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ビジネスやテクノロジー、デザインに影響を及ぼす7つのトレンド
アクセンチュア・インタラクティブにおいて、デザイン&イノベーションを手掛けるFjord は毎年、世界33カ所のスタジオで働く1,200人のネットワークを駆使し、この先1年のトレンドレポートをリリース。2019年には日本やラテンアメリカに新たにスタジオを立ち上げた。2020年度のトレンドは世界中のネットワークが密接に繋がって見出したものであり、また、今後の情勢や将来の見通しについて包括的に伝える。
経済と政治、資本主義と資源、テクノロジーと社会は長きにわたって密接に関連し合ってきたが、皮肉にも、その結びつきを助長させたテクノロジーそのものによって、複雑な絡み合いがもたらした現在の状況は社会的に大きな関心を集めている。
現状に対して巨大テクノロジー企業が膨大な権力を持っていると考えられている一方で、誰が取り組みを主導すべきかは曖昧になっており、テクノロジー業界と政府間の衝突に多くの人々が懸念を抱いている。
2020年のメタトレンドは、まさに「原理原則」の大規模な再考となる。一見、後ろ向きだと思われるかもしれないが、むしろ、新しい価値の定義に基づいてビジネスモデル、サービス、製品を革新するまたとない機会が今ここにあると、考えている。
どのような方向に変化が起ころうとも、ひとつ言い切れることがあるとすれば、この世界や社会における自らの存在意義を明確にし、世界を取り巻く構造の複雑さを受け入れながらも、長期的な視野を持って、社会にもたらす影響に拘る企業こそが勝ち残る。未来のビジネスデザイン、テクノロジーデザインのメタトレンドと7つのトレンドは下記の通り。
メタトレンド 原理原則の再考
社会的価値観の変化、気候変動、天然資源の枯渇、政治・経済不安などに揺さぶられ、人々は自らにとってだけではなく、社会や環境にも責任を持った製品やサービスを求めてる。一方で、テクノロジーは引き続き変化をもたらす。テクノロジーによって金の形は変化し、我々の体はそれ自体で自分自身を証明する一種の署名としての役割を持つようになり、仮想分身が作られるようになった。
これらの変化が人々やビジネスに意味するところを端的に表したのが「原理原則の再考」。新しい価値の定義に基づいてビジネスモデル、サービス、製品を革新するまたとない機会が今ここにあると考えられる。
金銭的利益は成功の唯一の判断基準ではなくなる。この「原理原則」の見直しはまた、スタートアップ企業だけでなく、従来型のビジネスを行う伝統的な企業も協力し、産業全体での象徴的な革新を引き起こす可能性もある。このメタトレンドを受け入れる勇気のある企業は、超えるべき壁もあるが、それ以上に多くの好機を得る可能性がある。また、様々な市場においてそれぞれのペースで変化が起こるにつれて、際限の無い消費は嫌厭され、バランスと保護が求められることが予想される。最終的には、常に変化を続ける気候、社会、そして世界に自らが与える影響について考え続けるビジネスが勝ち残る。
Trend01. 新たな成長の公式
過去数十年もの間、企業の目的は、ただひとつ、財務的成長であり、それも速ければ速いほど良いとされてきた。しかし今日、人々は、環境、社会、政治的スタンスなど、金銭面以外の尺度でも企業を評価するよう迫っている。この動きを、利潤追求へのバッシングと単純に捉えることもできますが、そうではない。これは、私たちの「生活の質(QOL)」を高めるような成長を新たに定義しようという前向きな呼びかけ。
「新たな成長の公式」は、長年にわたり培われてきた「成長のためにはいかなるコストも許容される」という考えを再検討するトレンド。企業が永続的に存続するために金銭的利益も引き続き考慮しつつ、新たな目標も両立して追求するにはどうすれば良いか?この難解な問いの答えが見つかれば、新たな成長の公式は、私たちが社会に新しい価値を創出する画期的な機会をもたらす可能性がある。
