「彫刻の詩人」舟越桂が思いを語った、言葉と時間が宿る森へいざなう貴重な1冊
『舟越桂−森の声を聴く』が求龍堂より2024年6月28日に発売された。本書では、独特な世界感を創りだす作家の思考の輪郭が、著者・酒井忠康の記述と二人の語りによって見えてくる。舟越は今年3月に72歳で逝去し、本書の装幀には最後の作品《書庫の中を飛ぶ》が掲載された。白をまとい凜とした女性像が美しい書籍となっている。
1〜3章までは、1985年にはじめて舟越桂の彫刻を目にして以来、40年近く作家とその創作を見続けてきた元世田谷美術館館長・美術評論家の酒井忠康による、舟越作品との出会いと驚き、文学的空気を漂わせるその魅力を探る探訪について綴られる。出会いから3年後の1988年、酒井はヴェネチア・ビエンナーレのコミッショナーとして舟越桂の作品を世界の舞台へ紹介し、それを機に作品は世界へ広く知られることとなった。サンパウロ・ビエンナーレにも参加し、大きく飛躍した時期の濃密な時間を知ることができる。
4章では、彫刻家・舟越桂と美術評論家・酒井忠康が語り合った4つの対談を収録。対話のなかでは、舟越桂が人生の中で目に留めた様々なことや人々が、いかにその心に留まり、魂を震わせて創作の表現につながっていくのかが、気取りない語り口で驚くほど率直に語られている。
彫刻の森美術館では開館55周年記念展覧会「舟越桂 森へ行く日」が2024年7月26日(金)から11月4日(月)まで本館ギャラリーで開催される。本展は最期までこの展覧会の実現を望み、取り組んでいた舟越本人の意思と、ご遺族の意向を尊重し開催される。
舟越桂 (ふなこし かつら)
1951年、戦後日本を代表する彫刻家・舟越保武の長男として、岩手県盛岡市に生まれる。1975年、東京造形大学彫刻科を卒業。1977年、東京藝術大学大学院美術研究科彫刻専攻を修了。1986年、文化庁芸術家在外研究員として1年間ロンドンで過ごす。1988年、ヴェネチア・ビエンナーレへ出品され、高い注目を集める。翌年にはサンパウロ・ビエンナーレへも出品。国内外で数多くの展覧会を開催する。1997年、第18回平櫛田中賞を受賞。2003年、第33回中原悌二郎賞受賞。2009年、第50回毎日芸術賞を受賞。2011年、紫綬褒章を受章。2023年、第11回円空賞を受賞。2024年3月29日、肺癌のため死去(72歳)
酒井忠康(さかい ただやす)
1941年、北海道余市郡に生まれる。慶應義塾大学文学部卒業。1964年、神奈川県立近代美術館に勤務。同美術館館長を経て、2004年より2024年まで世田谷美術館館長。『海の鎖 描かれた維新』(小沢書店)と『開化の浮世絵師 清親』(せりか書房)で注目され、その後、美術評論家としても活動。主な著書に『若林奮 犬になった彫刻家』『鞄に入れた本の話』『芸術の海をゆく人 回想の土方定一』(以上、みすず書房)、『早世の天才画家』(中公新書)、『ダニ・カラヴァン』『ある日の画家 それぞれの時』『彫刻家との対話』『風雪という名の鑿(砂澤ビッキ)』(以上、未知谷)、『覚書 幕末・明治の美術』(岩波現代文庫)、『鍵のない館長の抽斗』『片隅の美術と文学の話』『美術の森の番人たち』(以上、求龍堂)、『展覧会の挨拶』(生活の友社)、『横尾忠則さんへの手紙』(光村図書出版)『余白と照応 李禹煥ノート』(平凡社)などがある。
『舟越桂−森の声を聴く』書籍概要
発売日 | 2024年6月28日(金) |
定価 | 2,750円(税込) |
発行 | 求龍堂 |
仕様 | 上製本 A5正寸 132頁 |
URL | https://tinyurl.com/2rnzw2kf |