6か月を振り返る
2026年1月末の出勤をもって6か月間のBIG(Bjarke Ingels Group)でのインターンを終えた。そしてこのADFマガジンでは、過去二回にわたってインターンに関しての記事を書いてきた。 「虎の威を借る狐」という言葉があるように、BIGの威を借りてインプレッションを得る方針は一旦この記事をもって終わりにしようと思う。
過去二回の記事の一つ目は、BIGの組織的な側面。二つ目はBIGのインターンに参加するまでのプロセス。そして今回はBIGのインターンの所感を振り返る。
これまでは、自分がもし、もう少し下の世代の学生だったら知りたいだろうなという内容を書くように務めたつもりであるが、今回はそれを無視して私の個人的な内容を示すことになる。
BIGで働くということ
インターンといえども、BIGでは即戦力として主にSD(Schematic Design)段階でアーキテクトと一緒に働く。私は6か月で6個のプロジェクトにアサインされたが、タスクは
- プランのスタディ
- ファサードのモデリングスタディ
- ダイアグラム
- コンペ提出用断面図
- 展覧会用のドローイング
- 模型作成
- アップデート資料用レンダリング
- Grasshopperのスクリプト作成
など。
様々なソフトウェアを駆使してスピーディにそして正確に、モデリング、グラフィック、フィジカルモデル、スクリプトを作成する能力が求められた。
世界トップの建築事務所のレベルと、働き方を体験的に知ることができたのは一番の収穫だ。また、人生で一度も泊まった事もないようなラグジュアリーなホテルや、BIGでは珍しい小規模なリノベーション、先日オープンした展覧会のドローイング作成、美術館のコンペなど、多様なプロジェクトに配属されたのも良かった。
仕事以外でも、BIGのコペンハーゲンオフィスは和気あいあいとした雰囲気で、労働環境も良く、働いていてとても楽しかった。特にクリスマスシーズンになると、オフィスに大きなクリスマスツリーが飾られ、社員の子供を招いたイベントが開かれたり、社員みんながコスプレして参加するクリスマスディナーとパーティーにも参加できた。
また退職する際は、希望すればオフィス内でお世話になったチームメンバーを集めてGoodbye Gatheringが開かれる。その際は必ず一人一人デザインの違うオリジナルのTシャツをプレゼントしてもらえる。
ビャルケは月に1、2回ほど、取材やミーティングのタイミングで突然オフィスに現れる。彼は全社員のボスであるが、オフィスに悪い緊張感が走ることはなく、全員がちらっと彼をみて、「今日はいるんだなー」というような感じだ。
私の出勤最終日も運よくビャルケがオフィスにおり、少しだけ話すことができた。6ヵ月の間に数回、ミーティングや社内イベントで近くにいたことがあったが、一対一で話すことはほぼなかったので最後に喋れたのは幸運なことだった。私が作った1/20サイズの模型を覚えてくれていて、「あれはkillerだったね」と言ってくれた。
コミュニケーション
BIGでのコミュニケーションはすべて英語で行われる。これまでに海外居住経験もなく、一般的な日本の英語教育を受けてきた私には、英語でのコミュニケーションが常に課題であった。特に最初の二か月くらいまでは指示の聞き間違えなどから、ミスが多かったり、求められるレベルのパフォーマンスが出来ていなかったように思う。英語能力の自信の無さから萎縮してしまったり、余計なストレスを感じていた。
最初にアサインされたプロジェクトでは台湾出身のAssociate がPM(Project Manager)を担当しており、度々迷惑をかけ、申し訳ないなと感じながらも、「このオフィスにネイティブの人は殆どいないから、気にすることはないよ。keep talking」と励ましてくれた。最後に1ヶ月ほどアサインされたプロジェクトでは、私の英語力もそれなりに向上しており、段々とPMからの指示の量が増えていく度に、信頼されてきている事を実感した。Grasshopperのスキルも「Very proficient」と言ってくれた。
