インタビュー: ジェッセ・リード

今回は、ブルックリンに本社を置くデザインオフィスOrderと小規模出版社standard manualをハミッシュ・スミス氏と共に経営するデザイナー、ジェシー・リード(Jesse Reed)氏にインタビューを行いました。彼のデザインスタジオは、これまでに様々な業界の一流企業(キックスターター、アディダス、フロイド・ファーニチャー、シェイクシャックなど)のデザインを担当。「リサーチにより裏付けされた根拠に基づくデザインシステムの構築」および「ブランドアイデンティティの再定義」を行う、デザインコンサルティング会社としても知られています。

adfwebmagazine-jesse-reed 1

全てのプロジェクトはクライアントと共にリサーチから始める

Q: 現在の会社の信念、価値観を形づくることになったプロジェクトを教えていただけますか?またそこで直面した課題があればその課題をどのように乗り越えたのかについても教えてください。

A: 一つを選択するのは難しいですが、どうしても選ばなければならないとすればPentagramで働いていたときに携わった、「シラキュース大学のリブランディングプロジェクト」でしょうか。このプロジェクトは、それまでにブランドが発信してきた情報の方向性がバラバラで、ブランドの強いイメージがまだ存在していないという「よく見られる」状態の反対だったので、アイディアをもう一捻りする必要がありました。それというのも、大学はすでに公式シールとスポーツチームのロゴがあり、ここに変更の余地はなかったのです。そこで私たちが目をつけたのがタイポグラフィの使用方法の変更でした。

クライアントとのミーティングを重ね、我々のデザイナーとしての知識を生かして様々なリサーチを行い、大学と20世紀初頭の有名なタイプデザイナーFrederic Goudyをつなぐ書体を発見したのです。このプロジェクトで当時リードデザイナーだった、Michael氏から学んだことは、リサーチの重要性だけではなくクライアントとのコミュニケーションの取り方でした。それは「クライアントに」話をさせること。できる限りクライアントから情報を引き出すことがプロジェクト成功の鍵だと教えてくれました。私の会社の4つあるコアバリュー(行動指針)のうちの2つは「research」と「honest」です。「honest」というのはクライアントが気持ちよく自分たちの悩みを相談してくれるよう、私たちも正直に何事にも取り組むことを表しています。どんなプロジェクトに置いても、成功の鍵はクライアントと我々が良い人間関係を築けるか否かだと思っています。

adfwebmagazine-syracuse

Image: via Pentagram

デザイナーの仕事の一つは一貫性のあるブランドアイデンティティのあるデザインシステムを築くこと。

Q: デザインコンサルティング“order”ではどんな仕事をすることが多いですか?

A: もっとも多く受ける案件は、ブランドアイデンティティの統一をはかり、デザインシステムを再構築するような案件ですね。先ずリサーチとして取り組むことは企業の創業当時から今日に至るまでの様々なデザイン資産を審査することです。ここで多くの企業が陥っている現象は、作成する人や会社の方向性が時代とともに変化し、統一感がないデザインが作成されているケースです。それぞれのデザインは優れたものであっても統一感がないのです。

私たちはリサーチに重きを置いている会社です。創業当時から今に至るまでデザインを丁寧にリサーチし、ブランドアイデンティティを再定義し、それを中心にデザインシステムを構築します。この根拠=裏付けなしにロジックの通ったシステムを構築することはできないのです。僕らだけではなく、デザイナーは歴史的にも同じような役割を果たしてきたと思います。僕らstandard manualでは8月初旬に、1960年から今日までの米国国立公園のサービスマップとパンフレットの歴史を記録した本「Parks」を出版をしました。この本は様々なデザインに出会えるだけではなく、これらの歴史的な文書を通して、米国のグラフィックデザインの歴史を見ることができます。

実は1960年代頃まで、国立公園局は独立したデザイナーやアーティストを雇って、各公園に独自の基準でデザインを作成することを許可していました。 そのため、ある公園のマップはクラッシックな雰囲気で、ある公園はシンプルな雰囲気だったりと違いがありました。そこで国立公園局は1977年に、デザイナーのMassimo Vignelli氏を雇って、ユニグリッドシステムと呼ばれるシステムを作成しました。このシステムによって、すべての公園は統一された作成フォーマットでマップを作るようになりました。このおかげで政府が出版のコストを削減することができただけではなく、マップを使用する一般の人々もより簡単に地図を見ることができるようになりました。Massimo氏が国立公園のアイデンティティの統一を図りデザインシステムを構築した、とも言えるかも知れません。

adfwebmagazine-jesse-reed 2

All images: Standards Manual

いつまでもチームの最前線でいたい

Q: 今後デザイナーとして、またはデザインファーム、小規模出版社のCEOとしてどんなプロジェクトに携わっていきたいですか?

A: 私がこれまでに携わったことがなく、何の知識もない業界、商品、価値観で作られたプロダクトのプロジェクトに携わりたいですね。私は同じことを何度も何度もやりたいタイプではないので。そして以前より一つ思い描いている夢のプロジェクトは貨物輸送会社のブランドアイデンティティ・エレメンツ作成です。私たちがデザインしたロゴは90フィートの貨物コンテナの側面につくことになるでしょうから!

adfwebmagazine-order-office

僕は会社のオーナーとしての仕事に集中するあまり、デザイナーとしての仕事ができなくなるようなことはしたくないと思っています。私はいつまでもチームの最前線で働いていたい、そう思っています。

このインタビューを通じて統一感のあるブランドアイデンティティ作成には「システム」が必要なのだということを学んだ。そしてこの考え方は他のどんなビジネスにおいても言えることではないかと感じている。そしてこれこそが彼らが様々な業界から「実用的で、継続的に使用可能な」デザインシステムを再構築する仕事を依頼される理由なのかもしれない。