F1カナダGPの舞台に新しいピット複合施設が完成
ジル・ヴィヌーヴ・サーキットは、1967年のモントリオール万博の会場となった人工島、ノートルダム島にある、F1カナダグランプリの開催地である。1988年に建設された当施設の老朽化した設備の改修と拡張のため、2018年から始まったサーキットの改修プロジェクトは、2019年のグランプリ開催に向けて急ピッチで進められ、わずか10カ月でその工程を完結した。新しいピット複合施設には、チームガレージ、5,000人を収容するラウンジエリア、メディアセンターなどの施設が含まれ、全ての機能がひとつの建物に統合されている。
5,000万ドル規模の大規模工事を、10か月で完了するため、コンクリートパネル、スチール梁や柱、CLT梁やパネル、カーテンウォール、可動式パーテーションなど、様々な組み立て式パーツが駆使された。グランプリシーズン以外の時期に他イベントにも活用できるよう、組み替えやリサイクルが可能な材料を利用している。
他の国際グランプリ会場とは異なり、当施設のラウンジエリアには外壁がなく、空調システムもない。インテリアの装飾も質素なデザインで、最小限に抑えている。
印象的な屋根の構造は、1967年のモントリオール万博のシンボルであったロゴ(人で模った「Y」の文字)をオマージュしたデザインとなっている。近代化を記念するイベントが開催されたこの地で、今度は、既存のモーターレースのイメージを一新させるような、新たな時代の潮流に適した施設が完成したのだ。
建物詳細
新しいパドックには、13のステーブルが設置されている。すべてに、シングルシーターカー、ドライバーとテクニカルチームがアクセスできるフロントアクセスが2つと、裏口にはホスピタリティエリアに直結したサービスアクセスがある。ガレージスペースは、進化し続けるモータースポーツのあり方を考慮し、その時々で変化するカナダGPの開催要項とチームの要望に応えるべく、モジュラー型となっている。
新しい施設には、ステークホルダーの交流活性化のため、様々な構造変化がもたらされた。まずは、トラックを俯瞰するコントロールタワーは、コントロール機器の進化により、建物内の2フロアに設置が可能となった。また、メディアセンターは、新たなインフラを配備し、建物内に設置。報道関係者へのきめ細やかな対応と質の高いサービスの提供が可能となった。
グランプリシーズン以外は、様々なイベントの会場としての利用も可能な当施設は、2階と3階に作られたいくつものテラスにより、公園など周辺環境への眺望も豊かである。360°のパノラマを提供する建物の目前には、ジャン・ドレ・ビーチが広がり、モントリオール・カジノ(旧万博フランス館)や旧ケベック館などがそびえる。遠方にはモントリオール市街やマウントロイヤルと、その十字架のモニュメントなどの眺望が楽しめる。反対側には、オリンピックプールで練習するカヌーやボート、セント・ローレンス川を行き交う船など、のどかな風景が広がり、モントリオール郊外まで見渡すことができる。
サステイナビリティ
1,425㎥の屋根の構造は、耐久性のある代替可能な木材で造られている。この木材に固定される二酸化炭素量は1,000トン以上に上る。こういった木材の利用は、製造過程で排出される二酸化炭素量の削減だけでなく、環境の二酸化炭素削減にも貢献している。
屋根の防水加工は、白のミネラル顆粒剤のエラストマーコーティングを使用。ヒートアイランド現象や集客による温度上昇を抑えるのに効果的だ。
テラスに設置された太陽光発電パネルは、合計64㎡。年間で平均87,600kwが提供可能で、グランプリシーズンに必要とされる電力(88,940kw)を賄うのに十分な規模である。
CLTで利用されている梁やデッキの木材は、北ケベック産のものを使用。生態系に配慮し、伐採中に排出される細かな木くずも無駄にしないなどの取り組みを行った。カーテンウォールやスチール構造、プレキャストのパーツはケベックの企業から調達。構造の原料を細分化(コンクリート、鉄、木材)することで、材料の生産を同時に進行でき、冬の過酷な気候下でも、膨大な量の材料を短期間で調達することが可能となった。
施設概要
プロジェクト名 | F1 Canadian Grand Prix-New Paddock |
所在地 | カナダ ケベック州 モントリオール |
完成 | 2019年5月 |
建築デザイン | FABG |