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山口文化財団が主催するアートの国際公募展「アートオリンピア」

今回は筆者の山本が「アートオリンピア2024」というコンペにて賞をいただいたため、海外の方に向けて書いている「Renovating and Residing in Affordable Properties in Japan」を一旦お休みして、アートオリンピア 2024の受賞レポートをお届けします。

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アートオリンピア 2024で最優秀賞に選ばれた「Lost Landscape - 駐車場の上にかつてあった3つの建物」

駐車場の形をかたどったアスファルトの上に白線用塗料(ペンキ)で取り壊された建物の以前の姿が描かれた作品。

写真では分からないが、ビームライトスプレー(反射塗料)によって駐車場の線(区画割)も描かれている。

アートオリンピアは山口文化財団が主催する、アーティストの発掘や支援を目的とした隔年開催の平面作品(絵画・写真など)を対象としたコンペであり、今年行われたアートオリンピア 2024は5回目の開催となります。

このコンペの特徴はなんと言っても最高賞金額が1千万円と日本のアートコンペの中では飛び抜けて賞金額が高いことと、公平で透明性の高い審査を行なっていること、そして全応募作品に点数付を行なって順位を通達していることです。

まず一次審査では作品を撮影した写真データを保科豊巳(画家 / 東京藝術大学名誉教授 / アートオリンピア 2024審査員長)、北郷悟(美術家 / 秋田公立美術大学学長)、遠藤彰子(画家 / 武蔵野美術大学名誉教授)、Michael W. Schneider(版画家 / 東京藝術大学准教授)、JACK James(アーティスト / 早稲田大学准教授)の5人が審査を行い、全ての応募作に点数を付けていきます。

通常のコンペでは入選者のみに通達が行われる(落選の場合は何の連絡もない)のが普通であり、画像審査とは言え全ての応募作に点数が付けられて順位付と通知が行われるというのはかなり特殊です。

今回の応募総数は2,100点だったとのことで、その全てに対応する審査員や運営はかなり大変でしょう。

画像審査が行われた2,100点の中から点数の高かった上位80作品には最終審査への出品の可否を問い合わせるメールが送られ、作品を熱海にある山口美術館に搬入もしくは送付すると実物を見て行われる審査に進むことができます。

最終審査には宮田亮平(金工作家 / 東京藝術大学前学長 / 文化庁前長官)、高橋明也(東京都美術館館長)、長谷川祐子(金沢21世紀美術館館長 / 東京藝術大学名誉教授)の3人が更に加わり、合計8名による審査が行われます。

2次審査および最終審査の様子はYouTubeで公開配信されているので、詳しくは配信を見ると分かるかと思いますが、審査の方法は以下の通りです。

1. 入選した80作品を8作品ずつの10のグループに分ける(運営にグループ分けについて聞いたところ、1次審査の点数を参考にしながら1つのグループに似たような作品が固まらないように振り分けているとのこと)。

2. 8人の審査員が実物を見ながら8作品すべてに点数をつける。

3. 点数を機械によって集計し、グループの中で点数の高い1位と2位の作品を選ぶ。

4. 全てのグループの中で最も点数の高かった8作品と、各グループ2位の8作品の中から点数の高い2作品を加えた10作品をもう一度審査し、審査員が10作品の全てに点数を付け直していく。

5. 点数を集計して入賞者を決定。

審査は最初から最後まで一貫して点数制が導入されており、各審査員は誰がどの作品に何点をつけたのか知らされないため、機械による集計が終わるまで審査員も最終的な点数や順位は分からないとのこと。

この一貫した点数制とYouTube配信による公開審査が透明性と公平性の高さを実現しています(通常のコンペでは点数制を部分的に導入していても、最終選考は審査員が密室に集まって協議して受賞者を決めることが多く、その協議の際にいわゆる忖度や派閥的な圧力が発生することがあるそうです)。

また、作者の名前などの情報は全ての点数の集計が終わるまで審査員には知らされていないため、採点は作品のみを見て行われています。

1次の画像審査(実物を見て審査をしてもらえないこと)への不満を持つ人もやはりいるようですが、実物を並べて審査をする場合は小さい作品よりも大きい作品の方がインパクトがあって有利に働く傾向があり、画像審査にはそうした作品の大きさによる有利・不利が起きづらいという利点もあります。

