NFTが加速させるアートとアートマーケットの間のジレンマ

以上に述べたことは主にNFTとアートマーケットについての話であり、NFTとアートについて考えるにはまた少し切り口を変えてみる必要があります。

NFTやクリプトアートはアートマーケットを活性化させ、アートと資本主義の結びつきを今まで以上に際立たせ、デジタルアートを推進していくでしょう。そうなったときにアーティストがそのことをどう捉え、それに対してどう反応していくか、アートシーンにどのような影響を与えるか、またNFTやクリプトアートならでは表現がアートシーンの中の新たな潮流として根付いていくかということがNFTとアートについて考えるということです。

写真の登場やデュシャンの泉に代表されるようなレディメイドの作品の登場など、今までとは異なる形態のアート作品が出てきたりアートに対する価値観の転換期が訪れたりするたびに「アートとは何か?」「価値とは何か?」を問い直す作品がアートの世界では出てきました。今回も今までのアート史の流れを繰り返すようにクリプトアートを用いたりクリプトアートをテーマにしてアートや価値とは何かを問う作品が沢山出てくることが十分考えられます。また、アートと資本主義の結びつきが際立つほど反資本主義的な作品も盛んになっていくのではないでしょうか。

アーティストがアートマーケットに対して抱えるジレンマの一つに「売れる作品」はかならずしも「いい作品」とは限らないということがあります。何をもって「いい作品」とするかは価値基準によって変わってきますが、ここでは「クオリティが高い作品」のことを指します。クオリティには大きく分けて二つの側面があり、一つはビジュアルのインパクトや技術的完成度、もう一つは作品が表現しようとしてるコンセプトやメッセージがどれだけ鑑賞者に伝わるように表現できているかということであり、その二つが高いレベルで実現されている作品を私は「クオリティの高い作品」と呼んでいます。たとえば作品のビジュアルはいいけど作者が説明しているコンセプトとそのビジュアルが合っていない作品や、逆にコンセプトはとても良くて作品の見せ方も鑑賞者に伝わるようによく工夫されているけれど技術がまだ追いついてなくてビジュアルが弱いという作品はクオリティが少し落ちます。作品のクオリティは好き・嫌いという評価とは別軸のものであり、嫌いだけどクオリティはとても高い作品や、好きだけどクオリティが低い作品というものも存在します。そしてクオリティが高い作品ほど売れるのであれば、作家はクオリティの高い作品を制作することにただ集中していれば済むのですが、売れるかどうかとクオリティの高さは残念ながらイコールでは結び付けられません。もちろんクオリティの高い作品の方が高く売れる可能性が上がりますし、一流のギャラリーやオークションハウスで取り扱ってもらうにはそれなりのクオリティの作品を作れることが前提になってくるのは言うまでもありません。しかし中にはお世辞にもクオリティの高い作品とは言えないにもかかわらず、熱狂的なコレクターがいるために高値で取引される作品もあります。アーティストですら「なんでこんな作品にこんな値段が付くのか分からない」という事態が発生するのはそのようなためです。結局のところ、先にも述べたように「売れる作品」とは高値でコレクターに売りつけられそうな作品のことなのです。いくら作家が優れた作品を供給しようとも、その作品に合う需要がなければ作品は売れません。

日本には美術品の売買を行う投資家はまだ少ないのですが、海外では多くの投資家が投資目的で芸術作品を動産として扱っています。なぜなら投資に成功すれば株や為替よりトップアーティストの作品を売買する方が高い利益を出せるからです。STRAYMというアート作品の共同オーナー権(複数の人でお金を出し合って作品を購入し、その作品を購入時より高い金額で転売することで差額分の利益を配当として受け取ることのできる権利)を保有・売買できるマッチングサービスの説明を参考にしたところによると、株価指数の値上がり率が200%未満なのに対し、トップアーティストの作品の値上がり率は400%を越えて500%に達する勢いで伸びています。

投資家はそのような値上がりを期待して作品を売買します。中にはその作家の作品を収集しているコレクターはまだ存在していないにも限らず、いずれコレクターがつくであろうことを予想して無名の作家に投資する人もいます。実際、作品のクオリティや内容に関わらず、億を超える高値のついた作品は話題となり、美術史にも残ることになるので、高価な作品を購入したというステータスを得たいコレクターが作品を購入してくれるようになるのです。

NFTはそういった投資家との相性が良く、作品の内容に関わらず、作品に著名人が所有したというストーリーを付加していくなどの工夫を凝らすことによって無名の作家の作品の値段を吊り上げていくことが可能になります。また、クリプトアートに関してはデジタルデータなので物質的な美術作品のように保管場所を確保して湿度や温度に気をつけながら管理する必要がなく、動産として取り扱うのにこれほど便利なものはないでしょう。

しかし、そうなると作品に付けられる値段は本当にその作品の価値や評価を表していると言えるのでしょうか。そうしてつけられる値段が作品の実態とは乖離した、値上がりを期待する投資家たちの幻想ではないことを否定できるでしょうか。投資家たちがアートマーケットを加熱させるほど、アートはそのあり方に対して疑念やジレンマを深めていくことになります。

アートマーケットの第一線で活躍しているトップアーティストは数多く存在するアーティストの内のほんの一握りであり、大多数のアーティストにとってアートマーケットの動向が直ちに自分の作品内容に反映されるということは少ないのですが、NFTによって生まれるアートマーケットの新たな潮流は大きなうねりとなって世界中のアーティストに無視できない影響を与えていくでしょう。それによって今後のアートシーンがどう変化し、どのような作品が生まれてくるのか目が離せません。

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