるわけではありません。それはシロアリ予防剤を地面や木材に撒布した場合も同様で、効果は5年ほどで切れると言われています。より長くシロアリの被害を防ぎたいのであれば、値段は高くなりますが木材の交換の際にケヤキやヒノキ、もしくは鉄木と総称されるような密度の高い固く重い木材など、シロアリが好まない木を使用するという選択肢もあります。
日本では蟻の仲間だと勘違いされることが多いシロアリですが、蟻ではなくゴキブリの仲間であるため、ゴキブリ同様ホウ酸が駆除に有効であり、近年は人体への害が少ないとしてホウ酸系の駆除剤もよく売られています。その他の殺虫剤も哺乳類には害の少ないものが増え、昔に比べて安全になったと言われていますが、哺乳類への影響は少なくても他の昆虫や魚などの水棲生物には高い毒性を持つものが多く、人間には安全でも環境には有害なものであることを意識して、使用にはよく注意する必要があります。