世界初ゼロエミッションヨットのデザインがNFTで登場

デザイン事務所3deluxeによるゼロエミッションのスーパーヨットが、モナコの港をバックにARのプラットフォームに登場した。2021年9月22日から25日に開催されているモナコヨットショーに合わせて発表されたスーパーヨットは、ショーのハイライトとなった。ヨットのデザインはNFTとして、SuperWorldのオークションプラットフォームで購入可能となっている。売上の半分は、海洋保護団体やアカデミー賞受賞のドキュメンタリー映画「オクトパスの神秘:海の賢者は語る」の制作陣が創設したSea Change Projectなどに寄付される。

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Photo credit: 3deluxe

海運業におけるゼロエミッション活動

気候変動により、あらゆる産業がオペレーションの根本的な再考を余儀なくされている。中でもヨット製造業における様々な技術革新は、海運業のグローバルなゼロエミッション活動につながる重要な取組みとして注目されている。

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Photo credit: 3deluxe

造船所や機器メーカーは、燃料電池を利用するシステムなど脱炭素を推進する重要な技術革新を進めており、世界初の炭素排出ゼロの船の製造の見通しも立っている。この背景を受けて、様々なフォーマットのクルーズ船デザインを手掛けてきた建築デザイン事務所の3deluxeは、世界初となるゼロカーボンヨットのデザインを世に送り出した。

海に浮かぶ「エデンの園」

ヨットには、技術的な革新と近未来的な外観デザインに加え、自然と融合するプロジェクトの哲学に則った新たな基準が設けられた。背景の自然と調和するアクリルガラスと真ちゅうを使い、自然換気を積極的に採用することで、エアコンによる環境への影響も最小限にとどめている。自然光をふんだんに採り込むロフトスペースには、グリーンハウス、ラウンジリビング、キッチン、バー、菜園などが連なって設計されており、ヨットの由来でもあるラグジュアリーな空間は、ここではナチュラルでヘルシーな空間へと置き換えられている。

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Photo credit: 3deluxe

船上で育ったヘルシーな食材、海から獲れた新鮮な魚、運動ができる快適な空間、オンライン会議のためのスペースや、友人と集まれるセレモニースペースなど、全ての活動が、この楽園のようなビオトープで可能となる。植物に必要な水分は、淡水化システムを経由した海水を利用。淡水化システムの電力は、外装や屋上に設置された炭素排出ゼロの太陽光発電システムで賄われている。グリーンハウスの中にある主寝室では、開けた天井から夜空を楽しむことができる。現代の暮らしに求められる、自然を身近に感じられる自由で開放的な空間が、このヨットの設計デザインには採り入れられている。

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Photo credit: 3deluxe

バイオフィリックデザイン

ヨットの外観は、左右対称のシンプルでエレガントなデザイン。無駄なものを極力省いた流線形は、風など気候から受ける影響は最小限にとどめており、上から下までシームレスな船体となっている。

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Photo credit: 3deluxe

壁面にはセンサーで動作するルーバーが埋め込まれ、デッキへの日射量を調整したり、荒れた海を航行するときは閉じるなど天候に応じて調整可能となっている。このルーバーには、透過型の太陽光発電パネルが設置され、空調、照明、淡水化システムのための電力を生産している。また、ガラスで覆われた平らな屋根からは自然光が差し込み、日中の自然な明るさが保たれる。操舵室を船首に設ける型破りな設計は、デッキから他のエリアへのシームレスな連携を可能にしている。船尾には、海水プールと、海へと直接アクセスできる小さなマリーナがある。

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Photo credit: 3deluxe

教育現場にもなるプライベートヨット

このヨットは、オフシーズンにオーナーたちが教育の場として活用することも視野にいれて設計されている。限られた一部の人のための投資、というプライベートヨットに対するエリート主義的な概念を払拭するため、また、今我々が直面している困難な状況下におけるコミュニケーションの場として、新たな提案がなされている。若者や学生、スタートアップが学ぶことができる教育船として、サミットや会議が行われ、シンクタンクの活動の場となることで、ヨット製造に消費された資源やエネルギーを補完することにもなる。

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Photo credit: 3deluxe

環境に優しい技術革新

クルーズ船やヨットの脱炭素化へのカギとして有望視されている技術が、水素燃料電池である。ここで利用される水素は、メタノールを原料に、有害物質を排出することなく生成、補給することができる。メタノールは、水素より管理が簡単で、すぐに利用することができる。タンク一杯分のバイオメタノールでは、遅いスピードで1,000海里(約1,852km)の航行が可能である。まだ高額なこの技術だが、進化してマーケットの将来性が高まることで、もっと手ごろな価格で流通するだろう。水素燃料電池は、船内に分散して設置することができるため、大きな振動や音を立てることなく船内環境を静かに保ち、外部への騒音も減らす事ができる。

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Photo credit: 3deluxe

船内のオペレーションだけでなく、造船の工程においてもゼロエミッションを目指す事は非常に重要だ。すでにノルウェーやドイツの製鉄業やアルミ製造業の先進企業の中には、再生エネルギーを利用したり、製造工程の最適化やリサイクルを積極的に行うことで、二酸化炭素排出の削減に貢献している企業もある。ヨットの製造に関わる全ての工程において、今後同様の配慮がなされていくべきである。なぜならそれが、海運業全体のゼロエミッションに繋がる取組みとなるからである。

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Photo credit: 3deluxe

3deluxeについて

3deluxeは、ドイツのヴィースバーデンにある建築デザイン事務所。建築、インテリアデザイン、ブランドデザインを専門としたクリエイター約40名が在籍する。クルーズシップなど多分野に及ぶプロジェクトは、世界的に注目を集めている。現在は、ドイツ、リトアニア、アメリカ、ドバイなどでプロジェクトに取り組んでいる。