投資家、顧客、従業員は、企業に対して、社会的価値観の変化、気候変動、天然資源の枯渇、政治・経済不安などに対応するよう迫っている。その結果、事業成功の指標と経済モデルは当然進化し、株主は企業に対して環境的で社会的な企業活動をますます要求することとなる。変化に備えるため、企業は従業員のスキルをあらゆるレベルで底上げする必要がある。
Trend02. マネー・チェンジャー
テクノロジーの飛躍的な進歩により、お金の概念や形態が変わり、私たちのお金にまつわる体験が変化している。今やお金はデジタルの力によって、目に見えない取引のエコシステムへと進化しつつある。この根本的な変化によって、単に物を買う以上のことがお金でできるようになり、多くの新製品やサービスの機会が開かれている。この進化の中でお金は、その貨幣価値以外の情報も伝え、国家通貨だけでなく様々な形態の価値を意味することになる。
人々は今や、指紋や顔、網膜を使って支払うことができ、世界のキャッシュレス化が進んでいる。いずれ、お金そのものに私たちの個人情報やデータが組み込まれ、シームレスな決済を可能にする。個人にパーソナライズされた決済の可能性は無限にある。
例えば、お金そのものに組み込まれた「学生である」という情報で、会計時に学生割引が自動的に適用されることを想像してみれば、このような変化が、お金に単に物を買う以上のこと可能にし、新しい製品やサービスの機会を生み出す。
「マネー・チェンジャー」は、お金との関係がどのように変化するかというトレンド。変化が進むにつれて、私たちは従来とは異なるタイプの金融企業が運用する新たな取引のエコシステムを体験する可能性がある。目に見えないところで処理される決済システムが現れ、お金との繋がりやお金への感覚はより曖昧なものになっていく。これらの変化は、金融取引に関わるあらゆる個人や組織に深く影響を及ぼす可能性がある。
このトレンドはビジネスにとって、企業が自社の提供する決済体験を見直し、体験そのものを差別化ポイントにする必要があることを意味する。また、プライバシー、透明性、完全性などの懸念にきちんと応えながら、顧客の期待を超える製品とサービスをデザインすることが求められる。
Trend03. 歩くバーコード
顔認識やボディ・ランゲージでの認識が広がり、オンライン上に留まらず、現実世界においても行く場所全てにフィジカルなクッキーを残している。生体認証や5Gのテクノロジーの進化がこれに加わり、身体的な特徴を機械がより正確にまるでバーコードのように読み取れるようになるにつれ、企業・ブランドはかつてないほどパーソナライズされた製品やサービスをデザインするようになるだろう。
「歩くバーコード」は、物理的な私たちの身体とデジタル上で読み取られる身体がさらに融合を進め、我々の身体自体が署名のようになるトレンド。それはまた、洗練され、状況に応じて文脈を意識しながら柔軟に変化する「リビングサービス」が、いかにしてデジタルの世界から現実世界にシームレスに実現するかということでもある。フィジカルな環境においても個人にパーソナライズした体験を提供することが当たり前になる。
新しい製品やサービスをデザインする時、プライバシーやセキュリティは何より最優先されなければならない。機械に情報を引き渡す全ての人々が、スキャン、トランザクション、同意がいつ行われたか分かるよう、見えないものを可視化する必要がある。また、欧州連合のGDPR(一般データ保護規則)などのプライバシー法規に沿いながらも、人々が自身のためにパーソナライズされた体験のキュレーターになれるようなプラットフォームを構築することで、目に見えないデータの受け渡しを価値のある人間らしい瞬間にデザインすることができます。このように責任を持って活用されれば、5Gや顔認証、その他の生体認証は素晴らしい機会をもたらし、人体とインターネットがつながるInternet of BodiesがInternet of Things(IoT)と同じくらい当たり前になるだろう。
Trend04. 流動的な人々