Associateのさらに上の役職であるPartnerたちとは、コミュニケーションをとる機会は少ないが、個性的な人たちばかりだった。彼らが持っているBIGのデザイン思想をもとに、ミーティングの度に的確な指摘をくれる。
年齢の近い20代後半くらいのJunior Architect達は、より親身にBIGでの働き方を教えてくれた。時には遅くまで一緒に残業することもあり、インターンと最も距離が近い存在である。
なれない環境で働く上で、一番支えになったのは、同じインターンの友達だ。同時に入ったインターンは私含めて14人程。少し遅れて入った人や、既に6か月以上働いている人も含めるとその倍以上の人数になる。毎日ランチの時に近況を話したり、仕事終わりにバーに飲みに行ったり。オフィスもインターン同士の交流を促すように小さなイベントを作ってくれていたので、親しい間柄になることができた。彼らと頻繁に話すことで私の英語力も向上したように思う。
ピースフルなオフィスの雰囲気は社員同士が積極的にコミュニケーションをとる文化から醸成されていると感じた。全員がトップレベルのスキルを持っていて、尊敬できる人たちばかりのこの会社は、かけがえのない環境だ。
建築観
インターンを通して、BIGのデザインから何か自分のスタイルとして吸収できるものはないかと考えながら仕事をしていた。
BIGに限らず、近年の傾向として言えるのが、ランドスケープと建築の形態的な融合である。特に大きな敷地面積をもつプロジェクトにおいてこの傾向がみられる。ランドスケープがシームレスにスラブとして延びてゆき、その下に空間を作る。マッシブな劇場空間が必須なオペラハウスや、公共性が高くデザイン性が求められる美術館などでみられる。BIGが掲げるLEAP (Landscape, Engineering, Architecture, Planning, Product)というシステムにも同等に含まれているように、建築の設計において外部のランドスケープとの形態的、空間的な融合が重要であると思っている。
また建築のデザインは使っているツールに大きく依存することも改めて強く感じた。BIGの作品は基本的にRhinocerosのNURBSモデリングとGrasshopperのパラメトリックデザインを有効に活用した産物である。NURBS特有のControl Pointで制御された曲線や、Booleanコマンドを使ったような幾何形態の足し算・引き算、キネティックな形態表現。Grasshopperのロジックに裏付けされたレゴブロックのようなユニットの反復と、そのトポロジカルな変形。ホテルやレジデンスなどのグレードによって決まった客室平面が無数に充填される建築タイプに特に有用である。
Frank Gehryのフィジカル模型、Zaha HadidのMeshモデリング、BIGのNURBS, Parametricモデリング。ツールに依存するという事実は、反面そのツールがポピュラーになることで、独自性が失われていくことも意味する。
つまり重要なのは、何を設計思想にしているのかである。プログラムから解くかガワから解くか。比喩的・引用的であるか強い作家性なのか。抽象的表現か具体的表現か。デザインのスタイルは様々な要素で規定される事を学んだ。まだまだ咀嚼しきれていない事が多く、今後も手を動かしながら考えていく事になると思う。
最後に
インターンが終ってから、色々な人に「どうだった?楽しかった?」と聞かれる。「どうだった?」という質問に対しては、色々ありすぎて一言では表せないと返答する他ない。「楽しかった?」に対しては、単純に「楽しかったです」とは答えられない位の大変さがあった。でも全てが自分にとってポジティブな経験だったとは言いきれる。
インターンの1か月目を思い出せば、英語も拙い、フルタイムで半年働いた経験も、外国に住んだ経験もない。まるで何も知らない赤ちゃんに戻ってしまった様な感覚だった。インターンが終わって現在の自分を主観的に見ると、自力でつかまり立ちが出来るぐらいには成長できたかなと思う。
まだ次のステップが何になるのかは分からないが、成長の余地が沢山ある海外にもう一度チャレンジする必要があると思っている。

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