海外の建築事務所でインターンの手引き
この記事は、これから海外の建築事務所でインターンをしたいと考えている同世代の大学生・大学院生に向けた内容である。私は現在BIG(Bjarke Ingels Group)のコペンハーゲンオフィスでインターンをしている日本の修士一年生である。旅行などを除けば特に海外経験も無い状態で、海外インターンに参加できているのは稀有な経験であるというのは客観的にも感じるところである。
そこで、日本国内にいながら、海外で働くまでのブラックボックスのようなそのプロセスを私の経験をもとに書き示すのは意味がある事だと考え、このような記事を書くことにした。
1. インターン先探し
まずはインターンを募集している事務所を探す。やり方はシンプルで、建築事務所のホームページみるだけだ。特に大きい事務所ほどホームページが整備されており、各企業のJob list, Careerなどのページに都度、募集が掲載される。
運良く募集を見つけることができたら、申請に当たってどのような資料が必要なのかを確認する。私がBIGにアプライした際は
- ポートフォリオ 10MB以下
- CV
- カバ―レター
の3つだったと記憶している。
企業によっては、ポートフォリオがA4縦使いだったり、変わってるところではビデオレターが必要だったりするので、余裕をもって事前に確認しておこう。時々、会社までポートフォリオを実際に持っていったりなど、破天荒なやり方でインターンを勝ち取りに行こうとする人の話も聞くが、大抵は迷惑なのでやめておこう。
しかし、まだ小さい建築事務所はホームページが整備されてなく、インターンを募集しているか分からない場合もある。そういった場合は先述の3つの資料をメールで送るのは有効だろう。
また、手当たり次第に応募するのも悪くはないが、本当に自分が働きたい企業に注力するのも大事だ。私が度々お世話になっている建築家の方にアドバイスを伺った際は、インターンのアプライはラブレターを送るようなものだと仰っていた。
そこで、私は手当たり次第に応募する方針をやめ、本当に行きたい3社に絞ったところ、1社は書類で落ち、2社は面接まで行き、最終的に受かったのが今のインターン先だった。
ホームページから直接応募するのは、正攻法である一方で、教授や知り合いのツテをたどってインターンにアプライするのも確率を大きく高める方法である。大きな企業ほど採用が制度化されており、難しい場合もあるが、私もこれまでに教授や知り合いに紹介していただき、学部生の間にいくつかの企業にアプライをしてきた。
2. 資料作成
幾つかの応募先の要求資料をリストアップできたら、各企業に合わせたフォーマットで資料作成を始める。
ポートフォリオ
私の場合はAdobeのillustratorやPhotoshopで作成した図をInDesign上に配置していく。それをPDFにエクスポートしたら完了である。
ポートフォリオは提出資料のなかでも一番重要である。なので自分が働きたい建築事務所の雰囲気にあわせて作るのが有効であろう。その際は、まずはホームページを観察して、レイアウト、フォント、グラフィックの雰囲気を掴むことが大事である。
個人的には、特にレイアウトの上手さがポートフォリオの出来映えの差を生じさせる要因だと思っている。私は「EL Croquis」、「A+U」などの雑誌を参照し、写真やダイアグラム、文章がどのように配置されているのかを、一冊丸々分析して、自分のポートフォリオに取り入れた。また「Issuu」「Behance」などのポートフォリオサイトに投稿されているものも大いに参考になるだろう。
その他私が意識した事は以下のとおりである。
- 文章は少なく(基本読まれないという意識)
- グラフィックを見るだけで視覚的に一発でわかるようなわかりやすさ
- Grasshopper、模型、レンダリング、グラフィック、生成AIなど、多様なスキルをアピールする
- 1ページ当たりの情報量が多くならないように気を付ける
参考までに私のポートフォリオのリンクを以下に掲載する。
https://drive.google.com/file/d/1KqpEJmfwKRVav3v8bfiz6BQOp6wE_PBC/view?usp=sharing
CV
