濃密かつ透明感、虚と実が混在する時空をこえた遥かな世界
小山登美夫ギャラリー前橋で、柏原由佳展「Pile of Signs – しるし、徴」が2024年3月20日から4月28日まで開催される。青、ピンク、グリーン、茶色など濃密かつ透明感ある色を重ね、大胆なタッチで大地の根源的なエネルギーを鮮やかな感覚で映しだす柏原作品には、虚と実が混在する時空をこえた遥かな世界が表われている。
柏原が国内外の原生林を訪れた時の感動や長く住んだドイツでの経験、様々な風景からのインスピレーションが作家自身の記憶と紡ぎ合わされ、いつどこのものかわからないような森や湖、山、洞窟、地層などが心象風景として描かれてきた。中でも湖は大事なモチーフであり、茨木のり子の詩「人間は誰でも心の底にしいんと静かな湖をもつべきなのだ」という一節に感化され、自身の中にも湖をもち、理想の湖を持ち続けたいと語る。作品に広がる人間も動物もいない一見静寂な世界。しかしその大地の奥にはマグマがひそみ、宇宙までつながっているような異次元を垣間見たような不思議なざわめきを感じさせる。それは画面に自身の視点と他者から見えるかもしれない視点、内と外から俯瞰したような多視点で描かれている。試行錯誤を繰り返し、翌日には絵が一変するなどイメージの上に新しいイメージが加わることで、画面の変化と時の重なりが独特の力強さと静かな混沌さを生み出しているといえる。
美術評論家、東京大学名誉教授の高階秀爾は、柏原作品に関して「これらの作品を前にする時、われわれは一人の優れた画家の世界創造の物語に立ち会っているのである」と評している。
(高階秀爾「柏原由佳の世界創造物語」、「最初の島再後の山」個展カタログ、大原美術館、2016年)
沼田の河岸段丘の時間の蓄積の輝き、無意識を可視化する新たな挑戦
小さい頃、形ある古いものに憧れていて、叔父の機械式の一眼レフやアルコールランプ、
おじいちゃんの革靴とかをずっと眺めているような子供だった。
誕生日にはいつも恐竜図鑑や妖怪図鑑を買って貰い、いたかもしれないその時代や景色を想像しながら、絵を描いた。
ドイツに渡り、蚤の市では何百年も昔の人が書いたポストカードを集めては、
その人の文字や切手、書かれた時代を想いながら、家で眺めるのが好きだった。
いたかもしれないその時間の形跡、蓄積や層、曖昧なもの、不確かなもの、
そういうものに何度も思いを馳せながら絵を描くことは、その時間の中に光を見つけるようなこと。柏原由佳
新作を制作するにあたり、柏原は本開催地の群馬に赴き、沼田の河岸段丘を訪れる。その独特な地層がまるで時間の蓄積を可視化し、1月の雪が残る青空の中で浮かぶように輝いていたという。その目で見た風景と脳裏に浮かんだイメージを作品「River Terrace」に混在させ表現をした。また、「Urzeit」 (原始の時)はブルネオ島のコタキナバルで4200mのキナバル山に登った体験をもとにされている。鬱蒼としたジャングルの中の光や瑞々しさを見事にとらえ、実際の風景をもとにしつつも、より抽象化された作品の新しい方向性を示している。柏原作品は普段生活していて忘れがちな自分は大いなる自然宇宙に包まれている存在だという悠遠な感覚を呼び起こす。
柏原由佳個展「Pile of Signs – しるし、徴」開催概要
会期 | 2024年3月20日から4月28日まで |
場所 | 小山登美夫ギャラリー前橋 |
URL | https://tinyurl.com/53nz6dsj |