エキシビション「Archaeology of Mino」のレポート
2021年6月8日(火)から6月13日(日)まで、表参道のイベントスペース441にて、美濃を拠点に発足したブランド「MINO SOIL(ミノソイル)」によるエキシビション「Archaeology of Mino」が行われた。会場では、インド・ムンバイを拠点に活動する建築設計事務所スタジオ・ムンバイとのコラボレーションで「美濃の土」にフォーカスしたインスタレーションを展示され、土と人がともに大きなサイクルの中に存在することの大切さを伝えた。この記事では、展覧会開催を祈念し行われたスタジオ・ムンバイの主賓、ビジョイ・ジェイン(Bijoy Jain)氏のオンライントークイベント及びインスタレーション会場の様子をレポートし、彼らが発信する素材としての”土”の可能性を紹介したいと思う。
日本でもっとも陶磁産業の盛んなエリアのひとつである岐阜県美濃地方。なかでも多治見市は古墳時代から美濃焼の町として知られ、栄えてきた。長い歴史と伝統に支えられた美濃焼は、食器類の生産が全国シェアの約60%を占めており、日本のやきものの代表といっても過言ではない。しかし、日常生活のなかで何気なく使われているそれらの原料について、よく知らない人も多いのではないだろう。事実、土が採掘される鉱山の様子やその製造過程を一般の人が目にすることはめったにない。こうした美濃の土の可能性に着目し、その可能性をデザインを通じて発信するブランドとしてスタートのが「MINO SOIL」だ。
「MINO SOIL」がまず必要だと考えたことは、人々に地球からの恵である土の存在を意識するきっかけを創出すること。そこで、その存在について深く考えられる空間を創出するため、造成から設計、施工までを一貫して職人による手作業で行い、その土地(ローカル)の素材、自然を生かすことで知られるインドの建築事務所スタジオ・ムンバイにコラボレーションを依頼。同じものづくりの理念を持つ二者が協力し、今回のエキシビションが実現した。
エキシビションに合わせて開催されたオンラインイベント(AXIS Forum「原点回帰」vol.04)では、「MINO SOIL」エキシビション会場(東京)とスタジオ・ムンバイオフィス(インド)を結び、ライブ配信する形で開催された。当日は、エディターの原田環氏が聞き手となって、スタジオ・ムンバイの代表的な建築作品を交えながらビジョイ氏にスタジオ・ムンバイのものづくりの原点と言える手仕事の重要性について、また、風土に根ざした素材を尊重する理由について紹介した。また、トーク後半では「MINO SOIL」のクリエイティブディレクター、ダビッド・グレットリ氏も加わり、現地リサーチの様子やどのようにスタジオムンバイとともに今回のエキシビションが作られていったのかが語られた。
会場の様子
後日、予約制の会場を訪れると出迎えてくれたのは、通りに面した側面がガラス張りで開放的なのエキシビションスペース。
適度な間隔を保ちながら美濃地方の多様な土を用いた純粋形態のオブジェが配置されていた。本展示会でクリエイティブディレクションを務めた田中林子氏によれば、空間づくりにおいてはビジョイ氏とオンラインシステムを使用し、それぞれの配置を決め、空間づくりを行なっていったのだという。
特に印象的だったのは、原土のキューブ。美濃でとれる色々な土、新たに開発しているリサイクルの土など、原土のまま、それを乾燥させてものや焼成したものだそうだ。美濃地方の粘土、釉薬などを使わずとも人の手や自然の力などで表現できるバリエーションの豊かさに驚かされた。
そして壁には写真家の高野ユリカ氏による鉱山の写真が配置され、美濃地方のものづくりの原風景を追体験できるような空間が作られていた。
高野氏に鉱山の一部にフォーカスした写真をパンフレットにも起用した理由について聞いてみると、地層が作られた長い歴史とや人がその土を削ぎ落とした形跡、マクロの世界とミクロな世界が共存し、人と土が共に生きてきた様子が詰まった一枚だったからだと教えてくれた。
この展示会を通じて、素材としての”土”に秘められた「表現の豊かさ」を知り、今後さらに発展していく可能性を感じるとともに、その尊さを改めて意識するようになった。田中氏によれば、MINO SOILのプロジェクトは全てが決まっているわけではないという。今後も様々な人との対話を通じて今後の方針を決めていくそうだ。様々な可能性を秘めた今後の彼らの活動にも注目していきたい。