CV(Curriculum Vitae) は日本でいう履歴書にあたる。これまでの自分の受賞歴や、目立つ活動内容を分かりやすく示した書類である。ポートフォリオとは違い、個性を出すというよりは、情報を分かりやすく伝えることが重要である。参考までに私の今のCVを以下に示す。
意識したことは以下の通りである。
- グリッドシステムに沿わせて情報を分かりやすく整理
- フォントを提出先の企業の雰囲気に合わせる
カバーレター
カバーレターは、単なる挨拶状ではなく、自分が応募先の企業にどのような貢献ができるのか、そしてなぜその企業に応募しようと思ったのかなど、自身のアピールのための資料でもある。複数企業に出す場合、同じ文章を提出する方法も効率的であるが、まさにラブレターを書くように、会社毎に個人的な思いを書き示すことも大事だと思っている。
私の場合は、大学3年生の夏休みに実際にコペンハーゲンにBIGの建築を見に行った体験を書くことで、自身がBIGのデザイン理念を理解しており、働きたい強い意志があることをアピールした。また、少しイレギュラーな方法かもしれないが、少しでも目立つように、カバーレターの右下に実際に現地で撮ったBIG設計のCopenHillの写真を載せるなどした。
3. オンライン面接
書類選考が通ると、メールでオンライン面接のオファーが来る。私の場合は、一月の最終日に資料を送り、四月の中旬に面接のオファーが来た。気長に待つことが重要だ。
BIGの場合、面接官はオフィスのシニアアーキテクトの方だった。オンライン面接のリンクに入ると、海を臨むことが出来る広々としたBIGのオフィスと、面接官の方が画面に映った。自分の部屋と憧れのオフィスが繋がったのが不思議な感覚だった。面接では基本的に以下のことが聞かれる。
- CV、ポートフォリオの紹介
- 会社の印象的なプロジェクト
またBIGに限っては、オンライン面接中に画面共有をする形でRhinocerosのテストがあった。主にソフトの習熟度を見るためのテストである。テストといっても、制限時間内に簡単な階段のモデリングをするだけである。私は本番で変に緊張してしまい、時間内に完成しなかったのだが、いろいろなコマンドを使えているからテストは合格だよと言っていただけた。普段使いなれているならば、特段練習する必要もないと思う。
BIGの面接を受ける以前に、私は他企業のオンライン面接を英語で二回受けた経験があった。面接前は非常に緊張するので、ある程度場数を踏んで慣れることも大切であると思う。特にオンライン面接は音質が悪く、英語が聞き取りづらいことに注意したい。実はTeamsでの面接だと、ライブ字幕の機能もあるが、あまり頼りにしない方がいいと感じる。
4.ビザ取得
海外インターンで特に煩雑なのがビザの申請である。私の場合は、面接後二週間ちょっとでインターンポジションの雇用契約を結び、そこから約三か月後にビザが発給された。
そもそも自身が保持している国籍によって、ビザの発給が難しく、その時点でインターンの選考から外れてしまう国もある。例えば、イギリスの場合、日本国籍で日本の大学・大学院に所属している学生が、イギリスの企業のインターンに参加するのは非常に難易度が高い。イギリスの大学・大学院に留学中にインターンに参加するのが現実的である。
ビザの制度に関して、明るくないので詳細は省くが、事前にビザが取りやすい国をリサーチするのが重要だ。BIGのHQがあるデンマークはいくつかの条件(インターン先との雇用契約をすでに結んでいて、大学での専攻と業務内容が合致しているなど)が揃っていればインターンビザの発給の難易度は低い。
申請のプロセスは予想よりも簡単な印象があった。ほとんどは、インターン受け入れ先企業と、VFS Global(各国政府と提携したビザ申請センター)とのオンライン上の資料のやり取りで済むからである。
しかし、気を付けなければならないのが、唯一実際に足を運ぶ必要がある、東京のVFS Globalのオフィスでの生体認証の登録である。諸々の資料のオンライン提出後二週間以内の期日に訪問を予約しなければならない。また当日紙媒体の資料の不足があれば別日に予約をし直し、再訪する必要がある。また、生体認証の登録後、ビザの発給までは通常60営業日かかるといわれている。なので、できるだけ早く資料を集め、訪問の予約をする必要がある。
