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セントラルパーク

ニューヨークのセントラルパークは定番の観光スポットではあるが、この公園ではちょっとした時間旅行ができる。今回はそのユニークな歴史を少し紹介したい。

セントラルパークの建設は1858年に始まった。同年に最初に出来た区画と湖が一般公開されるが、全体が完成するまでに18年もかかっている。公園の設計はコネティカット州出身のフレデリック・ロー・オルムステッドと、イギリスの建築家のカルヴァート・ヴォーが共同で手がけた。

特にオルムステッドは都市における公園設計のビジョナリーであり、ランドスケープ・アーキテクトという職業を初めて名乗った人物だと言われている。農家で作家でもあったオルムステッドは人間の心理に注意深く、都会で生活する人々は心の静けさを公園に求めていると考えた。それ故に公園の美しさは野原や草原、静かな水そのもの美しさであるべきだとし、のどかな自然の美によって、街の中心にいながらも街から遠く離れられるような感覚、自然の中に身を置くときに得られるような広がる自由の感覚を人々にもたらす公園を目指したという。

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Map of the Central Park, Lionel Pincus and Princess Firyal Map Division, The New York Public Library Digital Collections. 1873. Public Domain.

しかしそれは、その土地のありのままの自然を保護したり生かすことではなかった。その逆で、実はセントラルパークはすべて人工的に作られた景観だそうだ。

初めて知った時はとても驚いた。公園内に入ると、ニューヨークの自然の軌跡を見ている感覚を得るからだ。ビルだらけの都心のど真ん中で、その土地の木々や湖がかろうじて生き延びている場所のような気がするが、実際には沼地であった広大な土地に、外部から土壌や石、50万本以上の樹木などがすべて持ち込まれて建設された人工の景観だ。7つの湖も手作業で作られ、実質的に人々はオルムステッドとヴォーが描いた理想の景観に没入していることになる。

オルムステッドとヴォーは当時暗く汚れていたニューヨークの街に自然の美しい景観を出現させることで、都会に住む人々の精神にどのような影響を与えうるか、景観が人に及ぼす心理的作用を重要視していた。また、オムステッドは当時南部まで調査に出向き、奴隷制度に反対する出版物も執筆し刊行していたそうだ。そういった思想のもと、公園にもすべての人間に開かれた民主的なあり方を求めた。そうした物語を知ると、完成時の公園を体験してみたい気分になる。

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Central Park (Summer), 1865, Julius Bien (1826-1909), after John Bachmann, Lithograph, Metropolitan Museum of Art, Harris Brisbane Dick Fund, 1947, public domain.
建設中のセントラルパーク

興味深いことに、人工的に作られたセントラルパークは、今やたくさんの在来植物が生息し、ミツバチ、蝶、鳥やコウモリなどが花粉を媒介しながら街の植物の成長を助けている。170種類の樹木は四季折々に公園を彩り、春と秋には渡り鳥が公園で休息をとる。夏は蛍がたくさん飛びまわり、都心の喧騒に揉まれる市民が少しその時間を忘れて、季節の変化に浸れる場所だ。また自然保護官による熱心な手入れのもと、現在のセントラルパークは多様な生態系を守り、コンクリートジャングルの都市で肺のような存在になっている。

そんな多様な魅力がある公園だが、個人的に最もお気に入りのエレメントは露頭だ。来たことがある方は思いつくかもしれないが、公園内には巨大な岩があちこちで隆起している。この露頭たちは公園内で唯一、計算して設置されたものではなく、古代のマンハッタン島からその場所にある生粋のネイティブたちだ。オルムステッドはこの露頭をそのまま残して公園のデザインに取り入れた。

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セントラルパークの露頭

この露頭たちは北米大陸の歴史そのもの。アメリカ先住民のネイティブ・アメリカンは、現在のマンハッタンを丘だらけの島という意味の「マンハッタナ(Manhattana)」と呼んでいた。古代からニューヨークは露頭だらけだったということだ。

最後の氷河期の始まりである260万年前、マンハッタンは超高層ビルも埋もれるほどの厚い氷に覆われていたという。その後温暖化で約1万8千年前に巨大な氷の膜は溶け始める。露頭の表面には当時の氷河の跡が残り、断面からは地球の時間を感じることができる。

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セントラルパークの露頭

露頭の他にも、公園内には迷子石と呼ばれる丸みを帯びた石があちこちに転がっている。ニューヨーク市によると、かつて北米大陸を覆っていた巨大な氷河であるローレンタイド氷床が、隣のニュージャージー州からバスほどの大きさの巨大な岩を拾い上げ、マンハッタン島に落としたという。その後温暖化により氷が溶けたあと、この迷子石たちはその場所に取り残された。マザーランドから遠く運ばれてきた迷子石たちを見ると、時折、移民やディアスポラの姿を重ねてしまう時がある。

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セントラルパークの迷子石

人類の歴史をはるかに超えた、地球の約45億年の地質学的な歴史を含む広大な時間の概念をディープタイムと呼ぶが、セントラルパークにはディープタイムを感じさせてくれる崇高な存在がたくさんいる。来る機会があれば、オルムステッドとヴォーがデザインした曲がった小道の数々や湖、美しい草原を楽しんだあと、この露頭の上に寝転んでみたり、迷子石に触ってみてほしい。