原体験や感覚をどのように捉えるか?
帝国ホテルプラザ東京2FにあるMEDEL GALLERY SHUでは、新進気鋭の作家長谷川彰宏の個展「I truly feel」を5月23日(火)から6月4日(日)まで開催する。本展は「原体験や感覚をどのように捉えるか?」という課題に向き合う機会となる。普遍性と現代性のパラレルなコンセプトで注目の新進気鋭のアーティストの今の視点を楽しむことができる。
作品の特徴
ビビットで発光しているような「halation」シリーズは、アクリル板に絵具を表裏に載せることで、光をコントロールし透明感やレイヤーを生み出している。それらはデジタルディスプレイをみているような感覚に近く、鑑賞者の日常に自然に侵入してくる。光の画面の色調を、絵の具(アナログ)で表現している仕掛けや紙やキャンバスは絵の具が支持体に浸透するが、アクリル板の絵の具は絵の具そのものの質感が残り、その異なる絵の具の偶然性が生み出す抽象さは鑑賞者が自分の感覚を無意識に投影してしまう魅力がある。「その時の感情や感覚を一つに形容すると、何か大事な事を逃し続けるようなものであると思う。」と彼の言葉にあるように、言葉で固定化された時にこぼれ落ちてしまうような情景が表出しているかのようにも見える。
I truly feel
I truly feelは直訳すると「、、と心から思う」のような意味になる。本来ではその後に形容詞が続く。
つまりこの展示タイトルでは“何を”こころから感じているのかはまったく不明であるのだが、しかしそれこそ私が意図したものである。
私は作家活動をするにあたり“感動”や“原体験”とどう向き合うか、が大変重要なものであると思っている。それらは人生において偶然と不条理でもってして直面し、そしてどうしようもなくその後の生き方に影響を及ぼす。
そこには時代性と社会性、そして個人の特殊性の全てがあるように思う。そして大事なところであるが、感動や原体験は、その時の感情や感覚を一つに形容すると、何か大事な事を逃し続けるようなものであると思う。過去の強いそれらは、その後の生き方や世界観を規定するくせに、解釈可能性が低い。
よってタイトルでは形容詞を続けていない。その解釈や意味以上に、“そう、強く私は感じてしまう”ということ自体を一度じっくり味わいたいと思っている。長谷川彰宏
長谷川彰宏
1997年三重県出身。天台宗系の寺院に生まれ、2009年に得度し2019年には天台真盛宗総本山の西教寺にて四度加行を満行している。2016年に東京藝術大学デザイン科に入学し、2020年より同大学院美術研究科デザイン専攻に在籍しながらアーティスト活動を続けている。感情、思想、身体、そして生命の存在に対して俯瞰した視点を持つ長谷川の作品群は、彼の根幹をなす仏教思想から得た独自の姿勢が垣間見え、死生観や人間の存在そのものを問いかけてくる。幼少期から“光”に視覚的にも思想的にも強く惹かれてきたという長谷川は、その原体験を作品に落とし込んで表現している。