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物質や時間に縛られない心の感覚とは

コートヤードHIROOガロウにて畑山太志個展「未来の数」および畑山太志キュレーションによるグループ展「Light Echo」が、2023年8月4日(金)から27日(日)まで開催される。ガロウ1Fで畑山の新作を、2Fでグループ展を展示する。

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「人は本来、物質的自然の中に住んでいるのではなくて、魚が水の中に住んでいるように、心の中に住んでいます。」という、数学者の岡潔の言葉に対する畑山の解釈が作品に散りばめられた構成となっている。印象派とも、シュールレアリズムとも、エクスプレッショニズムともいえない畑山の「素知覚」を探求する展示だ。

グループ展「Light Echo」は「Rejoice! 豊かな喜びの証明」(アキバタマビ 21、2020、東京)、「Rejoice! 豊かな喜びの証明Ⅱ: Kairos」(セゾンアートショップ、2021-2022、神奈川)に続く3回目の展覧会。

畑山太志個展「未来の数」

この先に起こる物事の可能性はいくつもの入口を開けて待っている。あるひとつの入口はなにかの始まりかもしれないし、もしかしたらなにかの途中に入りこむことかもしれない。あるいは先に向かうことだと思っていたとしても、それが過去につながっていくこともまたありえることだ。今この瞬間にも私たちを取り囲んでいる時空は、ある形を保ちながらも歪んでいて、別のところから別のところへと自在に行き来することが可能なものだ。仮に私たちが線的な時間のうえで生きているのだとして、未来という言葉はただ単純にこの先を指し示す指標ではない。パラレルな線に移動すること、過去に進むこと、リニアな形を無効にすること。どれも未来である。   畑山太志

グループ展 「Light Echo」(キュレーション: 畑山太志)
上田智之、菅原彩美、畑山太志、塙康平 

数学者の岡潔は、花を見て美しいと感じる心の地下水脈に「情緒」という名を与えている。可視化されるものでなければ、その存在はないものとされてしまうものに対して先人たちはさまざまな仕事をしてきた。レイチェル・カーソンによる「センス・オブ・ワンダー」もまた不可視の水源のひとつだろう。私たちの心深くに胎動するものを、過去ふたつの展覧会では、大江健三郎の小説『燃えあがる緑の木』でこだまする「Rejoice!」という掛け声で震えを起こさせようとしてきた。そしてその響きは失われることなく、本展覧会へと反響を伝える。

上田智之は、実際に経験した光景をもとに丹念な写生を繰り返し、透明水彩による繊細な薄い絵具の重なりによって、鮮明な輝きを透明な層にとどめる。その濁ることのない層において一瞬と永遠のイメージを定着させる方法は、残響のように記憶のなかにある私たちがかつて見た光景に響いていく。菅原彩美の油彩画は、音の響きそのものが画面上で波紋を起こし、前後の時間感覚を歪ませるような高波動の視覚的音楽が結晶している。強い求心力をもつその絵画と対峙することは、可聴域の外側の世界に身を浸すことにほかならない。畑山太志は、絵画作品によって不可視の次元を顕在化することを試みている。私たちが生きる時空は均一で揺るがないものでは決してなく、無数の存在たちと複数の時間・空間が多方向に共存する次元であることを捉え直していく。塙康平による光沢ある黒い紙にペンを用いたドローイングは、作家自身の具体的な 経験から想起された海景や花畑などが描かれる。それらは粒子状の光のハレーションを起こしながら、子どものころの内なる感覚や、内省的な感情の響きを深く繊細に伝えてくる。今ここには存在しないとされるものをこの場に召喚して、不可視の存在を確かめるためにエコーは鳴り響く。私たちはその響き合いのさなかで、心の在りかを見つめることになる。   畑山太志

畑山太志

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1992 年神奈川県⽣まれ。2015 年に多摩美術⼤学美術学部絵画学科油画専攻卒業、2017 年に同⼤学⼤学院美術研究科修⼠課程絵画専攻油画研究領域を修了。視覚では捉えることができないものの、⾃然の場で⾝体が確かに感じ取る空気感や存在感の視覚化を試みる畑⼭は、彼が「素知覚」と呼ぶ、知覚の外側ではない本来⾝体が持っているはずのありのままの知覚を⼿がかりに、⽬に⾒えない世界を表象する。2014 年に⽩を基調とした絵画作品で「第 1 回 CAF 賞」の優秀賞と名和晃平賞を同時受賞後、⾃然のさまざまな現象が持ちうる環世界や植物が多様な⽣物とともに形成するネットワーク、さらにはデジタルや AI までをも含みこむ現代における新たな⾃然など、多様なモチーフをベースに制作を展開する。

上田智之

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1982 年東京都⽣まれ、北海道育ち。2010 年に東京芸術⼤学美術学部絵画科油画専攻卒業、2018年に同⼤学⼤学院美術研究科修⼠課程絵画専攻を修了。⽇常で⽬にする空や野花・野菜などをモチーフに、紙に透明⽔彩による絵画作品を制作する。丹念な観察を通じて描かれる上⽥の絵画は、⾝の回りにある事物の普遍的な美を⾒出し、簡潔な要素によって絵画の透明性と純粋性を探求する。

菅原彩美

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1990 年東京都⽣まれ。2015 年に多摩美術⼤学美術学部絵画学科油画専攻卒業、2017 年に同⼤学⼤学院美術研究科修⼠課程絵画専攻油画研究領域を修了。油彩画やガラスペンによるドローイング、⽴体作品、詩を制作する。豊かな⾊彩と重厚な油絵具の質感を特徴とする菅原の絵画は、⽔晶などの鉱物を覗き込むような⾃他の境界が曖昧になる領域での瞑想的な絵画空間を⽣み出す。ガラスペンによるドローイングでは繊維状の筆致が無数に絡み合い、神話的なナラティブを喚起する。

塙康平

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1991 年茨城県⽣まれ。2015 年に多摩美術⼤学美術学部絵画学科油画専攻卒業、2017 年に同⼤学⼤学院美術研究科修⼠課程絵画専攻油画研究領域を修了。⼤学院修了後、ドイツに滞在し帰国する。ドローイングや写真、インスタレーションなどさまざまなメディアを通じて、幼少の頃から抱く感覚や⾃⾝の内省的な経験を主軸に詩的な空間を作りあげる。ドローイングでは、紙にペンや⾊鉛筆などの軽やかな描画材によって星々が輝く海や宇宙、⼈型のモニュメント、花々などが描かれ、とりわけ近年、塙が重点的に取り組んでいる光沢ある⿊い紙を⽀持体に⽤いた作品は、⾒る者を触覚や湿度を伴った粒⼦的な光の空間体験に誘う。

畑山太志 個展 「未来の数」 グループ展 「Light Echo」開催概要

会期2023年8月4日( 金 )~ 8月27日( 日 )
会場 コートヤードHIROOガロウ
時間12:00 - 19:00
休廊日月曜日(祝日オープン)
協力EUKARYOTE
URLhttps://onl.tw/31RyASf