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「共鳴」がテーマ

大阪・関西万博において、テーマ事業「いのちを響き合わせる」を担当する宮田裕章プロデューサー(慶應義塾大学医学部教授)が手がけるシグネチャーパビリオン「Better Co-Being」の全貌が明らかになった。

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シグネチャーパビリオン「Better Co-Being」は、「共鳴」をテーマに、屋根も壁もなく「静けさの森」と一体となって佇むパビリオン。「共鳴」とは、人々の感性が共有され響き合うことを指し、本展では、その日その時に集まった来場者同士がつながり、響き合う中でともに未来を描く体験の提供を目指している。それぞれの体験は「共鳴」をテーマにした3つのアート体験(シークエンス)とエピローグで構成されており、デジタル技術を駆使した2つのキーマテリアル、WEBアプリとふしぎな石ころ「echorb (エコーブ)」を活用しながらアート体験をする仕掛けになっている。

建築はSANAAが手がけ、3つのアート体験は「人と人との共鳴」「人と世界の共鳴」「人と未来の共鳴」の3つのテーマから構成されている。「人と人との共鳴」では、塩田千春『言葉の丘』、「人と世界の共鳴」では宮島達男『Counter Voice Network - Expo 2025』、「人と未来の共鳴」では、宮田裕章『共鳴の空』、 宮田裕章 with EiM『最大多様の最大幸福』の2つの作品を体験できる。共同キュレーターは長谷川祐子。

屋根も壁もない、空を際立たせる建築

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SANAAが設計したパビリオンは、周囲を森にかこまれた空間の中で、森と溶け合うように佇む。この建築には天井や壁はなく、高さ11mに四層からなるシルバーのグリッド状のキャノピーが敷地を覆い、地上部にはそれを支える細い柱のみが配置されている。繊細に設計された柱と接合部により、キャノピーは雲のように浮かんで見え、より空の存在を際立たせる。SANAAのデザインしたキャノピーを通して見る空は、いつもの空とは違う表情を見せ、多様な未来を感じながらともに歩むという点において、Better Co-Beingの中核をなす体験であると言える。

SANAA

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2004年ヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展 金獅子賞、2010年プリツカー賞など数多くの賞を受賞。主な作品に、金沢 21 世紀美術館、ニューミュージアム(アメリカ)、Rolex ラーニングセンター(スイス)、ルーヴル・ランス(フランス)、グレイス・ファームズ(アメリカ)、荘銀タクト鶴岡 、日立市新庁舎 、ボッコーニ大学新キャンパス(イタリア)、ラ・サマリテーヌ(フランス)、シドニー・モダン・プロジェクト(オーストラリア)など。

3つの共鳴体験(シークエンス)とエピローグ

シークエンス1「人と人との共鳴」:塩田千春『言葉の丘』

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シークエンス1では「人と人との共鳴」をテーマに、自己と他者を見つめ、「何を通してつながるか」を再認識する体験を創出。『言葉の丘』は入口からパビリオン内の小高い丘を登ったところに現れる、赤い糸と多言語の文字、線で形作られた机と椅子で構成された作品。文字は7言語から構成され、それぞれ万博のテーマウィーク事業の7つのテーマにリンクしたメッセージが配置されている。線で作られた椅子や机は、誰も座らないまま人の存在を暗示する。この構造が、ふだんは意識されにくい目に見えないつながりを示唆し、異なる文化が対話する場を創出している。来場者は、赤い糸でつながった“ことば”のかけらから、自分自身の感情や大切にしているもの、そして未来に向かう意志などを見つけ、改めて問い直す機会を得ることができる。

塩田千春

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1972年、大阪府生まれ。ベルリン在住。生と死という人間の根源的な問題に向き合い、「生きることとは何か」、「存在とは何か」を探求しつつ、その場所やものに宿る記憶といった不在の中の存在を糸で紡ぐ大規模なインスタレーションを中心に、立体、写真、映像など多様な手法を用いた作品を制作。2008年、芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。2015年には、第56回ヴェネツィア・ビエンナーレ国際美術展日本館代表に選ばれる。2019年、森美術館にて過去最大規模の個展『魂がふるえる』を開催。2020年、第61回毎日芸術賞受賞。