「新たな成長の公式」の中で、社会的価値の変化と人々からのプレッシャーを受けて、狭義の財務的成長ばかりに目を向けてきた企業は再考すべきタイミングにあることが指摘された。「流動的な人々」は同じコインの裏側を指している。それは人々が、自分自身や日々の暮らし、自分たちを取り巻いている世界への影響について改めて見つめ直しているという意味である。そこでは、気候変動や持続可能性、メンタルヘルスといった課題がより認識され、それらが自分たちの生活、仕事や消費をどのように変えるかが考慮されている。
我々は仕事をしたりモノを買ったりする以上の存在である。皆、企業の顧客であることや従業員であることの意味に疑問を抱き始めている。消費主義の行き着く果てには何があるのか?単に生計を立てる手段として働くことの何に意味があるのか?そういった問いが生まれている。
人々には購買意欲があるが、一方で、物理的な"モノ"で自分たちを定義づける風潮からは遠ざかり始めている。ビジネスもまた、それに応え、自らを再定義しなければならない。顧客と従業員の流動的な欲求や、 日々の生活に見出すより深い意味の探求をサポートする必要がある。我々は、所有物や職業のようなステータスに表現を頼らずとも、自分が何者なのかを示す方法を探し始めている。ここでは「し始めている」と強調しているのは、それは今でもハンバーガーを食べ、気分が良くなる様な服を買い、興味のある場所へ飛行機で行き、新品のキラキラした物を眺めながらそれを買えるかどうかを考えて(そしてしばしば余裕がないにも関わらず購入して)いるのが実態だからである。
人々が優先したいことは流動的になってきている。欲するものをより柔軟に自由に手に入れたいと望む一方で、その影響を気にしている。この意識の高い消費主義が行動を決める。
顧客が罪悪感を抱かなくて済む体験や、自らの存在と行動に満足できる新たな方法を提供することで、企業は意識の高い消費を望む顧客の欲求を満たすことができるだろう。
Trend05. 知性のデザイン
人工知能(AI) は日進月歩の発展を見せている。これまでのAIは主にオペレーションの自動化による効率性向上のために用いられてきたが、これからのAIは人間の創意工夫をサポートすることや、新たな価値を付加することを目的にしたものが増えるであろう。人間が持つスキルとAIを効果的に融合するシステムがデザインされることで、AIの応用範囲は革新的な事業戦略の策定や、複雑化する業務オペレーションの効率化、ひいては生活における様々な体験にまで広がる。
「知性のデザイン」は、AIが人間をサポートしながら協業するテクノロジーとしてどのように拡張・成長するかというトレンド。多くの企業が自動化から価値創造へとAIを用いる目的を拡張させるに伴い、よりダイナミックなツールへのアクセスが必要になる。
一方で、AIがもたらす社会的・経済的影響についても慎重に計画しなければならない。あらゆる業界の多くのビジネスでアルゴリズムを用いた意思決定が行われている中、アルゴリズムが人々の社会的思想を偏重させてしまうアルゴリズミックバイアスが懸念されている。そんな中、AIがもたらすバイアスの潜在的な課題に対する取り組みへの研究も進んでいる。例えば、アクセンチュアのアルゴリズム公正ツールは、機械学習を使って潜在的に偏向した訓練データを検知し、それを調整する方法を提案している。
AIのためのデザインは、人間の知性のためのデザインであり、人間と機械の関係を最適化することを意味する。Fjordでは、The Dock(アイルランドのダブリンにあるアクセンチュアの研究開発センター兼グローバルイノベーションセンター)と共同で、人間とAIの協業が持つ潜在能力を最大限解き放つためのデザインの役割について研究してきた。そして、今後数年において劇的な価値創造に寄与しうる人間とAIの協業領域として、「人間の能力の拡張」、「一層複雑化する業務の支援」、「新規製品・サービス創造」の3つを定義している。
Trend06. デジタルダブル
