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107歳で逝去した作家を追悼すると共にその創造の軌跡を紹介

菊池寛実記念 智美術館では、「篠田桃紅 夢の浮橋 / Toko Shinoda Bridge Over Fleeting Dreams」と題し、水墨の芸術家、篠田桃紅(とうこう)の軌跡を紹介する展覧会を2022年6月18日(土)から8月28日(日)まで開催する。篠田桃紅(1913-2021)は第二次世界大戦後、日本の書の可能性を大きく広げたひとりであり、「墨象(ぼくしょう)」と呼ばれる水墨抽象画の表現を開拓した作家。

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《朝ぼらけ》1960年頃 90.0×177.0cm 墨、銀泥、カンバス(撮影:尾見重治、大塚敏幸)

1913年に大連に生まれ東京に育つと、幼少よりほぼ独学で書を学び二十代から書家として活動を始める。やがて従来の書風に囚われない創作に進み頭角を現すと、1956~58年にかけ単身渡米、当時アートシーンの中心だったニューヨークを拠点に水墨の作品を発表し海外でも評価を高めた。

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菊池寛実記念 智美術館は創設者の菊池智(1923-2016)と作家との長年の交流が機縁となり、桃紅作品を館内に常設する所縁ある美術館としてこれまで二度の個展を開催。今回の展覧会では2021年3月に107歳で逝去した作家を追悼すると共に、改めてその創造の軌跡が紹介される。展示企画にあたっては篠田作品を取り扱うギャラリーとして40年来作家と直接交流し活動してきたザ・トールマン コレクションを監修に迎え、1950年代から晩年までの篠田桃紅の肉筆、版画の他、着物など約50点余の作品をみることができる。

展覧会のみどころ

篠田桃紅(1913-2021)は書と水墨という日本の文化に深く根付いた領域で、「書く」ことを創作の起点としながら墨による抽象表現を開拓した芸術家。その仕事は書、抽象画、版画等の平面作品、建築壁面や劇場の緞帳等の大型制作、また創作の日々や人生観を繊細な筆致で綴った随筆の執筆まで、多岐にわたり、昭和初期から昨年107歳で亡くなるまで70年以上に及ぶその活動において、時代の変化や潮流を捉え新しいものを受けとめながらも自らの美意識を貫き、現代の水墨の可能性を示し続けた稀有な存在といえる。篠田は墨を生涯の創作の基とした理由について、老子の言葉を用いて下記の通り語っている。

墨には明るさも暗さも、強さも弱さも、一切がある。始まりの色で終わりの色である

本展では篠田が書から抽象へと大きく展開した1950~60年代から、独自の表現を深めた90~2000年代の水墨肉筆の作品を中心にリトグラフ、エッチングなどの版画作品、篠田自身が好んだ着物等の関連資料を加え、紹介される。

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篠田桃紅

展示作品

《夜明け》は米国個展を成功させ、海外での活動が活発になった1960年代の作。当時ジャクソン・ポロック、マーク・ロスコなどを取り上げアメリカの美術界を牽引した画廊、ベティ・パーソンズ・ギャラリーで発表された海外からの里帰り作品。

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《夜明け》

1980年代以降、作品には鋭い線描、淡墨や濃墨の重なり、かすれや点描など墨の特性を活かした多様な表現が展開する。また《Harvest》のように、墨を主体に朱泥や銀泥を用い、背景に金銀地を採用するなどの試みが深まり、篠田桃紅ならではの水墨抽象のスタイルが確立していく。

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《Harvest》

リトグラフ《夢の浮橋》制作は、1960年代より半世紀近くにおよび、篠田の仕事のなかでも重要な位置を占める。リトグラフ制作では版材に篠田自身が直接描画を行い、印刷は多くの作家の作品を手掛け、国内の刷り師として第一人者であった木村希八(1934-2014)が担った。篠田のほとんどの版画作品では、刷られた画面上にさらに肉筆が加えられている。

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《夢の浮橋》

智美術館と篠田桃紅作品

智美術館では2003年の開館当初より篠田桃紅の作品を空間設計に取り入れ、二点を常設している。一点は建物玄関を入ったエントランス正面に展示する《ある女主人の肖像》で、もう一点は一階と地下展示室を結ぶ螺旋階段の円形空間に合わせ、壁面全体に直接貼られたコラージュ作品《真・行・草》。これらは篠田と美術館創設者、菊池智の所縁により、菊池が館の設立以前から収蔵していた作品で両者の長年にわたる交流の証といえる。二人は菊池が建築家の堀口捨己(1895-1984)に茶室設計を依頼した1960年頃に堀口を介して知り合い、交際は半世紀以上に渡った。出会いの当初より両者は互いが美に対して思いの強い人間であることを認め、芸術をめぐる対話を楽しみ、篠田はその出会いを随筆(「秋くさの庭」、1965年)にも記している。

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《ある女主人の肖像》

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《真・行・草》

「篠田桃紅 夢の浮橋 / Toko Shinoda  Bridge Over Fleeting Dreams」展概要

会期2022年6月18日(土)から8月28日(日)まで
会場菊池寛実記念 智美術館(東京都港区虎ノ門4-1-35西久保ビル)
開館時間11:00~18:00
観覧料一般1,100円 / 大学生800円 / 小中高生500円