ゴッホの遺した足跡と引き継がれていく情熱
「ゴッホ・インパクト─生成する情熱」がポーラ美術館で2025年5月31日(土)から11月30日(日)まで開催される。国内有数のゴッホ・コレクションを誇るポーラ美術館での、開館以来初のゴッホをテーマとした展覧会となっている。
わずか37年の生涯のなかで、数多くの絵画を制作したゴッホ。日本においても明治末期以降、個性と情熱にあふれたゴッホの作品や芸術に一生を捧げたその生き方は、美術に関わる者たちの心を揺さぶるだけではなく、文化、そして社会といった広範な領域にインパクトを与えてきた。ゴッホの影響を受けた芸術家はそれぞれの時代において新たな情熱をどのように作品へ投影してきたのか。本展ではこの歴史を振り返るとともに、現代におけるゴッホの価値について検証していく。
主な展示作品
オランダ
オランダで牧師の父のもとに生まれたゴッホは、伝道師という聖職に就くという夢を諦めたのち、画家の道を志した。暗い色調で占められたこの時代の作品において際立っているのが、「労働」の主題。敬虔の念を込めて農民たちの姿を描き出した画家であるミレーのように、労働に従事しながら日々の生活を営む農民たちを取り上げたゴッホは、厳しい現実を前にした彼らに対する共感をありのままに表現した。
パリ
パリで画商として活躍していた弟であるテオのもとにゴッホがやってきたのは、1886年のこと。この年には最後の印象派展となった第8回展が開催されており、点描技法を駆使したスーラやシニャックの作品が話題を呼んでいた。芸術の都で印象派や新印象派といった新しい絵画の潮流に身を投じたゴッホは、最新の技法による実験に明け暮れ、色彩にあふれた作品の数々を制作。画家にひときわ影響を与えた日本の浮世絵に慣れ親しんだのも、この都市においてのことだった。
アルル
1888年、陽光と色彩にあふれる南仏のアルルに到着したゴッホは、自らがユートピアとみなしたこの土地で、精力的に絵画制作に励んだ。この地で制作された《ヴィゲラ運河にかかるグレーズ橋》では、画面の大半を占める空と運河の青に対して橋と土手には部分的に黄色が、土手に生い茂る草や橋上の低木林の緑のなかにはアクセントとして赤が置かれている。ゴッホは、自らの得意とした補色の効果を確かめようとしていた。「耳切り事件」ののちにゴーガンとの共同生活が破綻すると、ゴッホは失意のなかでアルルを去った。
サン=レミ
たび重なる精神の不調から、ゴッホは南仏のサン=レミにあるサン=ポール・ド・モーゾール療養院に入院。何週間ものあいだこの敷地のなかに留まらなければならなかったゴッホは、いくども発作を起こしながらも、病状が落ち着いた際には療養院の庭での戸外制作に取り組んでいた。様々な諧調の緑を用いて描かれた《草むら》はこの庭で描かれた作品であり、範囲を限定して庭の一角を取り上げることで、色彩の効果や草むらそのものの存在感が高められている。
オーヴェール=シュル=オワーズ
1890年にゴッホがオーヴェール=シュル=オワーズに移り住んだのは、精神科医であるガシェによる治療を受けるためだった。ゴッホが亡くなるおよそ1ヵ月前に制作されたのが《アザミの花》。画面の中心にはあざやかなアザミの丸い花が配されており、ここからアザミの鋸歯(のこぎりば)状の葉や麦の穂が、放射状の広がりを見せている。花瓶には同心円状に、そして背景には縦横に交差するかたちで、ゴッホ特有の細長い筆触が施されており、その描写は活力に満ち溢れている。ゴッホはオーヴェールの地で、自らの胸にピストルを発砲し、その2日後である7月29日に亡くなった。
岸田劉生
前田寛治
中村彝
森村泰昌
福田美蘭
桑久保徹
フィオナ・タン
「ゴッホ・インパクト─生成する情熱」開催概要
会期 | 2025年5月31日(土)~11月30日(日) |
時間 | 9:00~17:00 |
会場 | ポーラ美術館 |
料金 | 大人2,200円(シニア含む)、大学・高校生1,700円、中学生以下無料 |
URL | https://tinyurl.com/34k7y44z |