私は怠惰な人間なので、訪問の予約日が入国の一カ月半前になってしまった。また、当日印刷し忘れた資料があることを予約時間の10分前に気が付き、急いでコンビニで印刷するなどした記憶がある。結局ビザの発給がなされているのを確認できたのは、デンマーク行きのトランジットのために、ウィーン国際空港にいる時だった。これを読んでいるあなたには、私を反面教師に、何事も早く行動を起こすことをお勧めしたい。
ビザの申請の手続きを簡潔にまとめると
①雇用契約を結ぶ
↓
②デンマーク当局へビザ申請の手数料振込(10万円ほど)
↓
③必要資料をインターン先に送信(パスポート前頁コピー、振り込みのレシートなど)
↓
④デンマーク当局からメールを受信
↓
⑤生体認証登録日の予約
↓
⑥VFS Globalのオフィスで生体認証を登録
↓
⑦ビザ発給
デンマークに関してはこのような流れであったが、恐らく国やビザの種類によって申請のプロセスは異なる。私がそうであったように、ビザの申請に関して相談する人がいない場合は、ChatGPTなどに相談するのが得策である。100%正確とは言わないが、留学エージェントなどを雇わなくても、結果的に何とかなった。
5. 入国後
金銭面
よく日本の建築事務所ではインターンの給与の低さが問題になることや、国によってはむしろお金を払って参加する事例もあるなど、普段の生活圏とは離れた場所でのインターンは金銭面が大きな課題になる。
BIGでのインターンシップに関して言えば、毎月10,000DKK(今の為替で約24万円) が支給される。しかしデンマークは税金が高いことで有名である。納税の控除が受けられるTax Cardを申請すると、約三割が引かれ、手取りは16万円ほどになる。また、オフィスのランチは選択制で、月900DKK(2.2万円ほど)で給料から天引きで支給される。
下宿先は自身で見つけて契約する。基本的にはFacebookやインターネット上の物件サイトで探すことになるだろう。インターンの友達から聞く限り、シェアハウスで、家賃は5,500DKK(13.2万円ほど)が平均である。私の場合は3,300DKK(8万円ほど)の物件に住んでいる。オフィスから近く、シェアハウスなのに誰も住んでいない。古い家であることを除けば奇跡的な条件である。
つまり、私のような運のいい人を除けば、平均的には16万円-13.2万円-2.2万円=3万円弱が食費交際費に充てられることになる。コペンハーゲンのビッグマックセットが約3,000円であることを考慮すれば、生活は厳しいというのが想像できるだろう。現実的には海外からのインターン生は私を含め、給与とは別に自国の奨学金をもらっている場合が多い。
役所手続き
入国直後のハードルとなるのが、住民登録や銀行口座などの煩雑な手続きである。デンマークに限って述べる。流れとしては、
①下宿先と契約して住所を取得
↓
②CPR番号(日本でいうマイナンバー)の取得
↓
③MitID作成(スマホアプリ)
↓
④銀行口座、保険証、Tax Cardの申請・作成
注意したいのはデンマーク国内の住所がない場合、手続きを始めることが出来ない点である。出国前にある程度めぼしい物件を見つけて、大家とコミュニケーションをとる必要がある。逆にデンマークはかなりデジタル化が進んでいるので、申請のプロセスは非常にスムーズである。物件の内見を除けば、このプロセスの中で実際に足を運ぶ必要があるのは、住所・本人確認を兼ねたCPR番号の受け取りの時だけであり、銀行口座や保険証、Tax Cardはスマートフォン上ですべて申請から作成まで行うことが出来た。
これらの手続きに関しては、国によって入国後数週間以内に行う必要がある場合もあるので、私のように先延ばしにしないことが吉である。Tax Cardと銀行口座の開設の申請が遅れて、給与の受け取りが三カ月後になってしまわないようにしたい。これらに関しても、ChatGPTや勤務先のオフィスと相談しながら手続きを進めるといい。
これまで述べたように、海外インターンシップに参加するには、たくさんの時間とお金、労力が必要になる。しかし、それを補って余るほどの良い経験を自身にもたらしてくれていると私は感じる。この記事が海外に挑戦したいと考えている読者の助けに少しでもなれば幸いである。

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