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世界最大級の木材構造建築物となる新本社

ブレゲ、ブランパン、オメガ、グラスヒュッテ・オリジナル、ジャケ・ドロー等を傘下に収めるスウォッチ (SWATCH)・グループは約5年の施工期間を経て、スイス・ビール市に新本社を2019年10月3日に完成させた。世界最大級の木材構造建築物となる新本社を設計したのは、世界的に著名な建築家、坂茂 (坂茂建築設計 / Ban Shigeru Architects)。スウォッチ・グループに新たなページを刻むこの新社屋は、同社の時計のように既成概念にとらわれない設計となってる。

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スウォッチ・グループは2007年に竣工した東京銀座のニコラス・G・ハイエックセンターの建設で、坂茂と初めてコラボレーションをしている。その後、2011年にスウォッチ・グループが実施した今回のスウォッチ社屋、オメガ社屋および「Cité du Temps (シテ・ドゥ・タン)」の設計コンペティションで坂茂のデザインが選ばれた。坂茂の独創的でありながら、実用性も兼ね備えた建築コンセプト、そして各建物において各ブランドの精神を尊重する能力が評価された。坂茂はスウォッチ・グループ本社の敷地の文脈も考慮し、プロジェクト全体に反映させた。

建物・ファサード

滑らかに光を反射し美しい曲線を描くスウォッチ・グループ本社屋の全長は240m、幅は35m、高さは最長で27mに及ぶ。従来のオフィスビルの既成概念を覆すデザインが想像力を掻き立て、芸術作品のように見る人に建物の解釈を委ねる。一方で、建物を取り巻く周囲の環境にも美しく調和するよう設計されている。

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総面積11,000㎡の広大なヴォールト形状をしたファサードは、エントランスに向かって緩やかに上昇し、シテ・ドゥ・タンへと繋がる。建物内外には、曲線、色、透明性など様々な要素が散りばめられており、建築材料も通常とは異なった使われ方をしている。

ファサードを形作るのは、木造のグリッドシェル構造。環境への配慮とサステナビリティの実現のために選ばれたのが、木という伝統的な素材だ。自由度の高い建材である木は、極めて高い精度の加工が可能。木材はミリ単位の精度が求められた本プロジェクトに不可欠な要素となった。木材を用いることで、設計段階から最新の3Dテクノロジーを用い、4,600に上る個別の木部材の形状と設置箇所を精密に定義することが可能となった。

個々の梁は完璧な精度で組み上げられた。木造グリッドシェルはオフィス空間の外皮の役割も果たすため、多種多様な技術的要件も満たす必要があった。そのため、各種設備配管のネットワークが木製の梁に直接組み込まれ、ファサード全体に張り巡らさた。

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建物内部

スウォッチ・グループ本社の延べ床面積は25,000㎡。4つの上方階の床面積は階が上がるごとに減少し、ガラス製の手すりが設置された各階のギャラリー部分から下の階を見渡すことができる。また通常の職場スペースに加え、多種多様な共有エリアも建物全域に設置されている。地階のカフェテリアはスウォッチ社員およびその顧客に開放されている他、随所に休憩スペースが設けられている。プライバシーを尊重した空間としては、個別の「アルコーブ型キャビン」が設置されている。キャビンは最大6名で利用でき、電話や作業に集中する必要がある際に利用できるようになっている。3階を奥に進むと、どの階にも行けない階段「読書用階段」に突き当たる。大きく開けた「読書用階段」からの眺めを前に、想像力を働かせるために休憩をとったり同僚とブレーンストーミングをしたりと、様々な目的で使用できる。

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ロビー

ゆったりとスペースをとったエントランスエリアには、高さ27mに達する全面ガラス窓が設けられ、開放的で明るい空間が広がっている。このガラスのファサードは天井を構成するグリッドシェル枠に合わせるため蛇腹折りのような形状をとり、これにより強い風圧にも耐えられる構造となっている。

ガラス窓の下部には、自動で開閉する5.5mのガラス製シャッターを設置し、このシャッターは、風圧に十分な耐性を持ち、断熱効果も高く、完全に開放可能なガラスのファサードとしての機能を果たしている。ロビー内にはガラス製エレベーターが2基設置され、3階のギャラリーからはエントランスエリアが見渡せる。また、4階に設置されたガラス製の歩道橋は、スウォッチ本社とシテ・ドゥ・タンを繋いでいる。

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サステナビリティ

建物は、地下水を利用した冷暖房や太陽光発電システムにより、二酸化炭素排出量の削減している。その他にも、ベロスポット・ステーションでの電動自転車の共有・充電、自動制御の日除け、断熱効果の高いガラス窓、LED 照明、高効率の換気システム、輻射冷暖房およびペーパーレス化など、サステナビリティなオフィスの実現に向けた取り組みがされている。最新技術を駆使したスウォッチ社の新社屋は、最先端の建築とワークスタイルが環境保全と両立可能になっている。

ファサードの木材にはスイス国産の木材のみが使用され、品種は主にスプルスが選ばれた。使用木材量は合計1,997㎥に及ぶが、これは、スイスの森では2時間足らずで再成長する木材量である。新社屋全体の使用エネルギーは、太陽光発電による熱源と地下水利用を中心にまかなわれ、スウォッチ本社およびシテ・ドゥ・タン共に、換気、冷暖房、照明といった建物の機能が自律的に動くようになっている。

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建築家 坂茂

1957年東京生まれ。2014年にプリツカー賞 (The Pritzker Architecture Prize)を受賞した国際的な建築家。坂茂の設計は繊細かつ慣例に捉われない構造を特徴とし、建築における技術革新のみならず、ボランタリー・アーキテクツ・ネットワーク (Voluntary Architects' Network / VAN)の立ち上げ、避難所用間仕切りシステムの提供など災害支援への多大なる貢献で広く知られる。