レバニーズ・スイス・バンクの新社屋建設
経済危機に見舞われているレバノンの南西部、地中海に面する町ティルスに2020年1月、LSB(Lebanese Swiss Bank)地域本部が竣工した。1975年から1991年まで続いたレバノン内戦の間、無秩序に拡大した都市開発を経験したティルスは、戦後に改訂された建築基準法の恩恵を受けて、密集化と公共スペースの減少など、更なるスプロール化が進んだ。LSBの新たな社屋は既存の仕組みを変えるチャレンジとなりうるのか。
空き地になった農業用地を再利用した角地の土地を提示されたとき、我々は課題と責任の両方に直面した。
Karim Fakhry, Domaine Public Architects
今後の開発の前例となりうる空間的価値を重視しながら、クライアントが最大の視認性と露出を重視していることとをどのように架橋するのか。
Jean Nmeir, Domain Public Architects
この社屋では、最小限の物理的スペースで最大限の視覚的存在感を醸し出すことに成功している。わずか三階建ての建物は、実際のスケールよりも大きく見える。その理由は、ポストテンション方式の屋根と9メートルの片持ち梁という構造により占有面積を最小限に抑えているからである。また、1階部分をすべての構造要素から開放し、柔軟性のある公共スペースとしている。様々なイベントに活用できるこのスペースは、今後隣接する建物が増えた場合、人々の交流を盛んにし新たに生まれたコミュニティの活性化に役立つ。
台形の中庭はオフィスと中央の通路スペースを繋げる役割をプラザを覆うようにカーブしたファサードは、オフィスと外を繋げる役割を果たしている。また、東と西向きの窓は、遠くの景色を楽しめるが採光は最小限に抑えた大きさとなっている。
夏場は最小限に、冬場は最大限の採光を得るために計算された片持ち梁のボリューム。自然換気と通風を可能にしながらも、自然光を最大限に取り入れる構造の中庭。スチールのスクリーンは、セキュリティを高めて日よけの機能も果たす。構造が広々とした公共スペースを実現し、表層が重々しいコンクリートの壁に軽さをもたらし、メインファサードに深みを持たせている。表層と構造とが相互に高め合う構造となっている。
建築基準法が、公共スペースを設けるにおいて乗り越えなければいけない最難関であった。既存の法律では建築物のもとに設けられた屋外の空間をインテリアスペースと定めている。したがって、非課税対象とはならない。既存の法律により、建物内への公共スペースの設置は困難になっている。
価値の損失を是正するために、我々は一連の空間操作を実施しました。まず、3階テラスの屋根を省略し、延床面積率(FAR)から除外。そして、1階のバルコニースペースをオープンな中庭へと変更しました。法が不利に働くとき、その裏をかいてこそ、より大きな公共の利益を得ることができるのです。
Karim Fakhry, Domaine Public Architects
近年の社会情勢を受けて、レバノン政府は既存の法律や規定を見直す段階にきている。LSBの新社屋は、これらの既存の仕組みに挑み、公共スペースの確保や社会交流、サステイナビリティの促進に努めていく。新型コロナウイルスの影響を受けて経済が低迷するなか延期されていたプラザの植栽だが、プラザが緑で埋め尽くされた時に人間中心かつ環境配慮の象徴として人々を迎え入れることになることが期待される。
建物概要
建設地 | レバノン、ティルス |
完成 | 2020年1月 |
デザイン | Karim Fakhry, Jean Nmeir, Abeer Fanous, Dragan Vukovic, Rami Khoueiry |
設計 | Domaine Public Architects |