丁寧に描かれた季節の草花や柔らかな風、象徴的な動物たちの姿
MAHO KUBOTA GALLERYで3回目となるAtsushi Kaga(加賀温)の個展が2024年4月18日から6月1日まで開催される。本展では過去のKagaの個展とは異なり、それぞれの絵画はギャラリーの壁に掛けられることはなく、複数のキャンバスは室内空間を構成する要素として組み立てられひとつの絵画的な世界を創りだす。
このインスターレーションのような構想は京都・相国寺の承天閣美術館に常設されている伊藤若冲の障壁画「葡萄小禽図床貼付」にインスピレーションを得たもの。若冲のこの作品が、違い棚を含むひとつの壁にまるでインスタレーション・アートを構成するかのように描かれていることに着目し、同様に絵画を建築的要素として配置する今回の展示を計画した。同時にこの障壁画が本来低い目線で鑑賞されていたであろうという観点から、本展の新作では絵画の重心が西欧絵画のそれより低くなるよう6枚のキャンバス上の要素の強弱や配置を調整している。この低い目線の位置はKagaが「小津目線」と呼んでいるもので、小津安二郎監督の独特のカメラワークを意識したものであると説明している。日本の伝統的な生活様式の中で自然に生まれた目線であり、現代の日本に置いて徐々に失われつつある様式美のひとつでもある。
(今回の試みのひとつは)鑑賞者の目線を下げることでリビングスペースと共にあるアート作品を作ることです。そのことにより、自分の作品が、西洋絵画の歴史の軸から外れ、日本絵画の歴史の観点から鑑賞されると思ったからです。白い壁にかけられた絵とはまた違った鑑賞経験が、身体的感覚的にまた知的体験として生まれればいいなと思っています。
Atsushi Kaga
絵画全体に視線を向けると春から夏にかけての伸びやかな風景の中にいくつものエレメンツがゆるやかに配置されており、ひとつひとつ丁寧に描かれた季節の草花や柔らかな風の表現、象徴的な動物たちの姿に心を奪われる。左のキャンバス二枚には洋金箔が施され光溢れる春の光景の中、ふと空を仰ぐように黒猫と狐の姿が描かれる。真ん中の2枚のキャンバスでは中空に浮かぶ猫たちが空間を繋ぎ、椿は咲き誇り、左のキャンバスには闇夜の漆黒を背景に二頭の鹿が鳴く様子が描かれ、近年のKagaの作品に何度も登場するミステリアスな狐が再び現れ、夜の帳へと姿を消してゆく。動物たちの仰ぎ見る視線の先には終わりのない世界の広がりが感じられ、そのほぼ中央に位置する、"deadpan(無表情)"のウサギのキャラクター「うさっち」は、地面に低く座ったまま花鳥風月の色合いに心を傾けながら移ろう世界の行方を静かに見守っているかのよう。伸びやかで豊かな絵画世界が普遍性を持って立ち現れる中、親密さや悲しみを含んだ繊細な物語がいくつかの神秘的な象徴を通して静かに語られてゆく。
本展のタイトルの「眠っている猫に触っているとあなたがそこにいるのがわかるような気がするのです。」は、今その手で触れている猫の温もりと、今は触れることのできない「あなた」の存在を想像させる密やかな謎かけのようにも聞こえてくる。
「Atsushi Kaga個展」開催概要
会期 | 2024年4月18日から6月1日まで |
場所 | MAHO KUBOTA GALLERY |
URL | https://tinyurl.com/2u9rstwv |