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ウッドショックの影響

以前は「職人さん歓迎!大量発注承ります!」という張り紙がされていたホームセンターの資材コーナーにも、「現在供給量が不足しているため大量購買・発注はお断りいたしております。」という張り紙が重ねて貼られるようになり、資材流通の末端であるホームセンターにまでウッドショックの影響が現れはじめて数ヶ月が経ちます。

2020年新型コロナウィルス感染症が世界的に猛威をふるい、日本が主に建材を輸入しているアメリカの建築業界にも大きな影響を与えました。コロナ禍を受けてアメリカの住宅建築需要は一時落ち込んだものの、その後に膨大な財政出動と低金利政策が行われた結果、リモートワークやステイホームで自宅にこもるようになった人々が住宅を郊外に新しく購入したりリフォームを行ったりするようになり、落ち込んでいた住宅建築需要は急激に上昇。しかし、コロナ禍によって休業していた製材所なども多く、急激に増えたアメリカ国内での需要に供給が追いつけなくなり、今まで日本に輸出されていた分の木材がなくなって届かなくなってしまったのです。

また、アメリカと並んで日本に木材を輸入することの多いカナダでは松くい虫による深刻な害虫被害で供給量がもともと落ちていたことや、コロナ禍によってコンテナ輸送業も停滞・遅延していたことなどもウッドショックに拍車をかけました。

コロナ禍によるステイホームやリモートワークをきっかけとした建築需要の高まりはアメリカだけでなく世界的に見られており、日本でも家を建てたい・直したいという人は増えているのに、ウッドショックやコロナ禍の影響によって木材や設備が足りないため工事が進められなかったり、今までより高い金額になってしまったりという問題が起きています(現在は解消されていますが、新型コロナウィルスが日本で流行し始めた2020年のはじめ頃には木材はまだ余裕があったものの水回り設備の輸入が滞り、家はほとんど完成したのにトイレやお風呂がないため納品できないということがあちこちでありました)。

アメリカでの急激な建築需要の高騰は2021年の1月をピークに落ち着きを見せ始めているようですが、日本のウッドショックはいつ落ち着くのかまだ先が見通せない状況です。

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現在のようなウッドショックが起きている背景には、日本の建設業の多くが海外からの輸入木材に頼っていることや、熟練していない作業員でも短期間で効率よく建設を行えるように構造用合板や集成材、プレカット工法(あらかじめ工場で木材にほぞ穴やアリ加工を済ましておいて、現場では組み立てるだけにしておく工法)など規格的な建材を簡易に組み立てていく工事が主流になっていることの欠点が露わになったという側面もあり、先に説明したコロナ禍によって生じた建築需要の高まりという要因はあくまできっかけに過ぎません。

現在のように規格化された建材や輸入木材が出回る以前は、近隣の山や林地から木を切り出してきて、近隣地域の木工所などで角材や板材などに加工し一年ほどかけて乾燥させ、大工が現場で木材の加工や調整しながら家を建て、伐採から建築までの過程を数年かけておこなっていました。

最近の新築住宅ではもう見かけませんが、古民家などを見ると角材だけでなく、曲がりくねった松や広葉樹の丸太材が上手く加工されて梁や柱などに使用されており、技術があれば全ての木材を角材にする必要もなく、どのような木でも有効に活用されていたことが分かります。

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曲がりくねった丸太材が上手く組み合わされ梁や桁に使用されている古民家

そもそも木は人がイメージしてるほど真っ直ぐなものではなく、反ったり曲がったり、なんらかの癖を持っているものです。昔の熟練大工はそういった木の癖を読みながらどの木材をどこにどう使うか適材適所を考え、家を一軒一軒時間をかけて建てていたのですが、木の癖を読める熟練の職人を育てるのも、昔のように時間をかけて家を作るのも、手間やコストがかかります。

現代のような移り変わりの激しい消費社会の中では、そのような方法では儲けを出すのが難しく、建築会社が儲けを出そうとするならば、いかに短期間・低コストで効率よく沢山の家を建てて売るかが課題となってきます。そのために安い輸入木材を使ってコストを減らし、木材を乾燥させる時間を短縮するために機械で高温乾燥させ、熟練した職人でなくても短期間で簡単に組み立てられるように、工場で反りや曲がりなどの癖が少ない木材や集成材をあらかじめ加工してパーツ化しておくプレカット工法やプレハブ工法などの画一的かつ効率的な建設方法が推し進められ、寿命の短い家が量産され、スクラップ&ビルドが繰り返されるようになりました。そのおかげでほんの数ヶ月で家が建てられるようになり、多くの人が昔より家を手に入れやすくなったという恩恵もありますが、同時に様々な弊害も起きているのが現状です。

本来であれば海外からわざわざ木材を輸入してくるより、近くの山から切り出してきた木材を使う方がコストはかからないはずですが、国力の格差を利用して人件費の安い国で大量伐採を行なって安く木材を調達したり、米松(米はアメリカの意味でアメリカから輸入された松材のこと)などの反りや曲がりの少ない輸入材を好んで利用したりしている内に日本の人工林や林業は荒廃し、以前のように建材に適した木材を自国内だけでまかなうことができなくなってしまっています。

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何も知らないと自然豊かなように見える雑木林だが、間伐や枝打ちなどの手入れがされていないため、痩せ細った針葉樹が密集し、木材としても使いにくくなってしまった人工林。

また、手入れのされていない荒れた人工林は生態系の崩壊や土砂崩れ等の災害の原因、花粉症を引き起こす要因などにもなるため、ずっと以前から問題が指摘されてきました。林野庁の公表している森林・林業白書によると、日本の木材自給率は2002年に18.8%で底を打って以降徐々に回復し、2019年には37.8%にまで上がってきており、少しずつ改善はされています。しかし、日本の森林面積は国土面積の2/3に当たる約2,500万ヘクタール、その内人工林は4割に当たる約1,000万ヘクタールもあり、日本の人工林の半数が一般的な主伐期である50年生を超えていることを考えると、国や建設業界がもっと本気でこの問題に取り組んでいれば、木材自給率がもう少し高くなっていた可能性は高く、これほどウッドショックの影響が大きくならずに済んだのではないでしょうか。

伐採した木を木材として使用できるようにするには製材や乾燥などの過程を経なければならず、ウッドショックになったからといってすぐには国産材を流通させることができません。そのため、今から国産材を増産するために伐採を急いでも、木材として市場に流せるようになる頃にはウッドショックが落ち着いてまた輸入材が出回っているかもしれず、もしそうなると製材業者は余計な在庫を抱えることになりかねません。そういったリスクもあって、ウッドショックが起きているにもかかわらず国産材の活用に対する動きは予想以上に鈍く、いつウッドショックが落ち着くのか先行きが見通せない要因の一つともなっています。