3Dやデータモデルのようなデジタルツインは、製造業の現場や産業界では既に確立されている。「デジタルダブル」は、それがもっと個人的なものになり、我々のバーチャル版を作る動きとなるトレンド。その動きに乗じてまず最初に、パーソナライズされた娯楽コンテンツが提供され、程なくして他のサービスとも結合したサービスが提供されるようになる。やがて最終的にそれは我々が(少なくとも理論上では)管理できる、我々のあらゆるデータのバーチャルホームとなる。近い将来、人々は自ら所有するアルゴリズムを使って、企業ではなく自分の利益を最優先にするエコシステムを設計して管理するようになる。
ブランドや公共サービスは、このような新しいデジタルダブルのためのデザインを学ぶ必要がある。金融サービス、ヘルスケア、職場など、デジタルツインが新しい領域に参入しつつある中、デジタルダブルを顧客に提供するソリューションを予測、最適化、パーソナライズするための欠かせないツールとして認識する企業が増えている。
企業は、顧客のデジタルツインの信頼できる管理者として選ばれるために、信頼や安全性をどう確立するか考えなければならない。また、個人のデジタルダブルの体験を、魅力的で透明性が高くシームレスに設計することが重要。
Trend07. 生命中心デザイン
我々の要望やニーズは変化を続けている。人々の焦点は「me(私)」から「we(私たち)」に移りつつあり、自らの消費行動がそれぞれにとって重要な社会的、環境的、政治的な大義に資するものであってほしいと望んでいる。
この変化に応じて、企業はビジネスモデルをデザインし直す必要があります。その時に取り入れるべき考え方は、作家ジョン・サッカラによる、人間だけではなく生きるもの全ての生命のためにデザインするという「生命中心デザイン」。
「生命中心デザイン」は、desirability(魅力性)、viability(成長性)、feasibility(実現可能性)のベン図の中心にくるものの価値が、私たちのデザインが生命中心へ進化することに伴い、根本的に変わりつつあるというトレンド。
長年、多くの人々から支持されてきたユーザー中心と人間中心のデザインは、しばしば人々とエコシステムを切り離してきた。今では、人間を全てのものの中心ではなく、エコシステムのあくまで一部として捉えなければならない。これは、個人とコミュニティの、それぞれ異なる2つの価値のためにデザインすることを意味する。この試みを成功させるには、デザイナーはこの複雑さに正面から向き合い、システム思考とデザインを最も適したバランスで組み合わせる必要がある。
結論
2020年に、我々は世界や自らが世界に及ぼす影響についてこれまで以上に学び、重要視するようになる。そして、人々が重要視することはビジネス、テクノロジー、デザインのあらゆる領域において、ますます反映され、革新的で敏感な企業はそれに応えることによって、かつてない方法で顧客の欲求を満たすことができる。
変化を続ける世界において、目的と金銭的利益を効果的に両立させつつ、個人にとって新しく意味のある価値を創造できるブランドのもとに成功がもたらされるであろう。企業は、インテリジェントで倫理的かつ魅力的な体験を届けることによって、顧客が消費に対する見方を変える手助けをすることができる。
「原理原則の再考」によって、スタートアップ企業だけでなく、従来型のビジネスを行う伝統的な企業も協力し、産業全体での象徴的な革新が引き起こされていく可能性がある。様々な市場においてそれぞれのペースで変化が起こるにつれて、二段変速モデルが現れる可能性もある。新興市場は、際限の無い消費を行う先進市場の慣習を飛び越え、バランスをより強く重視するようになるかも知れない。人々の習慣や行動も、より一層流動的になり、従来の定量的に計れる属性としては一見矛盾しているかのようなセグメント間を絶えず行き来するだろう。
新しい現実がどのように展開しようとも、Fjord Trends 2020で提言する各トレンドが明らかにしているのは、未来のサクセス・ストーリーは長期的な視野を持って変化を受け入れ、前向きな行動をとることができる企業の手にある。複雑であり続ける世界において、地球や社会に自社が与える影響を常に考えながらすべての生命のためにデザインする企業が、現在、そして、未来において成長するであろう。