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ディレクター ナガオカケンメイ氏インタビュー

マスメディアによってイメージづくられた「理想的な暮らし」。戦後の日本では、多くの人がその「理想のくらし」に近づこうと必死に努力してきた歴史がある。しかし、昨今のグローバル化やスマホの普及、コロナウィルスの感染拡大により、みんなが同じ方向を向いて生活するということが減り、本当の「自分」や「暮らし」とはなんだろうかと考えはじめる人が増えているのはご承知のこと。そうした社会背景により、徐々に熱を帯びる昨今の「民藝運動」への注目。今回は、「ロングライフデザイン」を軸に活動するデザイナーであり、プロデューサー、そして経営者の顔を持つ“デザイン活動家”、ナガオカケンメイ氏ディレクションのもと行われた「LONG LIFE DESIGN2 祈りのデザイン展」について特集する。

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「LONG LIFE DESIGN 2 祈りのデザイン展」(以下、会場写真はすべて展覧会提供)

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本企画展は、47の日本各地にある「どうしてか分からないけれど、心惹かれる、適度に量産されているもの」を、民藝思想の中で柳宗悦が特に強調する「直観」で選び、並べてみてから、その理由を探っていったというもの。第二回目となる今回のテーマは、「祈りのデザイン」。ディレクターである、ナガオカケンメイ氏に本展の狙いや作品について尋ねた。

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きっかけは、気になるプロダクトの裏にあった秘話

ーまず、そもそも「LONG  LIFE DESIGN」という企画展はどのような経緯で誕生したのでしょうか。

この企画展は、僕が民藝運動に対する社会的なイメージとその本質との乖離に気づき、違和感を感じたことがきっかけとなりました。民藝運動とは、本来、心の美しさをモノと紐づけて宗教的に感じる運動であったはずが、いつの間にか「機能性の高いものは、美しい」というプロダクトデザイン論にすり替わり、社会的なイメージが出来上がっているように感じます。大切な「健やかさ」の部分がいつの間にか、埋もれて見えなくなっていると。そんな僕の気づきを社会に対して伝えたいと思い、2年前この展覧会を開こうと思い立ちました。

ー今回「祈りのデザイン」というテーマは、どんなことがきっかけで決まりましたか。

きっかけは、広島の車メーカー、マツダのデザイン本部の方とのトークショーでした。先日、広島でのお仕事をさせてもらったとき、デザイン部門担当の方と話をする機会があったのです。すると、そこでマツダの生産現場には、御神体を飾って、御神酒を献げているという話を聞いたのです。ひと昔前だったら、宗教じみてるという反応もあるかと思いますが、その当時周りにいた人たち、僕もこの事実を自然と受け入れていたんですよね。このとき、「デザインも御神体っぽくなってきたな」と感じたんです。つまり、今求められているデザインは、もっと多様で、クリエイターが澄み切った心、祈るような心でつくったものなのではないか、ひいてはこの考えこそ、未来のデザインになっていくのではないかと。この展覧会では「未来のデザイン」を考えてもらう場になってほしいという思いがあったこともあり、第二回のテーマを「祈りのデザイン」にしました。

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「直観」で選ぶ。それから理由を探るというユニークな選定プロセス

ーどのように作品を選定していったのでしょうか。

 今回、展示作品選定においては、これまでD&DEPARTMENTやトラベルガイド『d design travel 』で取り上げた作品のアーカイブの中から、まずは関係者が各都道府県の作品からいくつか候補を選出。メディアやSNSなどの情報を入れずに、それらを全て並べて、僕が「直感」で選びました。そして選んだ後、その理由を考えてみるという通常、なかなかないプロセスで作品を選びました。

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ー「あとから理由を考えてみた」とのことですが、何か気づきはありましたか?また、その気づきから考えたことや展示方法で工夫した点はありますか。

僕が直観で感じ、選び、調べた結果と照らし合わせて思ったことを

言葉にして展示物の上に展示しました。

ものを作る時は大抵「コンセプト」というものや「推定ターゲット」という仮説を立てて作っていきますが、集まったものの多くにはそれがありませんでした。

だとしたら、どんなものづくりだったのだろうか・・・・それを今度は僕の立ち位置で書きました。その「言葉」の展示には、表現の手段含め、とても苦労しました。簡単にいうと「詩」を書くような作業でした。

未来のデザインとは、過去の形式にも定義にも当てはまらないデザイン?

ー専門領域とは違うと思いますが、現在建築業界で活躍されている方々のなかでも同じ観点から注目されている方はいますか?

今回の展覧会でもご紹介させていただいた、たねやさんの「ラ・コリーナ 近江八幡」をデザインされた建築家の藤森照信さんやニキシモさんの「アート・ビオトープ水庭」をデザインした、石上純也さんなど、建築家=「住まいを建てる人」という枠組みを超えて、過去の形式にも定義にも当てはまらない自分の考えでデザインをしている方々の活躍が素晴らしいなと思っています。彼らのような人こそ、「未来のデザイン」を先駆けて仕掛けている人たちだと思っています。そして、彼らの活動を見ていると、僕が感じているデザインの変化は、プロダクトデザインの世界だけではなく、さまざまなデザイン業界でも起こっていることなのではないか、と思うのです。

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ー建築業界を含め、さまざまなデザイン業界のクリエーターに伝えたいことはありますか?

ぜひこの展覧会を通じて、今後どのような思考でものづくりをしていくのか、改めて考えるきっかけになってくれればと思っています。 adf-web-magazine-long-life-design-7

今回、展覧会開催期間中に開催されたトークイベントにも参加させていただいた。ゲストは、「アウト・オブ・民藝」という名称で活動を続ける、デザイナー、軸原ヨウスケ氏と美術家、中村裕太氏。

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民藝の周縁を「趣味」として研究しながら、このプロジェクトを進めているというクリエイターの二人が口を揃えて言っていたのは、民藝の周縁の面白さだ。正史から外れた、語られてこなかったものばかりなので常に発見の連続で、驚きがあるということ。参加者から「民藝には未来があるか」という質問がくると、中村さんは、「既存の民藝の価値観に疑問を持ち、正史とされているものを鵜呑みにせずに取り組んでいく姿勢が大切。そして、民藝の世界にそうした姿勢を受け入れる寛容さがあれば未来があると思う」というご自身の考えを述べられていた。中村さん、軸原さんは、世の中の「当たり前」とされている事実をただ鵜呑みにするのではなく、自らの視点で見つめ直すといった姿勢があるからこそ、注目を集めているのではないか、そんなことを感じるイベントだった。

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最後に、トークイベント、ナガオカ氏へのインタビューを通じて、ナガオカ氏のいう「民藝的デザイン」思考とは、染色家の柚木沙弥郎氏が自身のものづくりについて表現するのに使われている、「アナザー・カインド・オブ・アート=過去の形式にも定義にもあてはまらないアート」のように、自分の価値観にまずフォーカスを当て、そこから創造していくというデザイン思考なのではないかと感じた。

 本展は2021年2月22日までとなっているが、今回展示された作品についてやトークイベント登壇者とのエッセイなどが綴られた公式ブックは、D&DEPARTMENT 各店、およびD&DEPARTMENT オンラインショップで購入が可能だ。気になった方はぜひチェックしてほしい。

「LONG LIFE DESIGN 2 祈りのデザイン展 -47都道府県の民藝的な現代デザイン」情報

会期202012 4日(金) - 2021222日(月)
時間12:0020:00(最終入館19:30水曜休
場所d47 MUSEUM03-6427-2301
入場料ドネーション形式(会場受付)
事前申込不要