コミュニティを活気づける拠点としての役割を担う現代的な図書館
スタジオ・ヒンジがインド・ムンバイにあるクリケット・クラブ・オブ・インディアの図書館を改築、新たに「The Forest of Knowledge(知の森)」を完成させた。本プロジェクトはアーキタイザーA+アワードおよびDNAパリで受賞、Dezeen Awards、The Plan Award、Createurs Design Awardsで最終選考に残った建築である。本図書館は過酷なコロナ禍のロックダウン中に構想され、本を超えて人々が集まり、互いに学び合う機会を提供する知識の家としての図書館として2023年1月に会員に開放された。
クリケット・クラブ・オブ・インディアはボンベイの植民地時代の高級会員制クラブで、1938年に建てられた控えめなアール・デコ調の建物がメイン・パビリオンとなっており歴史的なクリケット・スタジアムを見下ろすことができる位置にある。当初、別棟の図書館の設計を依頼され、屋外に読書エリアを備えた庭園を備えるデザインを考案したが、その後図書館はその後管理棟の4階に移設された。
移設された図書館にはトイレも独立した管理エリアもなかった。採光のない長い廊下に加え窓の前に高く積み上げられた本棚により自然光が遮断された閉所恐怖症のような空間になっていた。これは注意力の低下や、本よりもデジタル機器で本を読む人が増えていることと相まって、このスペースを訪れる人が以前より少なくなっていることを意味していた。訪れた人は本の回収や返却を済ませるとすぐ帰っていった。
デザインの意図
スタジオ・ヒンジは屋外での読書というアイデアを保持するため、自然光と構造グリッドを配慮し形式的な庭園のようにレイアウトを施した。既存のコンクリート柱を木に見立て、西洋ヘムロックの円形の本棚をクリケット場に沿ったパビリオンの列柱を参考にしたアーチ状の枝で支えている。枝は頭上で絡み合い、梁の下で複雑に編み込まれた網目を形成し、天蓋から差し込む木漏れ日の下を歩いているような感覚を再現している。特注のテラゾー床タイルには、大理石のチップと緑色のガラスが散りばめられ、葉の抽象的なパターンを作り出した。中央の木々の周りには円形の生け垣のように独立した本棚が配置され、読書好きは生垣の中や、窓際のラウンジチェアやソファベンチで読書を楽しむことができる。
また、デジタル時代に物理的な図書館を存在感のあるものにするべく、隣接するあまり活用されていないズンバ・スタジオを改装し、映画上映会、読書会、新刊発表会、作家の朗読会、子どもや大人向けのワークショップなどが開催できる多目的スペースを追加することを提案、このスペースは必要に応じてダンススタジオに戻すことも可能にした。オーク材のフローリング、展示用以外の本やスタッキング家具を収納できる鏡張りの収納キャビネット、折れ戸に隠された大型スクリーンにより、このスペースは異なる機能間でフレキシブルに使用できる。起伏のある木製のスラットの天井は、MEPの頭上を隠しながら、動きとダンスを表現している。これらの要素により、完成後の調査では、特に子供たちの来館者数が大幅に増加したことが確認された。
持続可能で包括的なデザイン
壁に沿っていない本棚の高さをすべて1.2m以下に揃えることで、自然光が最大限に入り込み、大人は立ったまま視界を遮られることなく、半個室のように座って本を読むことができる。子供にとっては、円形の本棚の間の空間が遊び心にあふれ、ほとんど迷路のようであるため、このデザインはまったく違った印象を与える。スペース全体はエレベーターでアクセスでき、段差もない。
図書館に使われている主な材料は木材で、窓にはイエローシダー、家具にはウェスタンヘムロックが使われている。インドでは、持続可能な方法で伐採された在来種を見つけるのが非常に難しいため、FSC森林認証のカナダ産材が使用された。窓を大きくとり、スペースを整理したことで2つのファサードにわたって自然光と通風の両方が増加し、人工光と機械換気への図書館の依存を減らすことができた。拡大された窓は東向きと北向きで、南西の厳しいまぶしさを避けている。
スタジオ・ヒンジ
2014年に建築家プラヴィール・セティによって設立された、国際的な賞を受賞した建築、インテリア、家具のデザイン事務所である。同スタジオの作品は、文化、施設、レジャー、住宅、商業、小売のプロジェクトに及び、世界10数カ国で発表され、世界中の高い関心を集めるデザイン賞で評価されている。