シークエンス2「人と世界の共鳴」:宮島達男『Counter Voice Network - Expo 2025』

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シークエンス2では、「人と世界の共鳴」をテーマに、各地域で培われてきた自然や文化、そこに根ざす人々の暮らしと響き合う視点を提示。 『Counter Voice Network - Expo 2025』は丘からなだらかなスロープを降りていくにつれて展開される、音声を軸にしたインスタレーション作品。この空間では、スロープの両脇に配置された30個のスピーカーから、45カ国もの様々な言語(日本語だけでなく英語、フランス語、マレー語など)を用いて、異なるリズムで「9、8、7……、1」というカウントダウンが次々と鳴り響く。重要なのは「0」を発しないという点で、カウントダウンの合間に静寂が訪れるその刹那が、“死”や“無”を想起させる。ふしぎな石ころ「echorb (エコーブ)」を持ち音の発生源に近づくと、カウントダウンを続ける人々の名前と言語が表示され、また、関連するモチーフストーリーがWEBアプリ上に立ち上がる。声だけでつくられた空間は、言葉を介して他者の心を垣間見ると同時に、生命や時間の多様性と包括性を体感させる仕掛けになっている。

宮島達男

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1988 年 ヴェネツィア・ビエンナーレ新人部門に招待され、デジタル数字を用いた作品で国際的に注目を集める。以来、国内外で数多くの展覧会を開催し、世界30 カ国300 カ所以上で作品を発表している。1990 年ACC の招きでニューヨーク滞在。1993 年 カルティエ現代美術財団の招きでパリ滞在。代表作に「メガ・デス」(1999/2016) など。被爆した柿の木2 世を世界の子どもたちに育ててもらうアート、「時の蘇生」柿の木プロジェクト(1995~)、東日本大震災の犠牲者の鎮魂と震災の記憶の継承、東北の未来をつくることをめざす。「時の海-東北」プロジェクトも推進している。

シークエンス3「人と未来の共鳴」:宮田裕章『共鳴の空』、 宮田裕章 with EiM『最大多様の最大幸福』

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シークエンス3は「人と未来の共鳴」をテーマに、来場者同士がつながり、ともに世界に向き合うことで、より良い未来を描くことを目指す。 『共鳴の空』は、キャノピー下に人工の雨を降らせ、自然要素と来場者の動きが交じり合うことで、予期せぬ虹を生み出す試み。虹が立ち現れるかどうかは一定の不確定性をはらんでおり、ふと虹が姿を現す瞬間には、予期しなかった景色が共有され、思いがけない体験が広がる。静かな森の中、壁も天井も持たないパビリオンの下で、虹を見ながら空を見上げるとき、人々は自然・世界・互いの存在と新たな関係を結び、“共鳴”を通じた未来創造の可能性を感じ取ることができる。

 『最大多様の最大幸福』は本シグネチャーのプロデューサーを務める宮田裕章と各分野のスペシャリストによるクリエイティブチームEiM(エイム)が担当。高さ7mのキャノピーに沿って約400本の繊細なワイヤーが張られ、それぞれにサンキャッチャーが取り付けられている。一つとして同じ並びがないこの“不均質の集合”は、多様性の祝福を象徴している。晴れた日には自然光を浴びて虹色の輝きが広がり、曇天や雨の日には霧と人工光のコントラストが幻想的な光景をつくり出す。

クリエイティブチームEiM

本事業のプロデューサーを務めるデータサイエンティストの宮⽥裕章と、写真家・映画監督の蜷川実花、クリエイティブディレクターの桑名功、照明監督の上野甲子朗、音楽監督の剣持学人らで結成されたクリエイティブチーム。プロジェクトごとに多様なチームを編成しながら活動する。

エピローグ

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このセクションは宮田裕章と真鍋大度らが担当。球体LEDの装置が中心に据えられ、15名の来場者がそれぞれの体験やインスピレーションをふしぎな石ころ「echorb(エコーブ)」やWEBアプリを通じて持ち寄ることで、未来のイメージが動的かつ有機的に可視化される。WEBアプリ上で選択した7つの万博テーマや、気になる作品、「echorb(エコーブ)」によって収集された来場者の心拍数や位置情報、さらにリアルタイムで収集される気象データや空間そのものの特性とも結びつき、それらの掛け合わせによって、その日その時その人々でしか見ることができない唯一無二の映像になる。