実際、入選した80作品の中には小さいサイズの作品も複数ありました。

ただ最終審査では実物を並べて見比べながら審査が行われるので、やはり小さい作品はやや不利だとも感じます。

アートオリンピアに限った話ではないのですが、この実物を並べて審査を行うというのが中々厄介で、一緒に並べられて比較される作品によって評価が変動して行きます。

8作品ずつ10のグループに分かれて採点していた2次審査の段階では、「Withered Plant」という写真の作品が734点と最も点数が高かったのですが、各グループの最高得点作品と各グループの2位の中の上位2作品を合わせた10作品を並べて行われた最終審査の結果、「Withered Plant」は685点で3位になり、2次審査では686点で4位だった「Lost Landscape - 駐車場の上にかつてあった3つの建物」が709点で1位になりました。

2位に選ばれた「反射する風景(反射することで風景が出現する)」も2次審査で674点だったのが最終審査で686点に変わっています。

また、2次審査の段階では713点で2番目に高い点数だった「春の陽ざし」は4位、663点でAグループ2位だった「甦~HIROSHIMA LIVES~」が5位、670点でGグループ2位だった「あなたとわたし」が6位と、2次審査と最終審査で点数や順位の変動が起きています。

ただ、「表現の新規性」や「表現の内容と素材や手法が合っているか」という点が評価された作品ほど上位に行くといった傾向ははっきりしていたので、並べて比較した時にそうした点が優れて見えた作品に高い点数がついたのでしょう。

また、もう一つの傾向として審査員が一番高い点数を付ける作品は基本的にバラバラなので、審査員が一番高く評価した作品よりも、全ての審査員が共通して高い点数をつけた作品の方が最終的な点数が高くなることが多く、今回の最優秀賞はその典型で、審査員の人たちも「まさかあのアスファルトの作品が1位になったりしないよね?」と思いながら集計と結果発表を待っていたそうです(例外として前回のアートオリンピア 2022で最優秀賞に選ばれた「真っ黒な石が見ていた風景」という作品は、ほぼ全ての審査員が高得点を付けて満場一致で1位に決まりました)。

そして審査員が一番高い点数をつけた作品は審査員特別賞などに選ばれやすいという傾向もあるようなので、どの審査員がどのような作品を高く評価しているかは審査員特別賞を見るとヒントになるでしょう。

運営の方からは「Lost Lanscape - 駐車場の上にかつてあった3つの建物」という作品の内容をわかりやすく補足するようなタイトルが付けられていたことも良い点だったとのコメントがありました。

アートオリンピアの1次画像審査では作品の内容やコンセプトの説明を行う項目がないため、ある程度説明が必要な作品を提出する場合はタイトルに説明的な副題を付けるという手段しかありません。

80作品の中に入選すると150字~200字ほどの説明を付け加えることができますが、詳しい解説まではできないため、しっかりとした説明が必要な複雑で分かりづらいコンセプトや技法の作品もやや不利だと言えます(ただし、3位に選ばれた「Withered Plant」は電子走査顕微鏡を用いて極小な植物をかなり専門的な技法で撮影した作品であり、6位に選ばれた「あなたとわたし」もステンレス板の上にとても薄い和紙を貼り付けて墨で描いた作品で、どちらもひと目見ただけではどのような技法で作られたものか分からず、技法について正確に理解するには詳しい説明が必要な作品なのですが、それでも上位に入賞しています)。

その他、運営に色々お聞きしたところによると、1次審査では画像の解像度が悪かったり写真のピントがちゃんと合っていなかったりして画像を拡大しても細部がよくわからない作品や、ライティングや撮影環境に問題がある画像(余計なものが写り込んでいるなど)も多かったとのこと。

そうした画像の問題で点数が低くなるのはもったいないので、作品撮影が苦手な人は写真家にお願いするなどして作品の細部や質感がちゃんと伝わるように撮影された画像を用意するだけで評価が大きく変わる可能性があります。

また、入選した作品は仮縁やアクリル板などで作品を保護して送る必要があるのですが、仮縁が作品に合っていなかったり、手作りで間に合わせて荒さが目立ったりすると少なからず作品を阻害してしまうので、そうした点ももったいないところです。

次回のアートオリンピアに応募する人はそうした点も留意すると良いかと思います。

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起雲閣での展示の様子

入賞および入選した80作品は2024年6月27日から7月1日のあいだ熱海市にある起雲閣で展示された後、入賞作品の一部は起雲閣の近くにある熱海山口美術館のアートオリンピアのコーナーに所蔵され、いままでの受賞作品を実際に見て確認することができます。